表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花の乙女  作者: 姫柊ほの
5/18

桃の乙女編 4

 互いに見つめ合う桃香と蒼の間には、甘い香りが漂っている。桃香は想いを届けるように、より一層熱い視線を蒼に向ける。


 桃香と蒼はずっと昔に出会っていた。

 桃香が『花の乙女』に目覚めるより前、父に連れられ、とある貴族のパーティに参加した時期があった。

 集まった貴族は少ないのだが、四家の当主がそれぞれにこれからこの国を背負っていくであろう次期党首となる子息を披露目するパーティが開かれると招待を受け、有力貴族達がその子息、令嬢を連れて参加したのだ。

 何せ次期党首となる子らの披露目のためのパーティだ。それぞれの子息達は、次期党首の参謀となるべくアピールし、令嬢達はその花嫁の座を狙ってアピールした。

 当然、そのパーティに参加した桃香も、四家の子息達に順に挨拶をした。そして、龍雅花蒼に初めて挨拶した時、その姿があまりにも印象的で、あまりにもきれいで、囚われてしまったのだった。

 それらのパーティに参加していない美櫻は、桃香からその時の話をウンザリするほど聞かされた。

 別のパーティに参加して、蒼と再会した時も、ずっと同じ話を聞かされた。

 本当に蒼の事が好きなのだと・・。それは、その身を捧げても良いと思えるほどだと言うことは、美櫻も桃香の姿をみてわかっていた。

 そして、それだけの想いを持って慕う相手が現れたことを、美櫻は羨ましくも思った。



 「私は、『桃の乙女』にございます。」


 桃香は頬を赤らめながら蒼の問いかけに答え、その潤んだ瞳を向けた。

 蒼はその姿を見て、胸の奥が熱くなってくる感覚がした。


 「・・『花の乙女』は、その花の意味を持つと聞いているが、お前・・の『花』の意味は・・?」


 桃香は再びお辞儀をしながら、蒼に自分の想いを伝えていく。


 「以前、パーティであなた様をお見かけした時からお慕いしておりました。私の花の意味は、『わたしはあなたの虜』。」


 桃香は顔を上げ、今度は引き締まった顔つきで蒼を見上げた。


 「そして、『天下無敵』でございます。」


(ドクン!)


 蒼の鼓動が波打った。


 (天下無敵? それを手に入れられる・・のか? 俺が・・?)


 蒼は龍雅花家の跡継ぎだ。家督を継ぐ身としては、「天下無敵」という言葉は、喉から手が出るほど、いや、どんな事をしてでも欲しいものだ。

 桃香の意味を聞き、その想いを馳せていた。


 (どんな事をしてでも手に入れたい意味だ・・。しかし、それよりも・・・。)


 蒼は桃香の瞳を見つめた。『桃』の花の髪色と瞳。

 確かに「天下無敵」は、是が非でも欲しいところである。


 (だが、それ以上に、俺はこの瞳が欲しい。俺だけのものにしたい・・。)


 蒼は吸い込まれるように手を伸ばす。



 「わかった。お前を受け入れ・・・。」

「お待ちください!!」


 蒼の言葉を遮るように、女性の声が響いた。


 「はぁ・・・。またお前か・・・。」


 蒼は大きく溜め息を付いた。他家の次期党首達も、「やれやれ・・。」という表情を隠さない。

彼女の名は『黒埜(くろや)百々(ももり)』と言った。自称『百合の乙女』だと名乗りを上げている。

 桃香より1年早く入学した百々莉は、入学当初から蒼に向けて猛アピールしていた。


 「自分は『百合の乙女』だ。」と・・・。

 「あなたには、私しかいない。」と・・・。


 貴族ではないのだが、代々国の要人として深く政治に関わってきた家系である。なので、当然四家との繋がりは昔からあった。

 百々莉も幼少の頃から蒼の存在を知り、会う度に接点を作り、権力を誇示したい親と共にアピールし続けてきた。はずだった。

 だが、そんな彼女と両親を、蒼は冷たくあしらった。幼心にも、彼らの魂胆が見え見えだったからだ。

 特に父親に関しては、(あわよくば、四家の一角を崩し、いずれは自らがこの国を動かす存在になるのだ。)という意志を隠さず、その不貞不貞しさが目に余ってきた。

 娘が「乙女」になったと知ってからは、余計に度が増してきた。

 蒼はその事を党首である父親や、他家の党首から重々聞かされてきた。

 元々、「四家」とは、なりたくてもなれるものではない。ましてや、取って代われる存在でもない。

 「四家」であるからこそ、その存在の意味があるのだ。

 だが、最近になって頭角を現してきたごときの新来者である黒埜家には、その重みなど知るよしもなかった。

 ただ、取って代わって権力を握る事が出来れば良いのだ。

 その為なら、「乙女」となった娘でも利用する。

 だが、父親の思惑とは裏腹に、幼い頃に「乙女」として目覚めた百々莉は、蒼に出会った瞬間、その美しい姿に魅せられた。

 誰の為でもない。

 自分の為に、蒼と「永遠の絆」を作りたかった。

 だから、蒼と同じ大学に進学し、1年かけて猛アピールしてきたはずだった。


 (私、あなたに全て捧げると伝えた・・。なのに、何? どこの馬の骨とも知れぬ、あの女などに!)


 百々莉の感情に、憎悪が入り交じっていた。

 1年かけてアピールしてきたのに、蒼に届いた事は1度もなかった。なのに、初対面の桃香の想いに応えてようといる。


 (そんなこと、許さない!!)


 百々梨は蒼の前に歩み出た。

 毛先を漆黒に染めた少しピンク掛かった白い髪をなびかせながら、苛立ちを隠すことをせず、けたたましい足音を立てながら近付いてくる。

 蒼は桃香を自分の後方へと促し、他の次期当主達と共に百々梨と対峙した。

 美櫻は桃香に駆け寄り、その場から離れ、保護しようとするが、桃香は蒼から視線を離さず、その場を離れようとしない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