アリス先輩は気になる
退屈な授業が終わって放課後。
まだ木曜日という事実が驚きだ。
始業式は月曜日。火曜日に部活動紹介は俺と近藤さんでやれと言われ、水曜日に実行。そこからの近藤珈琲店。
「ふう」
ため息交じりに部室へ行く。
「おう、遠藤君ではないか。ちょうど君の話をしていたところだ」
部室では近藤さんとアリス先輩がトークを繰り広げていたようだ。俺について。
「どんな話です?」
鞄を置き、長テーブルの所定位置に座った俺はアリス先輩に尋ねた。
「ふふ。聞きたいかい?」
「ええ」
「なら教えよう。君の性生活についてだよ」
「は!? 性生活!?」
「そう。性生活。あるいはナイトライフ。例の萌々子君とかいう幼馴染みと同棲しているらしいな、遠藤君。なんでも同衾する関係だとか。いやはや、驚いたよ。女性に対しては奥手だとばかり思っていたキミが、まさか既に毎晩夫婦の営みに勤しむ非チェリーボーイだったとはね。身体はもう大人ってわけだ」
静かに目をつぶり感慨深げにアリス先輩が言った。
「ちょ、待ってください! 誤解です!」
「遠藤君、もうチェリーボーイじゃないの?」
平然と凄い質問するな、近藤さん。
「だから、誤解だって!」
「ふーん。そーなんだ。ところでチェリーボーイってどういう意味なの?」
近藤さん、知らずに聞いてたのかよ!
「わからない言葉はネットで検索だ、近藤君」
「あ。なるほど。ですね」
近藤さんが鞄の中からスマホを出す。
「こ、近藤さん! 調べなくていいから!」
「なんで?」
「なんででも!」
「ふーん」
近藤さんが再びスマホを鞄にしまった。
「アリス先輩、いい加減なこと言わないでください! 俺と萌々子、そんな仲ではないですから」
「近藤君によれば萌々子君が言ってたそうじゃないか、キミと同棲してるって。お盛んな男子高校生、それも両親が長期不在。そこで始まる美人幼なじみとの同棲。ヤらない方が不自然てもんだろ?」
「発想が不健全ですよ、アリス先輩! あと、萌々子はボキャブラリーがおかしいんです! 同居と同棲の違いがわかってないんですよ!」
「でも」
岡本さんが割り込んできた。
「岡本さん、遠藤君と一緒に寝てるって言ってたよ?」
ああ、言ってたね。でも、俺、それは昔の話だって言ったと思うんだ。近藤さん、昨日、俺の話聞いてたよね?
とにかくこの話題は終わりにせねばならない。なにか別の話題に切り替えねば。
「俺の話なんてどうでもいいんですよ、アリス先輩。そして近藤さん! 我々の直近かつ重要課題は地区大会です! 部員確保です! 俺がどんな私生活してるかなんて関係ないでしょ?」
とりあえず啖呵を切ってみた。
「それはそうかもしれんが、キミがJKと同棲し一つ屋根の下でどのような行為に及んでいるかは気になるだろ?」
「気にしないでください!」
完全に発想がエロオヤジだな、アリス先輩。
「まあ、確かに遠藤君のいう通りだ。我々が考えるべき喫緊の課題は新入生の確保。これ一点のみだ」
「そうですよ、まさに新入生確保こそ俺らの問題です! だって、今日から仮入部期間なんですよ? 来週の金曜まで、今日が木曜日だから、木・金、土日挟んで月・火・水・木・金の7日間で部員勧誘しないと、このままでは来年、同好会落ちですよ!?」
「そうなの、遠藤君? 来年新入生が入れば大丈夫なんじゃないの? だって部員3人以上で部活動認定でしょ? アリス先輩がいなくても私と遠藤君のふたりでがんばって勧誘すれば……」
「いや、遠藤君が正しい」
アリス先輩が口を挟んだ。
「部活動か同好会かの判定は3月31日、入学式以前なんだよ近藤君」
「だったら、3月までに勧誘すれば大丈夫なんですよね?」
「それがそうとも言えないんだ」
「どうしてですか? 途中入部で部員数が増えることないんですか?」近藤さんが聞く。
「理屈上ではありうるが、実際にはこの仮入部期間で皆決めてしまうんだ。仮入部期間後の入部はほとんど存在しない」
「でも、部活やめる人とかいるかも」
「近藤君、どうして部活をやめるか、考えたことあるかな?」
「いいえ」
「ならば解説しよう。部活を途中退部する主たる理由は成績降下による親からの圧力なんだ。そんな彼らは成績向上するまでどの部活にも入部できないし、だいたいそういう生徒の成績不振の理由は部活ではない。スマホゲームのやりすぎかYouTubeの見過ぎなだけだ」
「そうなんですね」
近藤さんが納得した。
「話を我が演劇部に戻そう。我々の地区の大会は7月下旬。一学期の成績が出てしまっているんだ。仮にここまで部活を迷ってる生徒や部活を辞めた生徒がいても急降下した成績に部活を諦めてしまうだろうよ」
すげー決めつけだな。
「よって地区大会後に勧誘は無理だ 」
……かな?
「ということでだ。今、この段階で新入生を勧誘しなければ来年の4月同好会となり来年の大会参加が制限されるのだよ。どれだけ新入生が入部しようともそうなるんだ」
「同好会になったら大会に出られませんよね?」
不安そうに近藤さんが言った。
「ああ、その通りだ。このまま新入生が来なければ……ね」
黒板の前のアリス先輩が俺の方へ歩み寄ってきた。
「そこでだ。遠藤君。キミにお願いがある」
「はあ。なんでしょう」
ぐっと顔を俺に寄せ、
「毎晩キミがベッドでかわいがっているJKであるところの萌々子君。彼女を演劇部に誘ってくれないか?」
と、アリス先輩が言った。
「どんな風にベッドでかわいがるの?」
俺とアリス先輩を交互に見ながら近藤さんが言った。
近藤さん、高校2年生だよね? 意味わかるよね? わかって言ってるんだよね?
「俺は萌々子をベッドでかわいがってなんかいません!」




