萌々子、つまんないです、お兄様!
俺と萌々子のルールその2「後片付けは料理を作らなかった方」に従い、俺は後片付けをしていた。といっても萌々子が調理中にいろんなものを片付けてしまっているので、食洗機を回すだけだ。
「お兄様ー」
リビングのソファに腰掛けコーヒーを飲んでいると、部屋着に着替えた萌々子がやってきた。今日はショートパンツか。脚細いな。長いし。高校1年生にしてはスタイルいい方だ。
だからなんだ、って話だがね。
「萌々子、つまんない」
とすん。ソファの前で萌々子が体育座りをした。上目遣いで俺を見つつ、脚をパタパタ。そのたびに太ももが揺れた。脚の動きに合わせ萌々子は上半身を揺らす。
全身から退屈オーラと、かまってオーラが出ている。
「そんな格好でそんな座り方すると、見えるぞ」
「何がですか?」
「いろいろだ」
「ふーん。じゃあ、見せちゃおうかな?」
萌々子が悪戯っぽく笑う。引っ越してきてからというもの、毎日こうやって俺をからかう。
幼少期にはなかった絡み方だ。萌々子なりに自分の成長具合を把握しているからこそ、異性であることを認識しているからこそ、ソフトにじゃれてくるんだろうが、少しは警戒して欲しい。
相手が俺だからいいが、将来彼氏が出来てこんなことしたら……ヤられちゃうぜ?
そんなの、萌々子がかわいそうだ。ここは兄として、心を鬼にして教育せねばなるまい。少し驚かせてやろうじゃないか。
「そうか。じゃ、見せてくれ」
ちょっとだけ変態ぽく、萌々子の太ももを見て言ってみた。
「え……?」
萌々子の顔に戸惑いの色が浮かんだ。不安そうに目が泳いでいる。
ふふ。わかったか? これが男ってやつの反応なんだ。
どうだ? こわいだろう? 身の危険を感じるだろ?
「えっと……見たい? 見たいの、お兄様?」
震える声で萌々子が言った。
「ああ、見たい。見せてくれるんだろ? 早く見せてくれよ」
「……いいよ」
ゆっくり萌々子の脚が開く。
え? ちょ! どーゆーことだよっ!
「ここ? お兄様が見たいの……」
萌々子の顔がかーっと赤くなった。
「ん? え、えっと、そ、それはだな……」
「脱いだ方がいい?」
萌々子がショートパンツのボタンに手をかける。
「見て……萌々子の……いろんなとこ……全部……見て」
「え?」
萌々子が立ち上がった。
「お兄様だけなんだからね……全部見せるの」
萌々子の手がチャックへ。
チチ……。
ファスナーが下ろされる音。
「わーっ! わーっ!」
「お兄様」
「は、はい!? なんでしょう、萌々子さん!?」
ファスナーを下ろす手をとめ、萌々子が俺に問う。
「……見るだけ?」
「と、いいますと?」
「萌々子の裸、見るだけなの? もっと……いろいろ……する?」
「ちょちょちょちょーっ!」
再び萌々子のファスナーが動き出す。
「冗談だ、冗談! 俺が悪かった! 悪ふざけが過ぎた! た、頼む! 頼むから、脱がないでくれ!」
「萌々子は本気です、お兄様」
「いや、だから、本気とかそういうのじゃなくて……!」
ん?
ファスナーの隙間からなんか見える。なんか、ピンクのもの。ちょっとだけだけど。
あ。
……パンツじゃね?
「わーっ!」
とりあえず叫んだ。そして、
「すまん! 悪かった! ごめんなさい!」
俺、思わず土下座。
「何がごめんなさいなんですか?」
「えーっと、その、見たいって言ったことです。ほんの出来心なんです」
「出来心なんだ」
萌々子がしゃがみ込んだ。ファスナーは半開きのままだ。
「どういう出来心ですか?」
「なんつーか、教育的指導だ。教育的指導としての、出来心だ」
「教育(的)指導?」
「そ、そうさ!」
顔を上げる。萌々子と目が合った。
「しょ、将来、彼氏が出来たときにだな、『見たい?』なんて言ったりしたらだな、萌々子に、貞操の危機が訪れるんだ!」
「貞操の危機ですか?」
「そう、危機、クライシス。だから、俺としてはだな、そういう危険性を妹……いや、妹みたいな存在であるところの萌々子に教え諭す必要があると考え……」
「えーっと、つまり、お兄様は、萌々子の貞操を奪おうとしていたってことですか?」
「んなわけないだろっ!」
どこをどう聞けばそうなるんだ?
