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花の乙女  作者: 姫柊ほの
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桃の乙女編 10

「どう? 少しは緊張が解れた~?」


 美櫻がほほ笑んだ姿を見て、曉月教授が安心した様に話しかけてきた。


 「君、あまりにもガッチガチに緊張してたからね~。それに、君が来る前に漣くんと難し~い話をしてたから、ついついふざけてみたくなっちゃって。」


 美櫻は目をパチクリさせながら二人を見た。

 確かに『邪研究の第一人者』に呼ばれているという緊張感は持っていた。

 人見知りの美櫻にとっては、曉月教授は会ってみたい人ではあるが、よくマスメディアに取り上げられている有名人でもあり、その凛とした佇まいは近づきがたい雰囲気を持っていると思っていた。


 (確かに、「有名人に会いに行く」ってだけで緊張して、メディアで見かける姿を想像してたけど・・・。やっぱり思い込みって怖いな・・・。)


 「そんなに緊張する必要なんかない。教授が語尾を伸ばしながら話をしている時は、半分ふざけていると思ったくらいが丁度いい。」


 漣が書類を片付けながら言った。

 先ほどまでかなりの量の書類が散らばっていたのに、その殆どがもう整理されている。


 「ま、その通りなんだけどね~。」


 曉月教授は肩をすくめながら、少しおどけた顔をしてみせた。

 が、「ここからは真面目に行こう~。」と一人で騒いだ後、美櫻はこの部屋に並べられているデスクの一つに案内された。


 「ここのデスク、使ってくれていいよ~。」


 この研究室はそれなりの広さがあり、書棚も壁一面に設置されている。なのに、並べられた机には使用感がないし、書庫にもあまり書類はたまっていない。


 「校内の喧騒から離れて静かになりたい時とか、レポートや勉強、研究に没頭したい時とか、ここに来たらいいよ~。」


 確かに、桃香が「桃の乙女」として表明したため、これからは別行動になることが多くなるだろうし、また桃香のことで絡みに来る人物も出て来ないとは限らない。

 どちらかというと静かに過ごしたい時間を持てる場所が欲しいと思っていたところだったので、美櫻にとっては渡りに船だった。


 「ついでに、時々僕のアシスタントやってね~。」


 曉月教授は、飄々とした顔でそう告げた。

 確かに、美櫻にとってはこの場所を利用させてもらうのは嬉しいことなのだが、やはり何か裏があるのかと感じてしまい、少し身構えてしまった。


 「あぁ、取って食おうなんて思ってないから~。」


 それでも曉月教授は穏やかな笑みを浮かべている。

 理由を聞くと、現在、曉月教授の助手は漣一人なのだという。それでは各方面から回ってくる書類も雑用をしながらだと処理が追い付かない状況になりつつあるのだという。


 (あぁ、ちょっとした雑用係が必要なのね。)


 (雑用か・・・。)と思ってしまったものの、邪研究の第一人者である曉月教授の近くで学べることが出来るのなら、何かと有用なことが多いという利点もあるので、美櫻はこの話を受けることにした。


 「最初は試用期間として過ごしてもらう事になるけど、それで大丈夫だと判断した時は、この部屋にも自由に出入り出来る様にしてあげるから~。」


 曉月教授はそう言って美櫻にウインクしてみせた。


 (なんか調子が狂うな・・・。)


 常に落ち着いた言動を心がけている美櫻だが、曉月教授には少し振り回されている様に思えた。

 落ち着かなくてはと思うのだが、感情が定まらない。美櫻にとっては珍しいことだった。


 「おい、おっさん。」

「はい?」


 (え?! 教授に向かって「おっさん」って・・・。)


 曉月教授の対応には慣れているからか、言葉遣いにも漣は全く遠慮が無い。 


 「あまり時間が無いんだろ?」

「あぁ、そうだった。この後会議があるんだった~。」


 曉月教授はそういうと、漣に向かって「後は頼むね~。」とだけ言い残して急いで支度をして部屋を出て行った。

 漣はため息をつきながら、少し不愛想に部屋の中の案内をした。

 部屋と言っても、美櫻が案内された作業部屋と、隣の部屋だけなのだが、その部屋には大型のテレビとソファーが置いており、作業に疲れた時にはここで気分転換をするのだという。

 壁を隔ててこぢんまりとしたキッチンがあり、簡単な料理なら作れるようだ。

 研究に没頭している時や、なかなか食事に出掛けられない時には、このキッチン料理をつくり、リビングで食事を摂るのだという。

 そして、リビングの奥には更にもう一部屋あった。

 その扉は頑丈になっていて、漣によればそこには門外不出の機密文書が収められているのだという。

 そして、その部屋に入れるのは、それこそ曉月教授のみだという。


 「そろそろ入学式も終わる頃か。」


 一通りの説明を終え、漣にもこれから用事があるようなので、一度部屋を出ることとなった。

 美櫻もこれから履修科目を選ばなければならないし、図書室に行くことにした。


 「今日はここまでだが、明日の3時過ぎには俺も研究室に居る予定だから、それ以降に訪ねてきてくれ。まだ、君のレポートの話も聞いていないからな。」


 図書室の前まで案内してくれた後、漣はそう言ってその場を去って行った。

 漣が歩いて行くその先々では、女子大生の目が釘付けになっている。

 図書室の前なのであまり騒ぎにはなっていないが、どうやら彼の姿を見るためにここに来る女子大生もいるようだった。

 確かに、あまり他人に興味を示さない美櫻でさえ、彼の容姿にはドキッとするほどだ。

 だが、本人はそんなこと気にも留めず、その場を後にした。



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