ごちそうさまでした
「むふう……」
ピザトーストを口にした俺から変な声が漏れ出た。
どうせ適当にケチャップでも塗ったんだろと思っていたピザトーストだったが、違っていた。市販のピザソースを使ってはいるのだが、どうも一手間加えてあるようだ。
端的に言って、旨い。
「……どうですか?」
心配そうに萌々子が俺をのぞき込む。
「美味しい。すごく美味しい」
「ほんと?」
「ああ。マジ旨い」
「どんなふうに?」
「えーっとスパイスが辛くて、ピーマンが苦くて……とにかくヤバい」
「美味しくないってこと?」
「そんなことないって、美味しいって!」
すまん萌々子。俺、語彙力ないんだ。
「スクランブルエッグは? それね、フランス風なんだよ?」
「ほほう、フランス風」
スクランブルエッグにフランス風とかあるんだ。知らんかった。ふるふるでほわほわなスクランブルエッグにスプーンを突っ込む。ぷるぷる震える卵の塊がスプーンに運ばれて口の中へ入った。
「……むふう」
再び俺の口から変な声。こんなの食べたことがない。去年、俺が作っていたスクランブルエッグとは比較にならぬ。サラダ油を引いて、適当に塩こしょうで卵を炒めたものではないようだ。なんかクリーミー。
「そのレシピはお母さんのレシピなの」
「なるほど」
日本料理の板前を目指していた萌々子のお母さん、フレンチも出来るのか。すげーな。そういえば実家老舗料亭の内紛ってどうなったんだろう。
——そーねー……まあ、解決には数年かかるとは思うわ。でも緊急かつ重大な問題のいくつかを整理すれば、とりあえずはこっちに戻ってくれると思うのよ。だから長くて半年だと思うわ。その間、萌々子をよろしくね、一郎ちゃん! あ、萌々子にはまだあなたたちの婚約のことは話していないの。秘密にしておいてね?
って、萌々子のお母さんは言ってたけど、どうなんだろ?
「サラダも旨いな」
「へへーん」
自慢げに萌々子が笑う。
「このドレッシング、この前萌々子が作ってくれたのとは味が違うな?」
「ええ。これはネットで見つけたレシピなんです」
「ふーん。ところで萌々子は食べないのか?」
「もう食べちゃいました」
「そうか」
「どうでした? 萌々子珈琲店のモーニング」
「美味しかったよ」
「どれくらい?」
萌々子の大きな目が俺の瞳を見つめる。このシチュエーションには覚えがある。先日登校途中で同じ質問をされた。あのときと一緒だ。美味しかったとか、日本一旨いとか、世界で一番のモーニング、とか当たりきりな感想じゃだめなんだろ?
まかせろ。俺は学習した。
「三次元で一番美味しいモーニングだったぞ」
「……お兄様の意地悪!」
予想外の反応に俺は戸惑う。
「なんでだよ? 三次元で一番だぞ? これ以上ないってことじゃないか?」
「二次元世界には萌々子のモーニングより美味しいのがあるってことです!」
「二次元?」
「はい! アニメとかマンガとか!」
確かに二次元だろうけど。そこと比べるなよ。非実在モーニングだろ?
「……わかった。多次元宇宙において一番美味しい」
「本当に? ホントにホント? 近藤なんとかってお店より美味しい?」
「ああ」
近藤さんちのモーニング食べたことないけどな。もちろん、三次元以外でモーニング食べたこともないぞ。
「さ、そろそろ準備して学校に行こう。遅刻するぞ」
「はい、お兄様」
食器と調理器具を食洗に突っ込み、身だしなみを整えてから俺と萌々子は家を出た。




