近藤さんはドキドキしたい
「うん。だって高校時代に恋したいじゃん。ね、遠藤君?」
「は、はい!?」
「私と遠藤君は今は友だちだけど、もしかしたら恋人になるかもしれない。そう思うと、なんだか毎日どきどきしない?」
そんなの、毎日ドキドキしまくるって。
ていうかさ。近藤さんて……もしかして、俺のこと……好きなの? そういう展開? お父さんの前で告白からの交際宣言しろってこと?
「そ、そうだな。ドキドキは……するかな」
「よかった。じゃあ、ドキドキしようね、毎日」
「お、おう」
「いつか遠藤君に恋する日が来るのかなあ。なんか想像できないね。だって遠藤君、恋人っていうより友だち……ううん、友だちというよりも、お兄さんって感じなんだもん」
俺の中で何かが崩れた。お兄さんかよ。それって恋愛対象じゃないってことだろうよ。俺がしなびていくのとは対照的に近藤さんのお父さんはモリモリ元気を取り戻した。
「そっか! お兄さんか! おい、遠藤君とやら! 誕生日はいつだ?」
「4月2日です」
しなびた声で俺は答える。
「ほほう! ということはもう17歳か! ちなみに梨愛は12月24日、クリスマスイブの生まれだ! 聖なる日に生まれた聖なる娘だ! 覚えておくといい!」
「はあ」
「そうか、恋人でもなく友人でもなく、お兄さんなのか、君は! はっはっは。これは気分が良い。そうだ、特別に特製プリンをサービスしてやろう!」
妙に上機嫌な近藤さんのお父さん、俺にプリンをプレゼントしてくれた。
「遠慮せず食べろ!」
「はあ」
「美味しいよ、そのプリン」
無邪気に笑いつつプリンを勧める近藤さん。そんな近藤さんの笑顔が今となっては残酷だ。別に何か期待していたわけではない。恋人になりたかったわけじゃない。
美人で有名な近藤さん。高嶺の花過ぎて男子が手を出せない近藤さん。そんな近藤さんと同じ部活で親しくしゃべることができるというだけで俺は満足だったはずだ。……知れば知るほど近藤さん、不思議ちゃんなとこあるしね。俺にとっても恋人というよりは妹的な感じではある。守りたいような、構ってあげたいような。そんな感じだ。
とはいえどこかでお付き合いを期待する部分もあったけどな。
高校生なんだ。そういう複雑な感情、当たり前だろ?
それはともかく。俺、まだハンバーグトースト食べ終わってないんだけど。近藤さんがプリン勧めてくれるの嬉しいけど、それデザートだよね?
「ここだよ、近藤珈琲店!」
「へー! おしゃれー! ちょ、何これ? デカ! ヤバくない?」
「コーヒー豆を焙煎する機械なんだって」
「へー! ……バイセンってなに?」
けたたましい女子学生の声。近藤珈琲店に客が来たようだ。入り口は俺の背後にあるので俺からは見えないが。
「いらっしゃい」
やけに優しい感じのイケボじゃないかよ、近藤さんのお父さん! 俺に対してはヤクザのごときドスがきいた声だったのによ!
「あ、ウチの学校の生徒だね、あの子たち」
近藤さんが後ろを振り返る。俺も振り返ってみた。
確かに同じ制服だ。真新しい。金の縁取り校章ということは特進クラスか。
「あれ? お兄様ではありませんか!?」
隣のボックス席から声がした。
「萌々子!?」
「はい、萌々子です」
間違いない。萌々子だ。
「あれが萌々子さん? かわいいね」と近藤さん。
こつん。近藤さん、頭を動かしすぎ。俺とぶつかったぞ。
「誰? その人?」
萌々子が露骨に不愉快そうに言った。




