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近藤さんは知らない

 アリス先輩が黒タイツに包まれた両足をもぞもぞさせた。その直後、シャープな動きで足を組む。その動きの流麗さが風を呼び短めのスカートがふわっと華麗舞う。もう少しで見えそう。そして右手でふわっと髪をかき上げたのち腕を組む。顔には小悪魔な笑み。


 これがアリスポーズ。俺が名付けた。アリス先輩が()()()()()()()を思いついたときの癖なのだ。そして先輩のおもしろいことは多くの場合、俺と近藤さんにとってはおもしろくないことだ。


「君たちには言ってなかったな。実は去年の部活動紹介。あれは失敗だった」


 いえ、言われなくても知ってましたよ。


 とは言えん。なので「そうなんですか?」と答える。


 近藤さんの方を見る。近藤さんは目をパチクリさせていた。確実に本気で驚いているね。


 無理もない。だって近藤さんは知らないんだ。去年の演劇部部活動紹介のこと。彼女はその日インフルエンザで出校停止措置だった。4月にインフルエンザになることは珍しいことではない。


「大失敗だった。当時2年生の部員は私だけだったろ? 新入部員を入れて部員を確保しなければ、演劇部は同好会となり大会参加不可となる。それだけはなんとしても阻止しなければならない。だから私は自分の演劇ポリシーを無視して大衆に迎合、あのような舞台になっててしまったのさ」


 生徒会規則によれば部活動と認定されるためには最低3人の部員が必要となっている。部員数3人を切ると同好会に格下げ。運動部であれば対外試合、文化部であればコンテスト参加不可となる。


「大会に出れない演劇部など翼の折れたエンジェル、角が抜けたデビルだ」


 ため息交じりに、変な喩えをするアリス先輩。


「ポップでキャッチーで不特定多数の大衆に広く受ける……思わず演劇部でアオハルをエンジョイしたくなるような、そういう演出とは何か。一晩寝ないで考えた。出た結論は……鬼○の刃だったんだよ!」


 去年の部活動紹介文化部編。当時たった一人の演劇部2年生であったアリス先輩は「一人芝居 鬼○の刃•部活編」という非常に痛い演目を演じた。


「私はアニメや漫画の類いは好まない。だが大衆に迎合するためには国民的大人気アニメの力を借りるしかなかない。そのときはそう思っていた」


 今でも鮮明に覚えている。演劇部部活動紹介。講堂の舞台に現れた白塗り全身黒タイツの女子高生。


 それのどこが鬼○なんだよ。暗黒舞踏だろ。


「複数のキャラクターを演じ分けるんだ、極限まで表情を抽象化した白塗りが最適だと思ったんだが」


 白塗りしたアリス先輩が漆黒の長髪を振り乱し、パントマイムとアニメ声を駆使して鬼○を熱演。唯一使った小道具は竹輪。禰○子を演じるときだけ竹輪をお口に咥え、んーんー唸った。竹輪を咥えた白塗り黒タイツ女子高生が、変な声出しつつ一人でバトルを再現。最後に禰○子による竹輪一気食いパフォーマンス。


 当然、会場はドン引き。「演劇部だけは入ってはならない」。俺を除く全新入生がそう思ったはずだ。俺だって木工工作部があれば入ってなかった。


「あの鬼娘が咥えていたのが竹だったとはな。私はてっきり竹輪だと思っていたよ。リアリティの詰めが甘かったな」


 そういう問題じゃないから。


「大衆迎合路線は間違っていなかった。だがそこに芸術性を求めてしまったことが敗因だ。そこで今年は思い切って芸術性を捨てることにした」

「へ?」

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