「と、とにかく、俺が悪かった! 脱がないでくれっ!」
もう一度、深々と頭を下げ萌々子に懇願した。
「……ぷ!」
唐突に萌々子が吹き出した。
「おっかしー! お兄様ったら、顔真っ赤ですよ?」
「ふえ?」
「そんな、脱ぐわけないじゃないですか?」
萌々子が立ち上がり、ファスナーを元に戻す。
いや、なんか見えてたって。
「……どういうことだ?」
「ん? 何がですか?」
「いや、今この状況というか、その……」
「お兄様が悪いんですよ? 萌々子にセクハラするから。だから、妹として教育的指導をしたんです」
「教育的指導……?」
俺がさっき使った言葉じゃないか。
「どういう……」
「あのね、お兄様。いくら冗談でも『裸になれ』とか『全部見せろ』なんて言ってはいけません」
いや、そこまで言ってないし。
「それはセクハラです」
「だって、萌々子が『見たい?』って言ったから……」
「あれは冗談です」
「だったら、俺も冗談だ! 冗談に冗談で返して何が悪いんだ?」
「ふう。これは重症ですね。いいですか、お兄様。女子生徒が先生に冗談で『私の裸みたい?』と言ったとしましょう。そのとき、先生が『じゃあ見せろ。裸になれ』と真顔で返事したら、セクハラですよね?」
「……そう……だな」
「それと同じです。お兄様はセクハラしたんです、萌々子にっ!」
「そ、それとこれとは話が違……」
「違いません! セクハラなのっ!」
萌々子が顔を近づけ、ビシッと言った。
「わかりましたか? お兄様」
「はい」
「ごめんなさいは?」
「……すみません」
「わかればいいんです。さて、お兄様。ここからが本題です。萌々子、とっても心配なんです」
すすす、と萌々子が近づいてきた。近い、近いぞ、顔!
「なにが心配なんだ?」
「萌々子、心配です。お兄様が学校で同級生や女教師にセクハラしないかって」
「いや、しないし」
「萌々子にはしたよ?」
「それは……」
セクハラじゃないし、と言いたかったがさっき認めた手前なんとも反論しにくい。
「もし、お兄様が学校でセクハラしちゃったら大変です。お兄様は退学、私は性犯罪者の妹として後ろ指さされちゃいます」
「学校では俺と萌々子の関係は秘密じゃなかったっけ?」
俺の指摘に萌々子が一瞬ひるんだ。
が、すぐに立ち直り、
「そ、そんなの、簡単にばれちゃうんだから! インターネット時代は何でもかんでも発覚するものなのです!」
と主張した。
「とにかく、このままでは萌々子とお兄様の未来は真っ暗なの!」
「……そうかなあ?」
「そうなのっ! だから、萌々子、お兄様のために一肌脱ぎます。お兄様、ソファに座って」
「なんで?」
「いいから、言うこときくの!」
「わかった」
萌々子に促されソファに座る。
「さてと」
萌々子が隣に座った。ぴと。密着。俺の右腕にしがみつく。押しつけられる胸。
「ちょ、萌々子、何をしてるんだ?」
「ん? 訓練ですよ、お兄様」
「訓練?」
「はい。こーやって、女子にくっつかれても、変な気持ちになったり、セクハラしたくなったりしない訓練です」
いや、こんなに接近してくる同級生や教師いないし。
「どう? お兄様? セクハラしたくなった?」
胸を押しつけつつ、上目遣いで萌々子が俺に問う。
「大丈夫だ」
「ふーん」
不満げな萌々子。
「じゃ、これならどうです?」
ぱたん。萌々子が俺の膝の上に倒れ込んだ。
「お兄様ー、萌々子、おねむなのー」
俺の太ももに頭を乗せ、両手を俺の腰に回す。あろうことか顔は俺の方に向けられている。さすがにヤバい体勢だ。ずい、ずいと萌々子の頭部が俺に接近してくる。
(当たるって、萌々子!)
心の中で叫ぶ俺。いくら相手が萌々子とはいえ、胸を押しつけられ、こんな体勢でしがみつかれたら、健康な男子高校生の身体は反応せざるを得ない。
(……当たってしまったら、セクハラどころじゃないよな? わいせつ行為だよな?)
ぴくん。とうとう俺の身体が反応してしまった。
「ん? お兄様? どうしました?」
「ファ!? いや、その、えーと……か、髪の毛だ! 髪の毛が太ももに当たって、こそばゆくてだな、ぴくんってなったんだ」
「ふーん」
ふーん、じゃねーっ! 萌々子、その体勢はだな、かなり危険な体勢なんだよっ!
「もっとお兄様に近づこーっと」
萌々子の上昇が始まった。
(ちょ、待て、待つんだーっ! 当たる! 当たるって! ちょ、あーっ!)




