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花の乙女  作者: 姫柊ほの
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桃の乙女編 6

 「これからよろしくね? 桃香ちゃん。」


 堅くなった雰囲気を和らげるように、千虎月白が桃香に笑いかけた。


 「やれやれ、俺たちの中で、蒼が一番最初に嫁が決まるとはなぁ。」


 蒼の肩に手をかけながら、玄導玲黒が冷やかしてくる。

 普段から、蒼がはにかむ姿を見慣れていない他家の次期当主たちは、その姿を見られたことを喜び、そして羨ましくも思い、それぞれに祝の言葉を蒼に送っていた。


 「そろそろ異動するか。講義もあるが、とりあえず俺らの部屋へ行こう。そこからなら、オンラインで講義も受けられる。」


 なかなか話が尽きないが、頃合いを見て緋王が声を掛けた。


 「このままサボってもいいんだけど~。」


 そうおどける月虎に、怜黒が後ろから羽交い絞めにしながら、連れて行こうとしている。

 蒼は桃香に優しい笑みを投げかけながら、手を差し出した。


「桃香も来るといい。さっきみたいに絡まれるのもなんだしな。」

「はい。」


 桃香は嬉しそうに微笑んだ。が・・・。


 「あっ。」

「どうした?」

「友達も一緒に行っても良いかな?」


 桃香は小首を傾げ、蒼の顔をのぞき込んだ。

 蒼は急接近してきた桃香に、少し戸惑いながらも胸の高鳴りを覚え、耳が赤くなっていくのを感じた。

 他家の次期当主達は、自分たちにもあまり見せない蒼のそんな姿を、嬉しそうに見つめている。

 他の三家の次期当主たちも、そろそろ婚約者を選ばなければならない時期を迎えている。それは当人も重々承知している。だが、それぞれに思うような相手が現れてはいない。

 当然、次期当主ともなればそれなりの貴族当主から令嬢の紹介を受ける。だが、それぞれに何故かわからないが、物足らなさを感じていた。


 そんな中、蒼に近付いてきたのが、最近では数少なくなってきた『花の乙女』である桃香だった。

 しかも、「天下無敵」の意味を持つ乙女だ。

 彼らは希望を見つけられたように感じた。


 「「「自分たちも、最強の意味を持つ『花の乙女』を見つけられれば・・・。」」」


 次期当主ともなれば、『心』よりも『格式』を重んじる。

 要するに、『恋愛』という感情は必要ないのだ。ただ、それぞれの家門を途絶えさせることなく、かつ繁栄させる事が出来る相手であれば、それで花嫁の条件を満たしたことになる。

 だから、そういう相手を探していた。しかし、紹介される令嬢や、見合いを持ってくる貴族達は、どちらかと言えば、その見た目の麗しさや地位に魅せられて寄ってくるいるだけで、自分自身を見てくれている訳ではないことが、出会った瞬間に分かってしまう。

 だから、そこには虚しさだけが漂うだけなのだ。

 そんな中、蒼の前に『花の乙女』が現れた。

 普段、冷静で感情を表に出さない筈の蒼が、桃香の仕草に耳まで赤くしている姿を見て、嬉しくもあり、羨ましくもあったが、自分たちにも心揺さぶられるほどの愛しいと思える存在が現れるのではと、希望が持てた。


 「友達?」

「うん、幼馴染みなの。姉妹みたいにずっと一緒に居るのよ。」


 桃香は大きく手を振って美櫻を手招きしている。

 美櫻としては、あまり目立ちたくはない。だが、桃香が呼んでいるのにあからさまに避けられる訳もなく、渋々彼らの輪の中に歩を進めた。


 「彼女・・?」


 このような騒ぎになってしまい、桃香はもう普通の大学生活を送ることが出来ないことは分かっていた。

 四家に関わる事なのだ。しかも、龍家次期当主の花嫁候補に名乗りを上げた。これからは、自身の行動にも制限がかかることも、今まで通りの生活は送れないことも理解している。

 でも、桃香は美櫻との関係を諦めたくはなかった。

 幼い頃からずっと姉妹の様に過ごしてきたのだ。

 その関係は、自分たちが生きている間は壊れることなく、ずっと続いていくものだと信じている。

 だから、龍家次期当主に選んでもらえたとしても、美櫻との関係を手放したくはなかった。


 「彼女も『花の乙女』なのか?」


 緋王が聞いた。


 「いいえ、美櫻は『乙女』ではありません。」

 「あぁ、蒼が許したんだ。俺たちにも対等に話して良い。」

 「ありがとうございます。」


 桃香は少し安心した顔をした。

 この国を支える四家の次期当主達の前なのだ。普段、あまり緊張しないと言っている桃香であっても間違った対応をしないかと不安でもあったようだ。


 「美櫻は見た目は地味に見えるけれど、素顔はすごく美人なの。本当に『花の乙女』じゃないかと思うけど、でも・・・。」

 「そうか。」


 皆の注目が美櫻に集まる。

 そんな中、四家の次期当主のいる輪の中に入らなければならないのは、美櫻にとっては憂鬱だった。

 桃香に呼ばれたものの本当は避けて通りたいと思いながらも、桃香のためにと美櫻は近付いていった。


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