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【最終話】All the Young Dudes

「俺は」


 途中で大きく息を吸う。吐く。もう一度、息を吸う。肺からゆっくり、空気を声帯に送る。まるで演劇部の発声練習のように、一音一音、かみしめるように――はっきりとした発音で言葉を発するために。


「——俺は萌々子を選ぶ」


 空気が凍り付く。沈黙。


 胸が痛い。肺の中の空気を全部外に出したから、ではないだろう。そっと近藤さんを見る。笑っているような、悲しいような、今まで見たことのない表情だ。


 ごめん近藤さん。


「えっと……お兄様、それは、その……これの残りを使う相手として、萌々子を選ぶってことですか?」


 沈黙を無視して、まるで夕日のごとく耳まで真っ赤になった萌々子が手に持ったゴム製品を掲げた。萌々子……察してくれないかな、いろいろ。


「い、いや、そういう意味じゃなくてだな」


 慌てて否定する。あ、待てよ。最終的にはそういう意味なんでは?


「じゃあなんなんですか?」


 萌々子が突っ込む。


 その時だった。


「それでいいんだ、岡本くん! 残りはキミと遠藤君で使うがよい!」


 アリス先輩だった。


「なに言ってるんですか、アリス先輩!」


 俺と近藤さん、思わず群唱。


「うん、いい群唱だ。まさにエンディングにふさわしい群唱といえるな。重苦しい失恋シーンを転換するには最高だ」


 半開きの入り口扉。そこから一部始終を覗いていたらしい。


「いつからいたんですか?」俺が聞くと、

「ン? 萌々子君が血相変えて部室に向かった数分後からかな?」


 と涼しい顔で先輩が答えた。


「どういうことですか? こうなること知ってて、どこかで待ち伏せしていたってことですか?」俺は追求する。

「まさか。全く予想してはいなかったよ」


 とさ。アリス先輩がいつもの席に腰掛けた。


「とはいえ予感はあったし、伏線もあった。あった——というより、張った、かな?」

「どういう……意味ですか?」


 近藤さんが聞いた。


「うむ。話は土曜日にまで遡る。詳細は省くが遠藤君との通話中、偶然にも遠藤君と萌々子君が奏でるとってもえっちな音を聞かされてしまったのだ」

「え、えっちな音!?」


 近藤さんが驚く。


「そうだ近藤君。私の文章力では言い表せないほど、それはそれは淫靡で堕落したサウンドだったよ」

「そ、そうだったんだ……遠藤君……私、バカみたいだね、色々期待して」


 悲しみに沈む近藤さん。一瞬、近藤さんの視線が俺の股間を捉えた。そして、


「……じゃ、本当は()()、岡本さんと使ったんだ……。私に気を遣って嘘を言ってくれたんだ……」


 今にも消え入りそうな、悲しそうな声で近藤さんが言った。目にはうっすら涙が。


「違う! 違うよ近藤さん!」


 慌てて全否定する。そして、


「アリス先輩、俺、土曜日にも言いましたよね、誤解だって! いい加減にしてくださいよアリス先輩!」


 強い調子でアリス先輩に抗議した。


「俺と萌々子そんな関係じゃありません! 先輩の電話に萌々子が嫉妬して俺にちょっかいかけてきただけです! 誤解しないでください!」

「はっはっは。そうなのか?」

「そうです!」

「そうなんだ。ま、知ってたけどな」

「はああああ!? 知ってて言ったんですか!?」

「まあ、ね」


 平然と先輩が言ってのけた。


「ちょっと、なんなんですか?」


 あまりにもふざけているアリス先輩にふつふつと怒りが湧いてきた。一部始終見ていたならわかっただろ? 近藤さんの俺への気持ちとか? 少しは近藤さんの気持ちを考えて欲しい。なんでそんなにデリカシーがないかな、この人は!


「悪かったな、遠藤君に近藤君、そして萌々子君。悪気はなかったのだよ。ただ、あまりにももどかしくてね。君ら三人が」

「もどかしい?」


 俺、近藤さん、萌々子が顔を見合わせた。


「そう。去年から私は気がついていた。近藤君が遠藤君に恋していることにね。地区大会の後写真を撮っただろ? いかにもふざけてますって顔で近藤君が遠藤君にしがみついたじゃないか? あのときの近藤君の表情、まさに恋する乙女だったよ。あんなことされて何も感じない遠藤君に怒りを感じるほどだったさ」

「え……?」


 思わず近藤さんの顔を見た。近藤さんの顔はこれまでに無く赤く染まっていた。


「ち、違うよ、遠藤君、あ、あれはね……」

「萌々子、見ました! その写真見ました! お兄様の机の上にあったもん!」


 猛然と萌々子が突っ込む。萌々子どこまで俺の部屋調べしたんだって突っ込みたいがそれはあとにしよう。


「そして春。萌々子君登場。萌々子君が遠藤君に恋していることは初対面の時に分かった」

「初対面ですか? あの電車の中ですか?」


 萌々子が不思議そうな顔をする。


「そう。あんな顔で遠藤君を見つめていれば誰だって分かる。分からないのはそこにいる、思わせぶりなラブコメ主人公遠藤君だけだ」

「なんかムカつく言い方ですね」

「事実だろ?」


 アリス先輩が笑う。


「ラブコメ主人公である遠藤君、君はなんだかんだ言って二人のことを意識していた。だがそのぬるま湯を心地よく思い、また適度な肉体的接触を楽しもうという男子高校生的性欲に基づいた行動選択をとっていた。間違いないな?」

