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花の乙女  作者: 姫柊ほの
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桃の乙女編 13

 「あの後、大変な騒ぎになってさぁ~。」


 当然と言えば「当然」の事ではあるが、この宣託に異議を唱える者が居ない訳がない。

 何が何でも麒麟家に入り込む方法を模索し、虎視眈々と狙っていた貴族たちにとっては、あり得ない事だった。


 だが、この件に関して最も異議を唱えたい筈である四家からは、何の反論も出なかったのだ。

 むしろ、その場の神聖さに圧倒され、またこれが真実の選択であるという意識を四家当主全員が持っていたため、この宣託を認めたという事になった。

 そうなれば、下位貴族ではいくら反論しても認められる訳などない。

 静まり返った園の中で、上座に居た四家当主は、桜に選ばれた者の元に集まり跪いた。

 これからこの国で一番力のある「麒麟家」の当主の伴侶となる者なのだ。自分達より上の位に立つことになる。四家当主はその証に彼に礼を尽くす。

 他貴族、麒麟家の使用人達は四家当主の行動に驚いたものの、麒麟家次期当主以外は皆四家当主に倣い、その者に対して跪いた。

 皆に跪かれた者は、いきなりの事で慌てふためいているが、四家当主が頭を下げているので、誰しもがそれに倣ったままだ。


 ただ、麒麟家次期当主だけは、その様子と微笑みながら見ていた。

 堂々とした佇まいだが、表情は穏やかだが、ほんのり上気しているように見える。


 「結局、その騒ぎの間に桜の乙女は笛を演奏していた者と共に姿を消しちゃってね~。おかげで未だにその乙女の素性は判らないままでさぁ~。」


 麒麟家当次期当主だけは「桜の乙女」の正体を知っているのではないかと問われていたようだが、「知らない」と突き放されたのだという。


 『ただ、あの場に「月の遣い」が舞い降りた』


 そういうことにしたいらしかった。


 そして、次期当主の相手に選ばれた者の手に残った桜の花を調べたところ、確かに白い色はしているのだが、伝え聞く「白き桜」ではなく、「彼岸桜」であることが判明した。


 「『彼岸桜』の持つ意味は『心の平安』ということだそうだ。」 


 実際、それ以降、次期当主は伴侶を選ばなけらばならないという強迫観念から解放された。

 他家からの釣書も無くなった。

 余計な考え事が減った分、次期当主に心のゆとりが出来、本来の仕事が捗った。

 麒麟家に、静かで平穏な時間が戻り、次期当主にとっては、文字通り「心の平安」が訪れたのだ。


 「僕はと言えば、その時の出来事がきっかけで、『乙女』の研究にのめり込んでしまってね~。そのついでに『邪』も対象にして研究してるんだよね~。」


 あの場に現れた「桜の乙女」の存在は、その後も調べたがわからなかったそうだ。

 白き髪を持つ乙女の存在は確認されてはいるが、皆『桜』ではなかった。

 まるで本当に『月の遣い』であるかのように、謎に包まれたまま月に帰ったのだという者もいる。


 そして、「桜の乙女」の存在と共に、不可思議な現象として捉えられていることがあった。


 『何故、四家当主は『桜の乙女』の宣託に疑義を唱えず従ったのか。』


という点であった。


 「四家当主だよ~? 普段は理にかなわない事は、とことん追求して納得しなければ許可なんてしないんだよ~? 」

「それが、何も言わずに膝を折った・・・。」

「それそれ~。『桜の乙女』は、四家当主よりも位が上という事になるのかもね~。」


 曉月教授はそう言いながら漣の方に近づいてきた。


 「ちょっと試してみたいとは思わない?」

「何をだ?」

「決まってんじゃん。もし、『桜の乙女』を目の前にしたら、四家次期当主は本当に『乙女』に従うのか。また、あまり知られていない『麒麟家』の次期当主は、『乙女』と出会うとどんな反応を見せるのか。だよ。」


 曉月教授が眼前に迫る勢いで近付いてきたため、漣はのけぞってしまった。


 「それに、今世はかなり珍しいことが起こっているよね~。何といっても、女の子しか恵まれなかった麒麟家に、初めて男の子が誕生したんだから、研究者としては試してみて欲しいと思うでしょ~?」

「俺に言う事じゃないだろ。同意を求めるなって。おい、近すぎるだろ。書類が崩れるぞ。」


 曉月教授は、近くの机の書類の山の上に手を置いて、漣を壁際に追い詰めていた。

 漣はと言えば、その場から離れることは出来るものの、そのために教授を振りほどけば、この書類の山が崩れてしまうため、躊躇していた。

 崩してしまってもいいのだが、そうなると片付けるのは漣自身だからだ。

 それをしたくないために、教授をどうにか振りほどこうと考えていたが、教授はなおも漣に近付き、その手で顔に触れた。


 「それに、『乙女』と言っても女の子だし~。麒麟家の次期当主とか関係なく、このかんばせで落ちるかどうか、試してみたいよね~。」

「あのなぁ、俺は他人に興味なんてねーよ。 ましてやキャーキャー騒がしい女なんて、うざったいに決まってんだろ。」

「あ~ん、そんなつれない事言わないで~。」 

「だったら自分で試してみりゃいいだろ。女子大生達に『イケオジ』なんて言われてるんだから、案外『乙女』もロマンスグレー漂う『渋オジ』好きかもしれないしな。」


 漣は意地悪くニヤリと笑いながら、反撃を開始した。

 逆に自分の顔を曉月教授に近付け、手で彼の顎をつまんだ。


 「この渋いイケオジのかんばせで、『乙女』を落としてみたらどうだ?」

「っ! いやぁ~、そのぉ~。漣くん? ちょっと近いよ?」


 曉月教授は、漣の反撃に少し怯んだ。漣はますます圧力をかけていく。

 いつもの事なので曉月教授も慣れているとはいえ、漣の迫力に押されていた。


 「ついさっき、俺に同じことしてたよな?」

「いやぁ~、それは、そのぉ~・・・。」


『『『『『 リ~ンゴ~~ン!!』』』』』


 「ヒャ~~~!!!」


 いきなり頭上で呼び鈴が鳴った。

 今日は来客があるので、奥の部屋にいる場合を考えて、先ほど音量を上げたところだった。

 大音量が頭上で響いたので、曉月教授は思わず両の手を上げてしまった。

 その勢いで漣は後退りしてしまい、その拍子に書類の山がばら撒かれてしまう事になってしまった。

 来客が来ることをすっかり忘れてしまっていた曉月教授は、慌ててふためいてしまい、机の角に自分の足をしこたまぶつけたうえ、余計に書類を散乱させるはめになってしまった。

 だが、曉月教授は散らばった書類をほったらかしにし、痛みを堪えて来客の対応へと向かう。


 (あぁ~あ、結局俺が片付けることになるんだよな~。) 


 床に散らばった書類の状態を見て、漣は深くため息をついた。

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