近藤さんはやる気まんまん
怪訝な顔で俺はアリス先輩の顔をのぞき込む。アリス先輩が怪しい微笑みでのぞき返す。そして、
「私が調べたところによるとだ、あのアニメ、高校生の間ではそれほど流行していなかったのだな。あれは小学生と親世代に人気だったんだ。ターゲット戦略の過ちというわけさ」
勝ち誇ったかのように宣うアリス先輩。先輩の演説は続く。
「つまり、目の前の観客イコール大衆と一括りにしたのが間違いだった。そこで私は考えた。目の前にいる観客についてね。明日講堂に集まる新入生とは何か? その本質を問い詰めてみた。結果わかったんだ」
鼻息荒くアリス先輩が語る。
「えっと、何が本質なんですか?」
「知りたいかな、近藤さん?」
「ええ」
「ならば教えよう。なんと、新入生はつい先月まで中学生だったのだよ。つまりだね、半分中学生、半分高校生なのだ!」
いや、それ、当たり前だし。
「私は考えた。ナウな中学生に受けているものは何かを考えるべきだったのだな。ということでかつては中学生であった遠藤君よ。ナウな中学生にバカウケするものって何か、知ってるかい?」
と俺に問いかけてきた。
「いえ」と俺。
「なら覚えておくといい。ラブコメだよ、ラブコメ」と先輩。
「ラブコメ……ラブコメディのことですか?」と近藤さん。
「そう。ラブ&コメディ。図書委員長に聞いたのさ。彼の妹は中学生だからな。その答えがラブコメだった」
先輩の怪しい笑顔。
なんだろう。背筋がぞわぞわする。よくないことが起こる予感だ。
「ということで、今年の部活動紹介は遠近コンビにラブコメを演じてもらう」
「「ええーっ!」」
俺と近藤さん、同時に叫んだ。
「ちょっと待ってください、アリス先輩! くどいようですが、俺、大道具ですよ!?」
「私だって、音響と照明担当です! 演技なんか無理ですよぉ!」
近藤さんも困惑している。
「だいたい部活動紹介は明日ですよ? 今から芝居の練習って、俺には無理です!」
「私も無理です! だよね? 遠藤君!」
俺に同意を求める近藤さん。
「この2年間役者としてバリバリに活動してきたアリス先輩と俺たちは違うんです。俺と近藤さん、裏方なんです!」
力を入れて説くから力説という。まさに俺は力説した。
だが、俺の力説は歴戦錬磨のアリス先輩の前では無意味だった。
「はっはっは。そんなことは百も承知、計算の上だよ。大丈夫、台本見ながらやっていい」
「え? 台本見ながらやるんですか? 演劇部なのに? それじゃあまるで素人じゃないですか?」
「ナイス突っ込みだ遠藤君。さすが、彼女が出来ただけのことはある。突っ込みが違うな!」
なんだよそのボケ! 親父ギャグかよ! 下品だろ!
「なんで彼女がいると突っ込みが違うんですか?」
いやいやいや、ボケに突っ込まないで、近藤さん!
てかさ、わかれよ! 高校2年生だろ!?
「ふふ。それは直接遠藤君に聞いたらどうかな?」
意地悪く微笑むアリス先輩。
「そっか。そーですね!」
くるり。近藤さんが俺を見た。
「ね、遠藤君、なんで彼女がいると突っ込みが違うの? あと、いつ彼女出来たの? 春休み? 相手はどんな人? 私の知ってる人? 遠藤君てジェンダーフリーじゃないから、相手は女の子だよね?」
ぐいぐい近藤さんが迫ってくる。
「違うんだよ、近藤さん。アリス先輩の勘違いなんだ。俺に彼女はいない。フリーだ。あ、ジェンダーフリーのフリーじゃないぞ。ていうかさ、今その話すべきじゃないだろ? 今すべきことはアリス先輩の計画を阻止することじゃないのか?」
「ん!? そうね、そうだったよ、遠藤君!」
近藤さんが俺から目をそらし、大きな瞳でアリス先輩を見る。
「いくら台本見ながらでも私と遠藤君じゃ無理です。だって演技の基本がわかってないんです」
「安心しろ。それこそ狙いだ」
先輩が足を組み替えた。
「狙いってなんですか?」
俺は聞く。
「君らのような演技の素人が恥じらいながら演技することで素人ウェルカムっぽさを演出するんだ。安心しろ。演技の素人でいい。むしろ、素人でいてくれ。ということで遠近コンビによるラブコメ作戦開始だ。異論は許さないぞ。これは部長決定だ」
近藤さんが「ふえぇ」と小さな悲鳴を上げた。が、その悲鳴はアリス先輩には届かない。届いているかもしれないが。
「そしてこれが台本。話題のラブコメから大衆受けする要素を抽出、10分間の部活動勧誘ストーリーに凝縮するという、まさに濃縮還元100%ジュースのような濃い内容だぞ!」
ふんす、と鼻息荒くアリス先輩がホチキス留めしたA4の紙を机上に出す。近藤さんがタイトルを読み上げる。
「勧誘上手の近藤さん……?」
どこかで聞いたようなタイトルだな、おい! 著作権とか大丈夫だろうな!? 上演途中に運営、じゃなかった、生徒会から公開停止命じられたりしないよな?
「そう、タイトルは『勧誘上手の近藤さん』。ドSでいじりキャラの近藤さんが同級生遠藤君を、過激にからかい、いじり、罵倒して部活に誘うという内容だ。ちなみに近藤さんは遠藤君の血の繋がっていない妹という設定だ。ちょっとエロいイラストを書くのが趣味だ。そして遠藤君の設定だが、妹さえいればそれでいいという妹オタクだ」
いや、色々やばいだろ、その内容。確かに売れ線のラノベ、アニメ等々踏まえてそうだが。
「こ、困ります! えっちなイラストレーターなんて、出来ません!」
近藤さんの困りポイント、そこなの?
「心配しなくていい。その設定は裏設定だ。台詞に反映してはいない」
「ほ、ほんとですかあ……? だったら、なんとか……」
ちょ、なんとかなるの、近藤さん!?
「がんばろ、遠藤君!」
近藤さんがこっちをむいてガッツポーズで俺に言った。
「あ、ああ……」
近藤さんが乗り気ならば俺は乗るしかない。
とにもかくにも、俺と近藤さんは舞台に立つことになった。明日の部活動紹介で。