「いや、間違いだらけだと思います」

「はっはっは。ま、そう返答するよな、普通。だがね、私は知ってる。君は自分がラブコメ主人公って認識してないだけさ。そして我々は決してラブコメの登場人物ではない。残酷だが現実世界の人間だ。これの意味するところ、わかるかな?」


 アリス先輩が立ち上がる。部室の古い黒板の前にあるこれまた古い教壇の上に先輩が立った。


「いいかい? ラブコメ、特にマンガにおいて青春は終わらない。春夏秋冬が描かれるがそれは無限にループする。人気が落ちない限り彼らの高校時代は終わらない。そして恋愛もいつだって思わせぶりだ。だが我々リアルの人間には終わりがある。高校時代は無限ではない。たった3年だ。恋愛はループしない。高校卒業までに告白しなければ、恋は成就しない」


 空想上のサスペンション・ライトを浴びながら、先輩は長台詞を続けた。


「実は私もだな、その、恋においては悩んでいたんだよ。告白せずにその関係を続けたいってね。だがそれが間違いだと気がついた」

「お兄さんのことですね? 確か血は繋がってないとか」


 近藤さんが無邪気に突っ込んだ。


「げふっ! げふっ! プ、プライバシーの侵害だぞ、近藤君! その質問は却下だ! あと、私のセリフを遮らないで欲しい!」


 コクコク。近藤さんは素直に頷いた。


「ともかく、間違いに気がついた私は告白した。その結果、見事に成功に至ったんだよ」

「え? 性交したんですの? ちゃんとこれ、お使いになりました?」


 萌々子が手に持っているゴム製品を指さした。アリス先輩は一瞬怪訝な顔をしたが、やがて萌々子の言ってる内容を理解したらしく、珍しく顔を真っ赤にした。


「バ、バカっ! そのセイコウではないっ! だいたい、私のセリフを遮らないでって、さっき近藤君に言ったじゃないか! 聞いてなかったのか? 萌々子君!」

「えーと、聞いてました」

「なら、理解するんだ!」

「はーい」


 いや、分かってないだろ萌々子。あと、あまり触るな、クニクニするな。ゴムの感触が面白いのかもしれんけど。


「とにかく、目の前にラブコメ主人公がいてモヤモヤしている。私はこの状況を正したい。ついでに観察し自分の脚本にリアリティを持たせたい。そう思ったんだな」


 と言うと、アリス先輩はカバンからホチキスで留めた脚本を出した。タイトルは


 ——All the Young Dudes


「なんですかこれ?」と俺。

「地区大会用の脚本さ」

「異世界ラブコメじゃなかったんですか?」

「あんなの、地区大会で上演するの無理だろ? ダミーだよダミー。本命はこっちだ。君と近藤君、そして萌々子君をモデルに書いてみた」


 俺、近藤さん、萌々子が顔を見合わせた。


「ちょっと、どういうことです?」俺が言うと、

「ん? どういうこともなにも、この春から今日までの君ら三人のラブコメ物語を脚本にしたんだ。これで全国目指すぞ!」

「これ、萌々子も出てるんですけど……」


 戸惑う萌々子にアリス先輩は、


「大丈夫。入部届は偽造しておいた」と笑顔で答えた。

「えええ! 萌々子、聞いてません!」

「今聞いたじゃないか?」

「そ、そんな!」


 困惑する萌々子を押し退け、近藤さんがアリス先輩に詰め寄る。


「待ってください、アリス先輩! あの、私も脚本書いたんです! それで、私と遠藤君、私の脚本を地区大会でやるって決めたんです!」


 強い口調で近藤さんが言う。


「ほほう。でも萌々子君は多分私の脚本が良いと言うぞ? なあ、萌々子君?」

「えっと、萌々子、よくわからないですっ!」


 入り乱れるセリフの応酬。


 あれ? 俺、結構真面目に大丈夫な告白したんだよな? それ、どうなったんだ?

 俺の青春、こんなラブコメじゃ困るんだが。


 あれ?


 なんだ、この光?


 俺たち四人の頭上からサスペンス・ライトが降り注いでないか……?


 BGMがフェードイン。


「まもなくです」


 どこからか、声。


 地明かり、ゆっくりフェードアウト。


 教室を構成していたパネル、上手と下手にはける。ホリゾント幕にプロジェクター映像(高校時代の思い出をスライドショーにしたもの)が投影される。

 

 役者たち、それぞれサスの光りの中でアドリブで言い合う。

 だが声は次第にBGMにかき消され、聞き取れなくなる。サス消え、役者はホリゾント幕が逆光となりシルエットに。


 BGM、最大音量。


 緞帳ダウン。


 劇終。

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