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花の乙女  作者: 姫柊ほの
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桃の乙女編 1

 この国の中枢には「四家」と呼ばれる、古来から繋がる家門がある。

 東の「青龍」と呼ばれる「龍」家

 西の「白虎」と呼ばれる「虎」家

 南の「朱雀」と呼ばれる「鳳凰」家

 北の「玄武」と呼ばれる「玄」家

 それぞれの家門の者には、四神の「印」、御身の一部ががその体に痣となって現れる。

 そして、完璧な形と色が顕現した者が、例え家門の位が下であったとしても当主となり、国に仕える。

 四家は影となり、日向となり、その類い希なる能力を駆使し、不可思議な現象である「邪」と戦い、国を守ってきた。

 

 だが・・・。

 殆どの人は知らない。

 国の守りの要となる「四家」を統べる「麒麟」の存在を・・・。



 四月。桜の花が満開の下、新しい制服に身を包み、入学式に向かう学生で賑わう通学路には、これから始まる高校生活に期待を膨らませた新入生達が、頬を紅潮させながら校門へと入っていく。

 (自分にも、あんな初々しい時期があったな・・・。)

 「斎樹(いつき)美櫻」は、3月にこの高校を卒業し、すぐ近くにある大学へ進学した。別に進学するつもりはなかったのだが、高校卒業してすぐに働く気にもなれず、特別にしたいこともなかった事もあり、両親の薦めで高校からエスカレーター式で大学へと進学した。

 もともと、美櫻は勉学が出来た。なので、推薦を受けることは簡単だった。


 「これから、ここで大学生活が始まるのか・・・。」


 高校生活での女子達は、自分磨きを怠らなかった。

 制服も自分好みにカスタマイズし、きれいにお化粧も施して、それだけでも美櫻にとったら華やかなイメージがあった。だが、特におしゃれに興味が無かった美櫻にとっては馴染めない雰囲気なので、周りとは一線を引いて孤立していた。

 勉強が出来るということもあり、虐めに遭っている訳ではなかったので、無難に高校生活を送ってきたが、一歩足を踏み入れた大学の構内は高校とはまるで違う華やかさで、普段通りの地味な格好をしてきた美櫻は軽く引け目を感じてしまった。


 「美櫻~。おっはよ~」


 家が近いこともあって、幼い頃からの親友、「志筑桃香(しづきとうか)」が後方から手を振りながら近付いてきた。

 美櫻と違って高校時代からお化粧やおしゃれに気を遣っていた桃香は、女子力高めのメイクに少し大人びた女子大生っぽい服装で、既にキャンパスに馴染んでいる。


 「おはよう、桃香。」

「美櫻~、またそんな地味な格好して~。その眼鏡もどうせ伊達でしょ~?」


 美櫻は普段から自分の格好に無頓着だ。

 腰まで伸びる黒髪は風になびくと綺麗だが、黒縁の大きな眼鏡をかけ、服装も無地のブラウスに無地の淡い色のワンピースといった格好だった。


 「基はいいんだし、せっかく大学生になったんだから、ちょっとはおしゃれを楽しもうよ。」


 桃香は美櫻に向かって軽くウインクをしながら、伊達メガネを外そうと手を伸ばしてきたが、美櫻はそれをスルリとかわし、瞬時に2歩ほど後ずさりした。


 「いつもの事じゃない。」


 瞬時に動いたことを周りには気付かせず、また桃香も「また逃げられた・・。」と、空を掴んでしまった手を上げて、いつものようにおどけた。


 「っていうか、それよりも桃香、その髪・・・。」


 学生時代、小学校から高校までは校則があり、皆髪色は黒か黒に近い濃い色と決められていた。それは、本物の「花の乙女」であっても例外でなかった。

 上流階級子女が入れる「花の入れ墨」は、成人してからが多い。そして、入れ墨を入れると共に、髪色も入れ墨の色に合わせ、『乙女』のように振る舞うようになる。

 だから、成人するまでの年齢、高校卒業するまでは、比べられる事のないよう、統一されていた。

 元々、『乙女』の数も減ってきていることもある。なので、『乙女』を守るという目的もあったようだ。

 桃香も濃いブラウンの髪色で学生時代を過ごしたのだが、校則が無くなった今、自身の「名」に因み、濃い桃色になっていた。


 「だって、やっと厳しい校則から解放されたんだよ? なりたい髪色にしたいじゃん。」


 辺りを見回してみても、多くの子女が自分の好きな髪色になっている。

 だから、桃香の髪色も特に目立つ色ではなかった。

 だが、桃香の秘密を知っている美櫻は、ちょっと心配だった。 


 「そんなに心配しなくても大丈夫だよ?」


 桃香はそう言ってにっこりの微笑んだ。その柔らかい微笑みが、周りを温かくし、惹きつける。

 美櫻は桃香に注意を促そうと声を掛けようとした時、キャンパスの入り口付近が大きくざわめいた。

 (何ごと・・?)

