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花の乙女  作者: 姫柊ほの
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桃の乙女編 2

 美櫻と桃香は、幼い頃から同じ時間を共に過ごしてきた。

 桃香は上流階級の子女で、美櫻は中流階級出身。本来なら接点の無い二人なのだが、志筑家は神社を営んでいる斎樹家によく出入りしていた。会社を経営している桃香の父は、何かにつけて参拝し、宮司である美櫻の父によく相談にきているのだ。なので両家は昔から親同士が仲が良く、また娘同士が同じ年頃と言うこともあり、家族ぐるみの付き合いをしていた。

 斎樹家は、年に数度志筑家からの誘いを受け、別荘に招待されていた。

 神社を留守にすることが出来ない父を残し、また最初の1週間は母も一緒なのだが、それ以上居ると「家の中がぐちゃぐちゃになるわ。」と志築家に美櫻の世話を託し、上げ膳据え膳の捨てがたい環境を後ろ髪を引かれながら帰っていくのだ。

 母が帰った後、美櫻は桃香の部屋で一緒に勉強して、一緒のベッドで寝て、四六時中一緒に、姉妹以上に仲良く過ごすのが毎年の楽しみとなってた。

 美櫻にとっても、桃香にとっても、この別荘で過ごす時間は、普段はお互いに一人の時間が無くなり、気の合う話し相手も居るので、とても有意義で楽しく過ごすことが出来ていた。


 そんな中、いつもと違う事柄が起こったのは、桃香と美櫻が中学校に入学して間もない頃だった。

 桃の花が咲き誇る季節。

 桃の節句の準備のため、志筑家と桃の花を採取するために出掛けた先で、桃香はひときわ目立つ桃の花の甘い香りに誘われて、桃の古木に近付き、両手で触れた。

 その時だった。

 美櫻はその桃の古木から桃香に向かって伸びる、「桃の木の精」を見た気がした。「桃の木の精」といっても少し濃い目のピンク色した透明な枝のようなものだ。その枝が桃香向かって伸び、包み込むように絡みつき、彼女の躰に吸い込まれていく。その間、桃香は瞬き一つせず、固まったように動かなかった。

 その美しくもある光景に、瞬き一つせず見ていた美櫻の後方から、同じく桃の花を探しに来た桃香の母親が、両手で口元を押さえてその様子に魅入っていた。その頬は紅潮しており、嬉々としているように見られる。

 すべての枝が吸収され、桃香の躰が桃の古木の枝によって静か地上に降ろされた。母親は急いで駆けつけ、桃香の躰を抱き上げた。


 「あぁ、桃香、桃香!」


 美櫻も桃香の元に駆けつけ、その様子を見守っている。


 「おばさん・・・。桃香は・・・。」


 桃香の母親は、その言葉で美櫻の存在に気付いたようであった。


 「あぁ、美櫻ちゃん。」


 のぞき込んだ桃香の髪色は、マロンブラウンから濃い桃色に変化している。


 「急いで主人を、桃香の父親を呼んできて。」


 美櫻は軽く頷いて、急いで桃香の父を呼びに行こうとした。


 「あぁ、それから、今見たことは誰にも言わないで。」


 美櫻は再び、今度は深く頷いて、走り出した。


 (桃香・・・。「花の乙女」になれたんだ・・・。)


 美櫻はそれを嬉しくも思い、また淋しくも思い、複雑な気持ちで桃香の父親を呼びに走った。

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