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花の乙女  作者: 姫柊ほの
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桃の乙女編 3

 毎年、学校が長期休みに入ると、そのほとんどを志筑家の別荘で過ごしていた。木々に覆われた広い敷地には、桜、桃、梅、木蓮、花蘇芳、ミモザなどの花の咲く木々が植えられ、花壇や庭も整えられているほか、観賞植物用のガラスハウスもあるので年中花が絶えることがなく、また室内に小さいながらもプールがあるので、長期休みを過ごすにはもってこいの場所なのだ。

 午前中に宿題や家庭教師による勉強を終えた二人は、午後のひと時、このプールで「休み」を堪能していた。

 小学校高学年に上がった年の夏休み、二人はいつもの通りこの別荘にやってきた。

 午前中に宿題と、家庭教師による勉強を終え、早い昼食を済ませた昼下がり、二人はプールにやってきた。

 通っている小学校にはプールが無いので、かといって日焼けをしたい訳でもないから空調も整っている室内プールで、志筑家のメイドさん達大人の監視の下、二人は水遊びを楽しむのだ。

 そして、それぞれ購入した好みの水着を、プールサイドをモデル気分でお披露目するのも楽しみになっていた。

 この年は高学年に進級したこともあって、「少し大人びた水着」がテーマとなっていた。

 それぞれ別の部屋で着替えをすませ、上着を羽織ってプールサイドに到着した。まず、美櫻が選んだ水着を披露した。

 音楽をかけ、プールサイドを少し恥ずかし気に上着を脱ぎながら、モデルを意識してぎこちなく桃香に向かって歩いてくる。

 去年までは原色カラーのシンプルなワンピースの水着を選んでいた。今年は同じワンピースでも胸元と巻きスカートに大き目のフリルをあしらい、シンプルなデザインだが両脇に大きくスリットが入っていて大きく広がる背中には編んだ紐がセクシーで少し大人っぽく、淡いピンク色が美櫻の華奢な白い肌によく似合っている。


 「へへっ、ちょっと攻めてみたけど・・・。どう?」

「すっごく良い。美櫻の白い肌に、ピンク色が良く似合ってる。大人っぽいけどカワイイって感じで良い。」


 恥じらう美櫻に桃香はグーサインを出して、ウインクしてみせた。


 「次は私の番ね。」

 桃香はスッと立ち上がり、プールサイドを歩いて行く。その姿は、少しそわそわしつつも、早く見せたくてうずうずしているように伺える。


 「オッケ~。美櫻~、曲かけて~。」


 所定の位置に到着し、桃香はスピーカーから流れる軽快な曲に合わせてゆっくりと歩き始め、そして焦らすように上着を脱いでいく。

 桃香も今年のテーマに合わせて大人びた爽やかなグリーンの生地に小さなピンク色の花びらが舞っている様な柄のセパレートタイプの水着を選んでいた。

 桃香が上着を脱ぎきったところで彼女の世界観が広がり、この空間を支配していく様に感じた。

 まるで、水着の模様の花びらが穏やかな風の中を美しく広がり、舞っている様な感覚・・・。その美しい光景に、美櫻は息を呑んだ。


「どう?」


 不思議な感覚に包まれていた美櫻の元に到着した桃香が話しかけてきた。桃香も思い切ったデザインを選んでいるので、率直な感想を聞きたいようだ。自分に魅とれてボーッとしていると思われているからか、桃香の表情は嬉しさで紅潮し、それが一層大人びて見えた。


