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近藤さんは上手に突っ込んでほしい

「はぁ……。やっと終わったぁ……」

「終わったな」


 次の日、放課後。なんとか無事に部活動紹介を乗り切った俺と近藤さんは講堂の舞台袖で精神的疲労の極地にいた。


「新入部員、入ってくれるかなあ?」


 舞台上では放送部の創作テレビドラマ(の一部)が上演されていた。数年前、彼らの先輩がNコン(NHK杯高校放送コンテスト)全国大会に出場したときの映像だ。


 はっきりいって、演技がうまい。俺たちより。演劇部より数段上の演技・照明・音響効果だ。


 仮に演劇志望の新入生がいたとしても演劇部ではなく放送部に入るだろう。新入生獲得は絶望的だ。


 ねーよ。誰も入らねー。そう思いつつも俺は近藤さんに「さー。どーだろー」と答えた。


「あんなに恥ずかしい思いをしたんだよ、一人くらい入ってくれないと報われないよね?」


 まっすぐ放送部の舞台を見たまま近藤さんが言った。俺は横目で近藤さんを見た。近藤さんも俺を見る。目が合った。目には諦めの光。


「一人くらいは入るんじゃないのかな」

「……かなあ」


 ふう。近藤さんの深いため息。


 近藤さんが演じた「勧誘上手の近藤さん」が繰り出したボケ。ちゃんとした演技派高校生が演じれば、あるいは俺のツッコミがプロ級なら、ドッカンドッカン笑いが起こったかもしれない。そうすればエンタメ志向の生徒が来て倉田かもしれない。放送部は本格シリアスドラマ志向。笑いやアクションとは無縁だからな。差別化が図れただろうよ。


 しかし所詮俺と近藤さんド素人。ほぼ全部、ギャグは滑った。ボケとツッコミが成立してせず、ひたすら気まずい空気が板の上を支配した。当然客席はツンドラの大地以上に底冷え。


「遠藤君、突っ込むの上手じゃなかったの? 得意なんでしょ、突っ込むの」


 つぶらな瞳でそんなこと言わないでくれないかな、近藤さん。さすがにドキドキしちゃうだろ?


「そういう突っ込みは得意じゃないんだよ」

「じゃあ遠藤君はどんな突っ込みが得意なの?」

「それは……アレだよ、アレ」

「アレ?」


 言ってから考える。


「そう、アレ。ほら、あの……そう、木工工作の突っ込みだよ。ほぞ穴にほぞを突っ込むやつ。あれが得意なんだ」

「ほぞって、なあに?」


 上品に首をかしげる近藤さん。


「スマホで検索してみてよ」

「そっか。そーだね。うん。あとで検索してみる」


 真面目な近藤さんは「授業中・部活動中のスマートフォン使用禁止」という校則を守り、その場での検索はしなかった。


「そろそろ部室に戻ろうか」


 いつまでも舞台袖にいるわけにはいかない。上演中の退出は禁じられているので、放送部の部活動紹介が終わったタイミングで俺と近藤さんは舞台袖から退出、講堂を後にした。


「ただいまですー」


 部室に到着。旧校舎特有の古ぼけた扉を近藤さんが開いた。

 アリス先輩が入部説明会を開くべくセッティングにいそしんでいた。黒板に年間スケジュールを書いていたようだ。


「おかえり。どうだった? 部活動紹介は?」

「はい、遠藤君が頑張ってくれたんで、無事終了しました」


 俺、なにか頑張ったかな。


「そうか。それはよかった」


 カツカツカツ。摩耗してツルツルになっている黒板に年代物のチョークで先輩は予定を書いていく。

 最後に「全国大会は次年度の夏休みです。3年生は出られません」と書いた後ちょっとだけアリス先輩はいつもと違う表情で黒板を見つめた。


 そうなんだよな。演劇の大会って2年かかるんだよ。夏に地区大会、秋に県大会、冬にブロック大会があって、全国大会は翌年夏休みに実施される高校総文祭なのだ。アリス先輩は3年生。来年は大学生。だからどんなに頑張っても全国大会には出られない。そりゃ感傷的にもなるよな。


「さてと。こんなものかな」


 だがすぐにいつもの先輩に戻った。クールビューティーを気取っていても普通のJKじゃないか。うん。なかなかかわいいとこあるじゃないか。


「ん? どうした? 私の顔に何か付いているか?」


 そんな俺の思考を読み取ったのであろう先輩が俺に尋ねた。


「別に何も付いていないです」


 アリス先輩の意外な一面を発見した俺。喜びとも勝利感ともつかぬ、まさに「してやったり」感的な感情を感じていた。だがそれを表に出すわけにはいかぬ。なんともないですよ的な声色で俺は返事した。


「ほほう。では、なぜ、そのようなどことなく上から目線で私を見るんだい?」


 ばれてた。さすが演技の達人。他人の演技を見破るのはお手の物ってことか。大体俺、演技したことねーし。


「私は3年生。全国に出ることはかなわない。黒板に年間スケジュールを書くうちにその現実に気がつき、思わずセンチメンタルになった。そう思ったゆえの同情心が上から目線を導いたのかな、遠藤君?」


 続けてアリス先輩がたたみかける。図星である。まさに図星であった。


「あー……いや……その」


 抵抗しても無駄であろう。


「……そんなとこですかね」


 観念して正直に答えた。ふふ、と今度はアリス先輩が上から目線で微笑んだ。


「心配しなくていいよ遠藤君。ちゃんと手は打ってある」

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