【萌々子視点】お兄様……
お兄様のばか!
萌々子、見たんです。
お兄様、あの女と手を繋いでいました!
学習会の終わる時間と部活の終わる時間が一緒だって知ってたから、萌々子旧校舎にお兄様を迎えに行ったんです。そしたら……演劇部の部室からちょうど二人が手を繋いで出てきたんです。それも、恋人つなぎで! とーっても仲よさそうに! さらにあの女、腰のあたりを押しつけかねない勢いでしたわ!
萌々子のお兄様になんて破廉恥なことを……!
萌々子、頭にきました。お兄様は萌々子だけのお兄様なのに。お兄様もお兄様です。無理矢理手を繋がれてるのに(多分)、強引に身体を密着されそうになっているのに(推測)、嬉しそうにしているんです。
お兄様のえっち! へんたい! そんなにあの女に触られて嬉しい? 萌々子じゃだめなの? 萌々子の方が気持ちいいに決まっているのに!
萌々子、よっぽど飛び出て二人のお手々をバチンとたたこうと思いました。でも、やめました。だって、萌々子が嫉妬深い陰湿な女性と思われたら嫌ですから。萌々子、明るく朗らかな性格なんです。小学校の通知表にそう書いてありました。
ふー。深呼吸。落ち着かなくちゃ。
ということで、こっそりお兄様と破廉恥女の行動を監視しました。校門のところで、二人は別れました。女が手を振ります。それにあわせてお兄様が手を振ります。
やっぱり。お兄様はあの女に気がありません。あの女が一人で手を振るのはかわいそうだから、あの女に合わせて手を振っているだけです。
やさしいお兄様。そんなお兄様につけ込むなんて。
萌々子、確信しました。あの女――近藤梨愛とかいう演劇部の人、絶対お兄様のことが好きです。それも、えっちな意味で好きです。だってあんなにくっつくんですもの。
この前だって……あの喫茶店でだって……あの女の手……すっごく下の方を触っていました。えっちすぎです! ばれてないと思っているでしょうけど、萌々子、見てました。萌々子ですら触ったことないのに!
おまけに、その後お兄様に膝枕を強制したりして。お兄様の太ももを触りまくっていました。すごく、大胆です、あの人。
喫茶店だけじゃない、きっと、普段から部室で何かしてるはず。そう思ってあとをつけたら……やはり、やっていました。案の定、あんな風に手を繋いでいました。
萌々子とお兄様、去年一年間は別々でした。その一年の間にあの人、お兄様にいったいどんなことをしてきたんでしょうか。萌々子、気になって気になって、勉強が手に付きません。
キスとかしたのかなあ? どうしよう、してたら。
さらに。もしかして。もしかして……。部活って合宿とかあるんです。一つ屋根の下で寝たりしてます。もしかして、去年の合宿でお兄様とあの女……まさか……。
だめ。想像しただけで萌々子、死んじゃいます。萌々子、お兄様と結婚する予定なのに。お兄様が他の女とくっついたら、萌々子、生きていけません。お兄様が他の女性とえっちなことするなんて、許されないことです。
萌々子、甘かった。お兄様って見た目はいわゆるイケメンではないし、ちょっと付き合っただけでは優しさとか性格の良さとかわからないから、他の女性が言い寄るなんて思ってもいませんでした。だからゆっくり、愛を育てればいいって思っていました。
甘かった。そんなのではお兄様を盗られてしまいます!
萌々子悔しい。
どうしよう。あの女とお兄様が……深い仲になっていたら。
――なんだかんだ言ってもさ、結局寝たもん勝ちなんすよ、男と女は!
――そうそう。身体から始まる恋もあるって言うじゃん? あれって、男にとってはマジ真実だからね。
――好き好き、愛してる、お願い、して! って言えばだいたいの男は落ちる!」
――イケメンは要注意だけどね、女慣れしてるからさ。あいつら、簡単に二股かける。
――だよねぇーっ!
この前、クラスメイトが見せてくれた人気動画。その人気動画の中でインフルエンサーのお姉様たちがそう言ってました。
幸いお兄様はイケメンではありません。女慣れしているとは思えません。
だとしたら。そうならば。
寝たもん勝ち です!
萌々子……頑張らなくちゃ。盗られる前に行動しなくては。
とりあえず。
手、繋いで帰ろ、お兄様!