 「美櫻・・・?」


 いつまでも返事がないので、桃香は顔を近づけて話しかけてきた。

 我に返った美櫻は、あまりにも近づいた桃香の顔に照れてしまい、慌てて立ち上がった。


 「すっっごい良い! ちょっと大胆!! でも、すっっごく似合ってる。」

「良かった~。」


 桃香は安心した顔で笑った。その顔は今までどおり、あどけなさが残っている。いきなり大人びた美しい姿を見せたので、美櫻は自分でも焦ってしまったんだと感じた。

 今度こそ落ち着いて桃香の姿を眺めてみる。美櫻に比べてよく成長している胸が、ちょっと羨ましく思った。


 「あれ?」

「どうしたの?」


 美櫻は桃香の左胸の下に、濃いピンク色の痣を見つけた。いつもなら二人ともワンピースなので、見つけられなかった場所にある。


 「その左胸の下の・・・。痣・・・?」

「あぁ、見えた?」


 桃香は舌をペロッと出し、少しおどけながら水着の裾をめくって痣を見せた。どうやら、この痣の存在も見せたかったようだ。


 「これ、産まれた時からある痣なんだよね。」

「そうなの?」

「うん。」


 桃香が産まれた時からその左胸の下、少し脇寄りに花びらの様な痣は現れていた。両親、とりわけ祖父はその痣を見て、大昔、志筑家の初代党首の花嫁を思い浮かべていた。彼女にも花びらの模様の痣があった。それはひとひらの桃の花のようであったと言われている。

 桃香の痣と見比べてみると、言い伝えによる初代党首の花嫁の躰にあった痣よりも、桃香に現れた痣は、その花びらの形や色が鮮やかに浮かび上がっており、その数も3枚ほど確認できる。

 それを知った両親や祖父はたいそう喜び、その足で美櫻の家、斎樹家の宮司に名付けを依頼した。

 もちろん、花びらの話は伝えており、初代党首の花嫁の話も、斎樹の宮司は知っていることだった。

 そして付けられた名が、桃の花の香り漂う「桃の乙女」となることを願い、「桃香」と書いて「とうか」と名付けたのだった。


 「わたしね、「桃の乙女」になるの。だって、初代当主の花嫁様と同じ痣だよ? それも花びらの数が多いって聞いたの。だからね、絶対「桃の乙女」になるんだ~。」


 キラキラしたマロンブラウンの瞳で、同じ色の髪をかき上げながら、桃香は言った。


「うん、桃香なら絶対になれるよ。だって、桃香きれいだもん。」

 美櫻はそれを自分の事のように喜んだ。



 「乙女」の中でも、「桃」は稀少で、「さくら」に至っては「伝説的」であった。それぞれの親が花の名前が入ることを希望し、神社である斎樹家の宮司によって名付けられたのだが、二人ともそれぞれの「乙女」になれることを願っていた。


 「ねぇ、美櫻。」

「なぁに?」

「花の乙女になれたら、私たち、どんな意味を持てると思う?」

「うぅ~~ん。私のさくらって、あんまり聞いたこと無いんだよね~。」

「そうよね~。さくらって、花言葉でも「精神の美」とか「優美」とか、あと「純潔」?だったっけ?」

「そうなの。だから、どんな意味を持つのかわからないんだよね~。」


 二人はよく「花の乙女」になった時のことを想像した。乙女になれば、その花から意味を授かる。そして、その意味をもって、自分が想う男性に自分ごと捧げるのだ。


 「「ロマンチック~。」」


二人して頬を赤らめ、思いを馳せた。乙女になれば、一途に一人の男性を慕う。そして、相手の男性に一途に慕われ、相思相愛となり、その後の人生を共に慕いあいながら過ごし、生涯を終えるのだ。


 「先に人生を終えたとしても、花を渡した男性を守るなんて、それこそロマンチックよね~。」

「うん、そう思うよ。でもさぁ、私の『さくら』ってさぁ、特に『白のさくら』なんて今まで産まれてこなかったらしいし・・・。」

「そうだよね~、父様達も聞いたことないって言ってたしね~。」

「ねぇ、桃香は?」

「なに?」

「桃香は乙女になったら、どんな意味を持ちたいの?」

「そうね~。わたし、けっこう一途な感じだから、『わたしはあなたの虜』とか・・・。」

「それ、素敵~。」

「後はね~・・・。○○○○!よ。」


桃香はそう言って、小悪魔的にウインクしてみせた。


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