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お兄様のえっち!

 心の中で叫んでも萌々子は止まらない。

 どうしたらいい?

 頭を押さえて押しとどめるか?

 いや、そんなことしたら余計えっちな感じだ。


 俺は脳内コンピューターをオーバードライブさせて計算した。


「ごめん、萌々子、トイレに行く」


 すくっと立ち上がる俺。大丈夫だ、他の場所は起立していない。スタスタトイレへ。さすがに萌々子はついてこない。


 トイレで考える。今の「教育的指導」、朝と同じパターンだ。恥ずかしがり屋を克服するための訓練だかレッスンだかと言って、手を繋いできた。

 昔から萌々子は「れんしゅう」「くんれん」と言っては俺に妙な行動を指示してきた。


「おにーさま、萌々子、ひとりでお風呂は入れないの。お風呂に入る練習して」

「おにーさま、萌々子、暗いとこ怖いの。だから、暗いとこ歩く訓練して。お手々つないで」


 などと言って。その意味では幼い頃と変わりない。違うのは練習や訓練するのが萌々子ではなく俺であるという点だ。


(ふ。見切ったぜ。萌々子の思考パターン)


 俺、勝利。


 というわけでトイレから出た。萌々子の思考パターンがわかればもう大丈夫だ。その対策を立てればいいだけだ。極めて単純な戦略だな。


 ……って、具体的にどうしたらいいんだろう?


「お兄様、はやくはやく。教育的指導の続きしましょ?」


 いや、それはマズい。これ以上指導されてはいろいろ困る。再び、脳内コンピュータ、フル回転。


 ……よし。これでいこう。


「萌々子、映画見ないか?」

「え? 映画?」

「そうだ。映画を見ながら指導ってのはどうだろう?」

「うーん、いいですけど?」


 よし。これで少なくとも萌々子の顔は俺の方ではなくテレビの方になる。俺、頭さえてるじゃんか。

 さらに映画はホラーをセレクト。萌々子はホラーが嫌いだ。そのうち自室に逃げ出し、ベッドに潜ってしまうだろう。少なくとも小学校3年まではそうだった。


「萌々子、もう15歳だよな?」

「うん。萌々子、15歳だよ?」

「じゃあR15で大丈夫……っと」


 テレビのスイッチを入れ、メニューからNetflixを起動。デデーン。例の効果音。続いてリモコンから検索ボックスに文字を入力、コンテンツ検索。


「R15? えっちなの見るの? お兄様、それ、セクハラですよ?」

「それはR18だろ。大丈夫、エロくないから……」


 あったあった。

 画面に表示されたのはちょっと前に話題になった最恐ホラー映画「THAT アレが見えたら終わり」だ。スティーブン・キングに憧れる新人監督が原作・脚本・なぜか主演。

 キング作「IT」のパクリと酷評されたが、恐怖演出だけは最高だったとのことで一部で人気の映画である。最近ネトフリに入ったので見ようと思っていたのだ。


「……これって、怖い映画?」


 プログラム紹介画面に映る8人のピエロを見て萌々子が言った。ITの8倍怖いと噂だ。


「ああそうだ」

「萌々子、怖いの苦手なの……」


 知ってる。


「そうだっけ?」

「そうだよ」

「そっか。苦手だったら無理するなよ。俺ひとりで見るから」

「やだ!」

「でも、怖いの嫌なんだろ?」

「大丈夫だもん」


 ちょこん、ぱた。萌々子が再び俺に教育的指導、すなわち頭を太ももに乗せる例の体勢になった。今度はちゃんとテレビを向いている。


「はやく見ようよ、お兄様」


 ということで、俺は再生ボタンを押した。


 さあ、今度こそ、心置きなく、俺が、俺による、俺のための教育的指導を萌々子にしようじゃないか。指導だのレッスンだの称して俺と戯れると、痛い目に遭うって教えないとね。


 だが。


 始まって数秒で俺は後悔した。


「きゃーっ!」


 萌々子の悲鳴。


「怖いよ、お兄様!」


 萌々子がしがみついた。画面から目を逸らし、俺の股間に顔を埋める。


「きゃー、きゃーっ!」


 ぐいぐい顔を押し込んでくる。


「ちょ……萌々子……」


 俺の股間に萌々子の頭部。それがぐいぐい押し込まれている。どこからどう見てもお口でなんかしている図だ。


 この……感触は! ……当たってる感触だぜ!

 だが! しかし! 萌々子は! 気がついて……いないッ!

 スゲーッ確実に当たっているのによォ!


 URYYYY! ヒャッハーッ!


 ……とか言ってる場合ではない。


(興奮しては駄目だッ! 鎮めないとッ!)


 いいか? 今俺の股間にしがみつき、顔を危険な部位に押しつけているのは々《・》お兄様のえっち!なんだ。妹じゃないが俺の妹なんだ。妹に対してそんな反応をしてはいけないんだぜ?


 でも。太ももに感じる膨らみ。ぽよんぽよん。感じる皮膚感覚。視界に入る曲線美。ぴくぴく動くふともも。


 あ。だめ。俺の中の本能が勝手に起動しようとする。むくむく起動しようとする俺の本能を押し殺すにはどうしたらいいのだ?


「きゃーっ! ピエロが! ピエロが、猛スピードで水路を走ってくるぅ!」


 興味があったのか、ちょっとだけ画面を見た萌々子が悲鳴を上げた。俺は股間の萌々子ばかり見ていたので映画を見ていない。

 そうだ。映画に集中しよう。そうすれば、少しは気が紛れるかもしれない。俺は視線をテレビに戻した。


「……な!」


 気が紛れるどころの騒ぎではなかった。一気に……萎えた。マジ恐怖。めっちゃ怖い。ITのピエロが子供だましに見えるくらい。ITのパクリとか言って悪かった。ITの8倍どころじゃない。256倍くらい怖い。


 怖いとか怖くないとか、そういうレベル超えてるって! ホラー定番の手法をここまで効果的に使った映画って、ほかにないんじゃね?


「きゃー! きゃー!」


 もう萌々子は画面を見ていないが、聞こえてくる英語台詞と効果音、音楽だけで悲鳴を上げる。英語の台詞なんて、普通はほとんど意味わからないはずだが「オー、ノー、プリーズプリーズ……ギャアアアア!」とか「オーマイガー、オーマイガー! ……ブゴッ!」とかばかりなので、怖いのだ。


 そんな感じの約100分。


 萌々子からの誘惑を最恐ホラーで相殺した俺は、なんとか教育的指導を乗り切ったのだった。

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