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いいよ、お兄様なら。見ても。

 それを世界は幼馴染みというんだぜ、だと?


 植木が変な台詞を大声で言うものだから周囲の視線を集めてしまった。


「おい、やめろ。見られてるぞ」

「ふ。俺の勝利だ」

「人の話聞いているか?」

「ああ、聞いているとも。さっきのかわいこちゃん、遠藤の幼馴染みなんだってなあああ! フハハハ!」


 両手で空を支えるかのような妙なポーズで植木が笑う。不気味だっつーの。


「植木よ。もしかして、お前、頭おかしくなった?」

「乱心など致しておらんぞ、遠藤! 俺は今、青春の到来に心踊ってるのだ! スプリング・ハズ・カム! 訳して、時は来た!」

「いや、春が来た、だし。つーか、意味わからんのだけど」

「説明せねばなるまい。いいか、遠藤。俺はラブコメが好きだ。特にラノベな。それもエッチなヤツ」


 知ってた。


「そんなラブコメラバーな俺の分析によればだな、幼馴染みというのは正ヒロインにはなれんのだよ! 無駄にモテモテな主人公に翻弄され、傷心する。それが幼馴染み。つまり、負け組。そして登場する俺。これの意味するところがわかるか?」

「えーと、つまり、植木はラブコメみたいな恋愛がしたい?」

「ちっがーう! 二次元と現実を混同しないでくれ、遠藤。今俺は現実の話をしている」

「……」


 いや、混同してるの植木だし。


「よく聞け遠藤。さっきのかわいこちゃん、聞けば貴殿の幼馴染みというではないか。ということはだ、あのかわいこちゃんと貴殿は結ばれることはない! どんなにかわいこちゃんが貴殿を慕っていても、正ヒロインの座は奪えない。宿命よのう」

「お前、言葉遣い変だぞ」

「話は最後まで聞け。そう遠くない未来、彼女はお前に振られてハートブレイクな結末を迎える。そこに現れるのが、俺。そう、好きな人の親友。ギザギザハートだった彼女を優しく包むロンリーチャップリンな俺。いつしか2人の間には恋が芽生え、めでたくゴールイン。そして俺は彼女の太ももにかけ放題ってわけよ!」

「人の幼馴染みで変な妄想するな!」

「悪いな遠藤。あの娘は俺の彼女になる運命なんだ。回り出した運命の糸車はもう止められねーぜ?」

「意味わからんし」

「意味なんてわからなくていいのさ。うおおお、朝日がまぶしいぜ! まるで俺の運命を祝福してるかのようだのう!」


 植木が太陽に向かって微笑んだ。今日は曇ってて太陽見えないけど。あれがお前の運命象徴してるなら、暗雲立ち込めてるのではないのか?


「さ、教室行こうぜ遠藤。クラス替えどうなったろうな? つか、どこに新クラス掲示してあるんだ?」


 植木がキョロキョロ落ち着き無く周囲を探す。


「掲示なんてないぞ。ネットで各自確認しろってあったじゃないか」

「ネット?」

「ああ。昨日の夕方5時、在校生専用サイトに新クラス一覧出てたぞ」

「そうなの? それ、いつ、だれが、どこで教えてくれたの?」

「終業式の日に、担任が、教室で、連絡したと思うが」

「在校生専用サイトで新クラス発表……。まさにIT革命だな」


 深くうなずく植木。


「で、在校生専用サイトって何?」


 お前、それでよく1年間無事に学校生活送れたな。


「これだよこれ」


 俺はスマホを取り出し、ロックを解除した。在校生専用サイトにアクセス、IDとパスワードを入力して「お知らせ」をタッチ、「新2年生クラス名簿.pdf」を選択した。


「うわ、字、ちっさ! 読めねーだろ!?」


 驚愕する植木。

 俺は無言で画面をピンチ、名簿を拡大した。


「うおおお!? 字、でかくなりよったで! ハイテクやないかい!」


 いつの時代の言葉だ、ハイテクって。あと、なんでエセ関西弁なんだ。


「植木は俺と同じ6組。文系世界史クラスだ」

「おお!? 俺、世界史選択だったんだ!」


 大丈夫か、植木。よく進級できたな。


「さ、教室行こう。2年生は2階だ」



 * * *



 俺たちの通う学校には通常クラスの他に特進クラスがある。2年生に関していえば1~3組が理系クラスで、4~6組が文系クラス。7組が特進理系、8組が特進文系だ。


 教室で新担任が出席をとった後、講堂に移動して始業式、そのあと教室でロングホームルーム。通常クラスの俺たちはこれで終わりだ。課題等の提出物を出し、なんやかんやプリントを配られて10時には終わった。1年生はロングの後に新入生学校生活ガイダンスがある。だから萌々子は俺より帰宅が遅くなる


