近藤さんは粘りが違う
「え? どういうことですか?」
近藤さんが聞いた。
「今回は私は出ない。私は作・演出に徹する。出るのは遠近コンビ、君たちだ!」
「「ええーっ!」」
俺と近藤さん、同時に叫ぶ。
「無理です先輩! 私、照明と音響なんですよ?」
「そうですよ先輩! 俺と近藤さんが舞台に立ったら誰が音響と照明の操作するんですか?」
「もちろん、私と新入部員だ」
新入部員はいる前提かよ。俺たちの新入生勧誘舞台を見ていたらそんな前提に立てなかったと思うよ、アリス先輩。
「新入部員が入らなかったら、どうなるんですか?」
俺より先に近藤さんがぶち込んだ。
「案ずるな。仮に部員が私一人になっても上演することは可能だ。手はある」
どんな手だろう。
「だが私は3年生。私が主演だと仮に全国大会に出た場合、主役交代となってしまう。性別からいって近藤さんが主役になるのだが、大丈夫かな? 役者未経験で初舞台が全国大会となるのだが?」
「そ、それは困ります!」と近藤さん。
「だろ? となると私が舞台に立つという選択肢はなくなる。入るかどうかわからない新入部員に期待するのはハイリスクだ。となれば君ら遠近コンビが舞台に立つのが論理的帰結ってものだろう?」
俺は何か理由をつけて言い返そうとしたが、何も思いつかない。
「安心しろ。そんな難しい芝居じゃない。今日やったラブコメだ。普段通りの遠近コンビで演じればいい。シャイでウブで自然な感じが審査員の心を鷲づかみにすること請け合いだ」
「ラブコメ……ですか?」
と俺が聞くと、アリス先輩はにこやかに頷いた。
「そう。ラブコメ。甘く切ないぞ」
「あのー……もしかして、私と遠藤君、恋人って設定になるんですか?」
戸惑った表情で近藤さんが言った。
「いわゆる両片思いってやつだ。私もすでに高校生活3年目。教室の内外でお互い好き合っているのになぜか付き合わない不思議な男女を何組も見てきた。アレこそ青春だなあ。そう私は思ったのだよ」
「アリス先輩はそういう経験ないんですか?」
近藤さんが鋭く切り込んだ。やるな、近藤さん。
「ないな。残念ながら」
落ち着き払った声でアリス先輩が言った。
「でもアリス先輩のこと好きって男子多いですよ? ファンクラブがあるって噂もあります」
近藤さん、粘った。
「もちろん、知っている。教室ではもう少し女性らしく、かつ、上品に性的魅力もアピールしているからな。こんな感じで」
アリス先輩の身体から少しだけ力が抜けた。するとどうだ、なんと微妙に身体のラインが強調されたではないか。
「先輩、胸おっきいですね……」
近藤さんがしげしげとアリス先輩の胸を見つめる。
「ふふ。標準よりは大きいぞ」
たしかに大きい。今までブレザーで締め付けられていた二つの膨らみ。それが解放されたのだ。ブレザーのボタンを弾き飛ばしそうなほどの張り。うっすらわかる乳の形。エロい。健全ではあるが、エロい。
「脚も……きれいです」
「そうか?」
先輩の微妙なスカートの張り付き具合。それが太ももの全容を明らかにしている。軽く開いた両膝の隙間からみえそうでみえない漆黒の空間。無邪気ゆえのセクシーさといえよう。
「こういう風にしているとだね、男子生徒の様々な視線を日々感じるんだな。その中には劣情もあれば恋愛感情もある。だが残念なことに、私の心を動かすような男性はこの学校にはいないんだ」
芝居がかった表情で遠くを見つめるアリス先輩。
「でも、先輩のお家にはいるんですよね? 先輩の心を動かす男性」
ガタッ。アリス先輩のバランスが大きく崩れる。
「な、なんのことだ近藤さん」
素に戻った先輩。声もうわずっている。そんなアリス先輩の変化に気がついているのかいないのか。近藤さんはなおも突っ込む。
「お兄さんでしたっけ? アリス先輩の理想の男性って」




