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花の乙女  作者: 姫柊ほの
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桃の乙女編 9

 「その席、朝から日当たりが良くって、少し座ると眠くなるでしょ~。」


 曉月教授は椅子に深く掛け、片膝を組んでまたにっこりと笑う。

 (本当に「教授」?)と思えるほど人当たりが良く見える。

 まだ緊張が解けきれない美櫻に、曉月教授はお茶菓子を勧めた。


 「そのお菓子、おいしいよ~。食べたら病みつき間違いなしだよ~。」


 美味しそうな香りにつられ、勧められるまま薄いナイロンで包まれたお菓子を手に取ってみる。

 「フワッ」と軽く甘い香りはするが、ほとんど重さを感じないくらいとても軽い。少しでも力を入れると潰してしまいそうになるくらいフワフワで、でもしっかりとした形があるので崩れずにナイロンから取り出した。

 クリームの良い香りがする。

 美櫻は軽く一口頬張った。


 「おいしい・・・。」


 軽い甘さのクリームをフワフワな生地で挟んでいるが、口に入れた途端、本当にフワッと溶けるように無くなっていく。初めての食感だ。


 「それね、お土産でもらったんだよ~。美味しいでしょ~。でもこの辺りにはないんだよね~。」

「そうなんですか・・・。」

「そうそう。取り寄せとかだったら出来るかな~? でも送料掛かっちゃうよね~。だからそっち方面へ行く人に、『必ず買ってきて~』って頼むんだよ~。」


 曉月教授も手を伸ばし、そのお菓子を頬張っていく。

「美味しい、美味しい~。」と言いながら、一気に3個も食べてしまった。


 「ごめんね~、一生に一度の入学式を欠席させるような形になってしまって~。」


 一口紅茶をすすった後、目を細めニコニコした表情で曉月教授が声を掛けてきた。


 「あ、いいえ、大丈夫です。」


 先ほどからのやりとりや、曉月教授のお菓子を頬張る姿を見て、美櫻も緊張が少し解れていた。


 「ほんとに~?」

「・・・はい。」


 曉月教授が身を乗り出して聞いてくるものだから、美櫻は少し引いてしまった。


 「もともと人が集まる場所って苦手なので、本当に大丈夫です。」


 教授は相変わらずニコニコした表情をしているが、なんだか目が笑っていないようにも窺えた。


 「さっき、校門付近で騒ぎがあったようだけど・・・。」

「えっ? あ、はい・・・。」

「君もその中にいたそうだね~?」


 あれからあまり時間が経過していないのに、どうしてその情報を知っているのか不思議だった。


 「あぁ、たぶん君が許可証を取りに行っている間かな~? あの騒ぎを一部始終見ていた人物が一足早くここにたどり着いてね~。話を聞いていたんだ。」


 曉月教授は乗り出した身を元に戻しながら、校門付近での騒ぎの話を始めた。さっき、呼び鈴を押した時に夢中になっていたというのは、その話を聞いていたからなのだろう。

 もともと「邪」についての研究に関しては第一人者なのだ。そして、その「邪」に関連して「花の乙女」についても研究をしている。

 「邪」を殲滅ために乙女の持つ「意味」がなんらかの役割を果たしているのではないかと、曉月教授は推測しているのだ。


 「そこで『桃の乙女』が現れたんだってね~。君の幼馴染なんだって~? しかも、龍雅花家の次期当主の花嫁に名乗りを上げたそうじゃない~。」

「え? あ、あの~。」


「あの蒼君が、普段見せないような顔をしていたんだってね~。ちょっと見たかったな~。」

「ち、ちょっと・・・。」


「それに、もともと花嫁に立候補していた『百合の乙女』も参戦したんだって~? 入学式早々、面白いことになってんじゃん~。」


 「おい!!」


 低く、穏やかな声が隣の部屋の扉を開けて聞こえた。


「矢継ぎ早に質問すんなよ。そいつ、困ってんだろ。」


 隣の部屋から出てきたのは、少しラフな格好をした、長身の若い男性だった。

 黒色の瞳、少し長めの黒髪には朱と金色をした房がある。

 それがまた、その男性の魅力を際立たせている。


 (さっきの四家次期当主も美しいと思ったけど・・・。この人、別次元だわ・・・。)


 あまり他人に興味を持たない美櫻ですら魅入ってしまうほどだ。


 「あは、ごめんね~。つい~。」


 片手で冷や汗を拭き取りながら、曉月教授は少し冷静さを取り戻したようだった。


 「あ、この子は『漣れん』くん。ここの学生で、今年3回生になるんだよね~。一応、僕の助手やってくれてま~す。」


 漣と呼ばれた男性は、曉月教授の後ろで雪崩れた書類をテキパキと片付け始めた。


 「さっきの話はね~、この漣くんに聞いたんだよ~。」

「そ、そうですか・・。」



 曉月教授は少し席を外し、後ろの鍵付きの棚からカードを取り出した。


 「これ、持って行って~。ここの本チャンのICカードだよ~。来て貰ったのは、まずはこのカードを渡したかったんだよね~。」


 曉月教授は美櫻にICカードを手渡した。

 朝の短い時間に美櫻のレポートの話をするには短すぎると感じていたのだが、どうやらこの部屋に自由に入室するためのこのカードを渡したかったらしい。


 「因みに、この部屋のICカード持ってるのは、僕と漣くんと君だけだからね~。」


 美櫻は驚いた。

 この部屋は重要機密だらけだと聞いている。


 「あ、あの、今日入学したばかりの私が、これを持つ訳には・・・。」

「大丈夫、大丈夫~。」

「それはエレベーター専用のカードだ。俺かこの『素っ頓狂授』しかこの部屋の鍵持ってないから、どちらかが居なきゃ入室出来ないようになってる。」

「お~い、『素っ頓狂授』って、それはないでしょ~。」


 『邪』研究の第一人者で、とても真面目な姿を予測していた美櫻は、彼らのやりとりが「漫才」の掛け合いのようで、少し笑えてしまった。



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