 ということで俺は一足先に帰宅した。


「ただいまー」


 習慣とは恐ろしいもので、ひとり暮らしが始まって1年以上経つのに、誰もいない家に向かってただいまといってしまう。


「しかし綺麗になったな」


 つい先日までは廊下にものがあふれ、何足もの靴が散らかっていた玄関だったか、今はゴミ一つ落ちていない。先月までの惨状が嘘のようだ。


 3月末。いきなり引っ越してきた萌々子が整理整頓してくれたのだ。俺も手伝ったけど。


「お、お兄様、大変です! お、お部屋が、お部屋が荒らされています! 空き巣ですよきっと! ……そうだ、通報! 警察に通報ですっ!」


 家に入るなり萌々子が叫んだ。萌々子にはわからなかったのだ。男子高校生のひとり暮らしが、どれほど居住空間を荒廃させるかを。


 パニクってなぜか時報やら天気予報やらに電話する萌々子からスマホを強奪した俺は、部屋が荒れているのは俺のずぼらな生活のせいであり、何者かによる犯罪行為に由来するものではないことを丁寧に説明した。


 それからが大変だった。


「いくら男の子でもひどすぎますっ! これじゃゴミ屋敷です! 空き巣が泣いて帰るレベルです! 片付けますからね!?」


 そう宣言すると、萌々子は片付けを始めた。その日は暖かだったせいだろう、萌々子はミニスカートだった。トップスはニットシャツで、胸元が緩かった。そんなコーデでしゃがんだり這いつくばったり、その他いろいろ、わりと体勢に無理があるポーズで活動。必然的に見えてはいけないものがチラチラ見えたり見えなかったりする。


「萌々子」

「何ですか?」

「えーと、その、なんだ。……着替えたらどうだ?」

「なんでですか?」

「……その格好でそういうポーズすると、見えるぞ?」


 萌々子はお尻を突き出し、四つん這いになって床掃除していた。

 床掃除を中断し、萌々子が振り返る。


「見えたんですか? それとも、見たんですか?」

「……えーと」


 視線が萌々子の下半身へ向かう。膝の裏から太ももの裏。無駄な脂肪のない引き締まった脚だ。それでいて内側の肉は白く柔らかい。ぴたっと臀部に張り付いたピンクの布越しに下着のラインが透けている。慌てて目を逸らす。


「見てはないぞ。見えたんだ」

「ふーん」

「なんだよ、その目」

「なんでもありません。ただ……」

「ただ、なんだ?」

「いいよ、お兄様なら。見ても。……萌々子の、見たい?」

「バカ」


 えへと笑い、萌々子は床掃除を再開した。


 ……とまあ、こんな感じで俺と萌々子は丸1日かけ、一軒家を掃除&整理整頓したのだ。


 とりあえず俺は、すっかり綺麗になった自室で部屋着に着替えた。萌々子と生活する前までは、脱いだ制服は椅子の背もたれに掛けるだけだったが、萌々子曰く「クローゼットさんとハンガーさんが泣いています!」とのことなので、ちゃんとハンガーに掛けてクローゼットに収納する。

 ちゃんとしないとあとで萌々子に怒られるのだ。頼んでもいないのに毎日部屋の整理度チェックに来るんだよ、萌々子。なんだかんだ細かいんだ、萌々子。


「さてと」


 昼食の準備だ。萌々子と2人暮らしをするにあたり、俺たちはいくつかルールを作った。そのひとつが「早く帰ってきた方が食事を用意する」。

 こう見えても1年間自炊してきた俺。早い、安い、なんとか食える、の三拍子そろった料理を作るのが得意だ。

 冷蔵庫を開け、材料を物色する。萌々子が来てから得体の知れない野菜や調味料、その他食料素材が増えたが、俺には関係ない。


「パスタにするか」


 脳内にレシピが流れた。


【オレ流 男子高校生のパスタ】

・スパゲティ150グラム

・ツナオイル

・卵2個

・マヨネーズ

 まずスパゲティをゆでる。その間に半熟目玉焼きを作る。

 スパゲティがゆであがったら、塩、こしょう、ツナ缶、マヨネーズをぶっかけ、炒める。

 半熟卵をのせて適当に潰して混ぜる。

 できあがり


「これにサラダつければ完璧じゃね?」

「何が完璧なんですか?」


 気がつくと萌々子が立っていた。


「ただいまー」

「おかえり。早かったな」

「はい。思ったより」

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