ラブコメ
「じゃあどこでかわいがっているんだ?」
しつこいなあ、アリス先輩。
「それ以上はセクハラですよ、先輩」
強引に話題を断ち切った上で、
「とりあえず、俺は萌々子を誘う気はないんで」
と宣言した。
「そうか。残念だ。じゃあ私が勧誘してみよう」
「やめてください」
言ったのは俺ではなく近藤さんだった。
「ん? どうしてだ、近藤君」
「アリス先輩は演劇、好きですか?」
「もちろんだ」
「とてもそうとは思えません」
「どういうことかな?」
「私たち、大会に出たくて演劇部にいるんじゃないです。本当に演劇が好きな仲間とお芝居がしたいから演劇部にいるんです。そんな、人数あわせのためだけに演劇に興味ない人を勧誘するなんて、嫌です」
近藤さんが珍しく強い調子で言うと、アリス先輩の顔つきが変わった。
「……うむ」
腕組みをしてアリス先輩が考え込む。
「確かに。近藤君の言うとおりだ。一般的な部活動勧誘行為は潜在的な参加希望や興味関心を顕在化させ意識させることが目的だ。無意識領域にある願望を引き出すためには多少乱暴な手も必要とはいえるのだが、それにしても全く入部の意思がない人間を入部させるのは問題だ。そもそも人間の意識というのは……」
自己陶酔しながら語りだすアリス先輩。そこに、
「とにかく、岡本さんを誘うのは駄目ですよ?」
と、近藤さんがカットインを決める。
「……わかった」
今まで話を中断されたことなどないアリス先輩なのだ。初めての経験に呆気にとられつつも頷いた。
「そうか、近藤君がそこまで演劇が好きだったとはな」
「はい、大好きです」
「かなり本気と思っていいんだな?」
「もちろんです」
「そうか……」
妖しい笑みを浮かべつつ、アリス先輩が妖艶な仕草で脚を組み替えた。スカートが大胆にめくれ、ふとももの真ん中あたりまで黒タイツが見える。そのままのポーズでふわっと黒髪をかき上げた。
悪魔的笑顔にセクシーに組んだ脚。アリスポーズの完成である。それはすなわち、先輩が何かよからぬこと――先輩の主観ではおもしろいこと――を思いついた時のポーズだ。
「そんな近藤君に提案だ。前にも言ったとおり今度の大会はキミと遠藤君二人のラブコメだ。大体かき上げているのだが、どうもリアリティに欠けていてね」
すっ。アリス先輩が立ち上がり、近藤さんの背後に回った。
「そこでだ……」
アリス先輩が近藤さんの髪の毛をかきわけ、耳元に口を寄せ、俺には聞こえない小声で何かを囁いた。
「はい……はい……え? いや、そ、それは……」
近藤さんが困ったような目で俺を見る。アリス先輩もチラチラ俺を見る。そしてにやける。
「えと……ま、まあ、その……そうです」
「だろ?」
近藤さんから少し距離をとってアリス先輩が言った。
「そこで、だ」
再び先輩は近藤さんに顔を寄せ、俺には聞こえない声で囁く。
「ひゃ!?」
近藤さんが驚く。俺の知っている限り過去最大に近藤さんの目がまん丸になった。
「だめか?」
「い、いえ、だめというわけでは……」
「そうか」
アリス先輩が意味深な笑みを浮かべた。
「ならば、わかったかな?」
と近藤さんに言った。
「え……えーと……困ります……そんな……初めてだし……」
「よいではないか、よいではないか」
「お、お父さんに怒られちゃいます」
「誰もが一度は経験することなんだよ」
「わ、私、……初めて、なんです。……そういうの」
「いいじゃないか、初々しくて。私はまさにそういうのが好みなんだ。何も知らない純な乙女の未熟かつ大事な部分をこじ開ける。まさに醍醐味だよ」
なまめかしく近藤さんを見つめ、近藤さんの髪の毛を指でもてあそびながらアリス先輩が言った。
「こ、こじ開けないでください!」
ぷるんぷるんと頭を振りアリス先輩の手を遠ざける。
「痛いのは最初だけさ。痛みはやがて快感へと昇華されるんだ。さ、ぐいっと開いておくれ」
「そ、そんな、強引すぎます!」
「嫌よ嫌よも好きのうち、というではないか。心の底では……やりたかったんだろ?」
近藤さんの顔がかーっと赤くなった。
「え……えっと……」
「素直になるんだ、近藤君」
「……はい」
「それでいい」
二人同時に俺を見た。満足げにアリスポーズのまま微笑むアリス先輩。それとは対照的に困惑気味の近藤さん。俺に投げかけられる二つの視線。
俺は予感した。何かが起こる。間違いない。




