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いくときはいっしょです、お兄様

 駅へ向かいながら俺は考えた。俺はこのまま萌々子と一緒に学校に行っていいのだろうか?

 仮に本当の兄妹だったとして。高1と高2の兄妹が仲良く登校するのか? 兄が妹に同伴登校を持ちかけようものなら「は? アニキと一緒に登校? 意味わからんし。うざ」などと捨て台詞を吐かれ、捨て置かれてしまうものなのではないだろうか?


 大前提として俺と萌々子は兄妹ではない。血縁関係はない。ただの幼なじみ、元お隣さん、というだけ。幼なじみと一緒に登校するのは普通だろうか? いや、普通ではない。


「突然だが、ここから先はバラバラで登校しないか?」

「バラバラ?」

「そう、バラバラ。お互いひとりで登校しよう」

「えー、なんでー?」

「なんでって……普通男女で登校しないだろ?」

「してる人いますよ?」


 萌々子がべったりくっついて歩く他校生カップルを指さした。


「なんであの人たちは良くて萌々子たちは駄目なんですか? 学校が違うから、なんて言い訳は通用しないよ?」

「あの2人、おそらく恋人どうしだ。付き合っている」

「付き合ってたら一緒でよくて、兄妹だったら駄目なの?」

「いや、兄妹じゃないし」

「うー!」


 俺を威嚇し始めた。子犬のようなうなり声で。


「付き合ったらいいんですか?」

「理屈の上では」

「じゃあ、付き合う! 萌々子、お兄様とお付き合いする!」

「アホなこと言うな」


 えー、なんでー、と萌々子が騒ぐ。


「だからだなあ、俺とお前は幼馴染みではあるけど、それこそ萌々子が言うようにお互い兄妹のようにして育ってきたわけだ。俺にとってはある意味妹以上に妹で、でも、異性なんだよ。わかる?」

「わかりますよ。お兄様にとって、萌々子は妹だけど異性として意識しちゃう存在だってことですよね?」

「そのまとめ方だと、ちょっと意味が違ってきてないか?」

「違いません。さあ、お兄様。萌々子は異性です。年下の女の子です。彼氏大募集中です。妹みたいな彼女になります。だから付き合って、お兄様!」


 萌々子が両方の腕で俺に抱きついてきた。その腕を丁寧にほどきながら「そのうちな」と俺は返答した。腕をほどき終わると萌々子が立ち止まった。


「ん? どうした? 遅れるぞ?」

「……本気にしてない!」

「するわけないだろ? 今まで何回俺に告白したと思ってるんだ? 俺の記憶だと少なくとも10回は……」


 たたた、と萌々子が駆け足になって俺の前方に回り込んだ。


「お兄様の意地悪! 萌々子、ひとりで学校に行く!」


 萌々子が走り出した。


「お兄様のばーか!」

「おい、待てよ」


 萌々子は立ち止まり、まるでマンガみたいに「べーっ!」とあっかんべーして再び走り出してしまった。


「……ったく」


 萌々子は角を曲がって消えた。

 仕方ない、追いかけるか。俺も走り出した。

 角を曲がる。すると美少女がいた。萌々子だ。


「はあはあ……」


 肩で息をしている。俺は歩み寄り、


「……もうバテたのか?」


 と声を掛けた。


「誰ですか? 知らない人とはおしゃべりできません!」


 ぷい、と萌々子がそっぽを向く。


「怒るなよ」

「怒ってな……あ……ああ」


 いきなり萌々子の足がよろめく。


「なんだか……ふらふらします……」


 萌々子の身体から力が抜ける。萌々子は低血圧だ。なのに朝からダッシュなんかするから、立ちくらみになったんだ。


「大丈夫か!?」


 萌々子に寄り添い身体を支える。ふわ。柔らかい身体が無防備に俺に預けられた。両手を萌々子の背中に回し倒れないようにぎゅっと力を込める。萌々子も自然と俺の背中に手を回す。顔が俺の方に倒れた。


(……思ったより胸が大きいな)


 朝、ベッドの上で背中で感じたのとは全然違う。俺が力を入れることにより発生する反発力。広がる表面積。それを俺の大胸筋と表皮が受け止め、脳に信号を送る。


 想像以上に萌々子の胸は大きく、柔らかだった。


(15歳だもんな……)


 お互いを異性として尊重する必要がある。朝、自分で言った台詞だ。どうも俺はわかってなかったようだ。異性とはどういうものか。第二次性徴とはどういうものかと。


 ()()()()()()なんだ。


 ステータスオープン。保健体育の偏差値をチェック。うむ。5ポイントほどアップしたようだ……。


 などと考えている場合ではない。萌々子を介抱せねば。


「萌々子、きっと低血圧のせいだ。しばらく座っていれば……ん?」


 俺は異変に気がついた。どんどん萌々子の胸が押しつぶされている。ていうか、萌々子が腕に力を込めている。さらにしっかりと大地に立っている。


「あれ? 萌々子? 大丈夫になった?」

「へへ。騙された」


 耳元で萌々子が囁いた。


「騙された、だって?」

「はい」

「どういうこと?」

「萌々子、別に倒れてなんかいません」

「じゃあなんで……」

「お兄様に抱いてもらうためです」

「はあ? なんだそれ?」

「萌々子に意地悪した償いです! お兄様が萌々子に意地悪するから、お詫びの印に抱いてもらいました」

「抱いてもらったって……」


 その言葉だけ聞くと性的な意味に聞こえるんだけど。


「ていうか、萌々子、本当に低血圧なんですよ? もしかしたら、本当に倒れるかもしれないんです。ひとりで駅まで行く途中倒れたら、お兄様はどうするの?」

「どうするって……」

「道路で倒れて、車にひかれて死んじゃったら、お兄様のせいだからねっ!」

「それは飛躍がすぎるだろ?」

「すぎないですっ!」


 萌々子が俺の顔をのぞき込む。まだ抱きあったままなのでめっちゃ顔が近い。薄いピンクで艶やかな唇。大きな瞳に長いまつげ。ちょっとだえけ垂れ目気味。さすがにここまで顔を寄せたことは今までない。


(綺麗な唇だな)


 どれくらい柔らかいのだろう。潤っているのだろう。


 いやいや。相手は萌々子だ。萌々子なんだぞ。


「……とりあえず、離れようか」

「いっしょに学校に行ってくれる?」

「いや、だから、それは……」

「一緒に行ってくれないとやだ」

「とはいっても……」


 彼女などいない俺。今まで女子と一緒に登校したことなど、萌々子と小学校に通ったとき以外は経験がない。中学になると俺と萌々子の両親は社宅を出て一戸建てを購入した。だから同じ中学だったとはいえ、俺と萌々子は別々に登校していたのだ。


「手は繋ぎませんから。それだったらいいでしょ?」

「……そうだな」

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