 周りがざわめきのあった方向へと視線を向ける。美櫻と桃香も、騒がしい方向へと視線を向けた。


 「『四家』の皆様よ。」

「今日は登校される日なのね。」


 周りの女性達からは黄色い悲鳴が、男性達からは尊敬の眼差しが注がれる中、四家の次期当主となる者達が現れた。

 青く、長い髪を束ねた深い青い瞳の「龍家」の次期当主、「龍雅花(りゆうがはな)(そう)」。

朱い髪をなびかせた、茜色の瞳の「鳳凰家」の次期当主、「鳳凰寺(ほうおうじ)()(おう)」。

 金色が混じった白い髪、少し朱色が混じった金の瞳の「虎家」の次期当主、「()(とら)(つき)(しろ)」。

黒髪に少し紫が混じった髪と、黒に紫がかった色の瞳の「玄家」の次期当主、「玄導(げんどう)(れい)()

 周りの注目を集めながら、だが、彼らはそれらには何の関心も示さず、4人は自分たちの校舎へと歩を進めた。


 「相変わらず、ここは騒がしいな。」


 龍雅花蒼が呟いた。


 「全くだ。」


 鳳凰寺緋王がそれに同調する。


 「いいじゃん。注目されるって、気持ち良いじゃん。」


 千虎月白は、注目を集めることに優越を感じているらしかった。


 「ははっ、月は気楽でいいのぉ。」


 4人の中で一番体格の良い玄導玲黒が、月白を笑いながら茶化している。

 4月に入り、無事に4人共進級し、3回生となった。

 登校するたびに沸き起こる騒がしい光景にはなかなか慣れそうにないが、それでも4人はそれぞれキャンパスライフを楽しんでいた。

 それぞれ、家に戻ると次期当主としての仕事が待っている。といっても、当主と共に行動し、そのサポートをするという事だけなのだが、それでも多くの人に囲まれ、一挙手一投足を監視されている感覚に陥る。当主となると、日々この状況が当たり前のように繰り返されるのかと考えると少々げんなりしてしまうのだが、目の前には目標とする当主の姿がある。威風堂々としたその姿に憧れもあるし、その姿を自分自身の理想の未来に重ね合わせながら、本家での生活を送っている。

 だが、まだまだ若い彼らにとっては、その生活は息苦しく感じる時もある。大学での時間は、そんな堅苦しい生活から解放される、有意義な時間となっていた。


多くの注目を集めながら、彼らはキャンパス内を颯爽と歩き進む。

 ふと、何かに気をとられたのか、龍家の次期当主、龍雅花蒼が足を止めた。


 「どうした? 蒼」


 普段から冷静な蒼が、辺りを注意深く観察するように落ち着き無く見渡している。不思議そうに鳳凰寺緋王が聞いた。


「んぁ? いや、花の香りが。。。」


 蒼はその香りをたどる。その目線の先には、桃香が居た。

 桃香は頬を少し紅潮させながら、少し潤んだ瞳で蒼を見つめている。優しい風が桃香を包み込んだ後、緩やかに蒼の方へとその香りを運んでいく。

 蒼は3人から離れ、桃香の方へと足を進めた。

 美櫻は桃香の後ろで彼女の服を引っ張りながら、どうにかこの場を離れようと促したが、桃香の視線は蒼に捕らわれたまま、その場を動かない。

 蒼はすぐに桃香の目前まで辿り着き、蒼の後を追って他家の次期当主達も集まって来た。


「お・・前は・・・?」

「志筑桃香と申します。」


 桃香は右手を胸の前に置き、左手でスカートの裾を少しつまんで、丁寧に挨拶をした。美櫻は、もう成り行きに任せて見ている事しか出来なくなった。


 「『花』の香りがした。お前、本物の『花の乙女』か?」


 美櫻は目を伏せた。

 そう、美櫻が知る「桃香の秘密」。

 それは、彼女が本物の「花の乙女」だということだった。


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