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異世界転生、震えて読め!

 月曜日放課後。英単語テストに不合格となった俺が居残り学習を終えて部室に行ってみると、近藤さんしかいなかった。


 金曜日の告白のことを思い出す。ちょっと気まずい。返事は急がないと言ってはいたものの、待ってることには違いないのだ。


「あれ? アリス先輩は?」

「急用が出来たって言って帰ったよ」

「そうなんだ」

「はい」


 近藤さんが俺にホチキスで留めた紙の束を渡した。


「なに、これ?」

「脚本だよ。帰る前にアリス先輩が置いていったの。震えて読め、だって」

「震えて読め?」

「うん」


 どういう意味だ。相変わらず不思議な人だ。


「近藤さんは読んだの?」

「うん。なかなかな話だったよ。遠藤君も読んでみて」

「わかった」


 俺はアリス先輩の脚本を読んだ。ところどこに誤字脱字や変換ミスがある。まさに初稿といった感じだ。


 主人公(俺)とヒロイン(近藤さん)は幼なじみ。なんでも相談する仲だ。同性同士だったら親友だったに違いないくらいに。そんな二人が同時にクラスメイトから告白された。付き合うべきかどうか相談する二人。お互い、なぜか感じる嫉妬心……。


「意外に普通だな」

「と思うでしょ? もう少し読んでみて。けっこうヘビーだよ」


 促されるままに読み進める。


 そんな日常のある日、学校帰り。突然国道でトラックにひき殺される主人公(俺)。お約束通り異世界で転生、なぜか奴隷商人ギルドのボスに。そこで出会った上玉の性奴隷少女。なんとその少女はヒロイン(近藤さん)にうり二つだったのだ。性欲と道徳心の間で揺れる主人公(俺)。さあ、どうする主人公(俺)!?。


 ページをめくる俺の手が止まった。

 どうする主人公じゃねーって。

 エロ小説かよ。


「だめだろ、これ」

「だよねぇ」


 高校演劇で性奴隷とか無理だっつーの。何考えているんだアリス先輩。


「でも先輩によればこれが今の売れ線らしいの」

「売れ線? 高校演劇に売れ線とかあるのか?」

「ううん。高校演劇じゃなくてラノベ。今時のラノベはすっごいえっちなんだって」

「高校演劇にラノベを持ち込むなよ……」


 とさ。紙の束をテーブルの上に放り出す。


「無理だよ、こんなの。どう書き換えたって無理。異世界とか性奴隷とか、あり得ない」


 俺は吐き捨てる。


「でもアリス先輩はこれで決定って……」

「俺はやらない。こんなの、セクハラじゃないか。近藤さんいいの? ここの衣装指定見た? 異世界部分の衣装、マイクロビキニを基調としたウルトラセクシー衣装って書いてあるよ? そんなの無理でしょ?」

「え、えっと……うん……嫌……かな」

「だろ? 俺の衣装だって競泳水着をベースに股間を強調したストロングスタイルって書いてある。絶対嫌だよ、こんなの」

「……私も」


 ぽす。近藤さんも脚本を机の上に置いた。俺とは違って丁寧に。


「なあ近藤さん。明日部長に抗議しよう。俺、今まで散々あの人の悪ふざけに付き合ってきた。そして許してきた。だけど、さすがにこれは度が過ぎている」

「だよね」


 近藤さんがため息をつく。


「さすがに私もこれは無理」

「よし、出演拒否しよう。こんなセクハラ芝居、出る必要なんかない。ということで新しい脚本探そう、近藤さん。たしか高校演劇セレクションが20年分あるはず……」


 部室の資料本棚へ行こうとしたそのとき、


「そのことなんだけど……」


 と近藤さんが俺を引き留めた。そしてカバンの中に手を突っ込み、紙の束を取り出した。


「なにこれ?」

「脚本」

「脚本?」

「うん。実は……ちょっと前からね、脚本書いていたんだ」

「そうなの?」

「うん。あ、でも、今年の地区大会用じゃないよ? 地区のクリスマス公演の為に書いていたんだ」


 クリスマス公演か。上位大会には繋がらない大会ではあるが生徒には人気の大会だ。クリスマスということでテーマは恋愛に限定されており、地区大会とは違った趣の大会である。


「はい、これ、遠藤君の分」

「あ、ありがとう」


 意外だった。裏方志望の近藤さんだから、脚本とか書かないと思っていた。


「クリスマス公演用だったからアリス先輩と同じくラブコメなんだ」

「へえ」

「あ、でも、まだ途中までしか書いてないよ。だってクリスマス公演用だもん」


 頬を赤らめ、恥ずかしそうに近藤さんが言った。


「助かったよ近藤さん。これであのエロ脚本を葬り去れるな!」

「う、うん」

「ということで、こっちに決定だ」

「えっと、あの、……まず、読んで欲しいの。もし遠藤君が気に入らなかったら困るから」


 おそらく全然困らないぞ、と思いつつも「なるほど。一理あるな」と俺は答え、パラパラとページをめくった。


「へえ……」


 スターバックスが近所に出来て経営難になった老舗喫茶店。頑固な父親は全く経営を変えようとしない。そこで娘が一念発起、まずは敵を知ろうとスタバに潜入バイトとして。そこで出会ったひとりの男子高校生。実は彼は……。


 どことなく近藤珈琲店と近藤さんのお父さんを思わせる舞台設定。主人公はもちろん近藤さんそっくりだ。相手役の男子高校生は俺っぽいようなぽくないような。


「いいんじゃないかな。この男子高校生、なかなかにミステリアスだね」

「ふふ、でしょ?」

「この男子、久しぶりだねって言ってたけど、主人公と知り合いなの?」

「ひ・み・つ」


 悪戯っぽく近藤さんが笑った。


「ていうか、まだ書いてないんだ」

「でも設定とかはあるんでしょ?」

「それがないんだよ。ノープロットで書いているから」


 スティーブン・キングかよ近藤さん! キングが本当にノープロットかどうかは知らないけどさ。


「……でね、お願いがあるの」

「なんだ?」

「遠藤君といっしょにお話し作りたい。二人で脚本を完成させたいな」

「でもそれって逆に難しくないか?」

「難しくてもいい。私は遠藤君と、いっしょに一つのものを作りたい」

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