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お兄様、抱いて

 11時。食事の後の「一緒にお風呂入ろー」攻撃をかわしてゆっくり風呂に入り、明日から始まる授業の準備を整えスマホをいじっていると時間なんてあっという間だ。


 コンコン。ノックの音。萌々子だ。


「どうぞ」

「おじゃましまーす」


 すーっと扉が開いて、萌々子が顔をのぞかせた。


「お兄様、もう寝るの?」

「ああ。11時だからな」

「早くない?」

「早くない。6時には起きて朝食作るからな」

「萌々子が作るのに」

「いいよ。今日の晩飯萌々子だったし。ちゃんと野菜サラダとか作るしからさ。あのドレッシングまだあるだろ?」

「でも、カイワレ大根だけでしょ?」

「……なんでわかった」

「それくらいわかります」


 しゃべりながら萌々子が部屋に入ってきた。まだ部屋着のままだ。


「ということでお兄様に食事の準備は任せられません。萌々子が朝ご飯作ります」

「それは家事の分担としておかしくないかな。萌々子にやらせっぱなしじゃないか?」


 朝食、萌々子。昼食、学食またはパン。夕食、萌々子。掃除と洗濯その他は均等割だからバランスが悪い。


「大丈夫です。萌々子、料理得意だし。お兄様に任せて栄養が偏るほうが問題ですから」


 まあ……確かに不健康かもしれん。


「そうか。それじゃ、お言葉に甘えることにするよ」


 言った瞬間、萌々子の目が輝いた。何か思いついた目だ。嫌な予感がした。


「甘えるの? 萌々子に甘えるの?」

「日本語的には……そうなるのかな?」

「お兄様ばかり萌々子に甘えてずるいです。萌々子も甘えないと対等じゃないです」


 予感的中。やっぱなんか思いついていた。


「甘えるって、どうやって甘えるんだよ?」


 スタスタと萌々子が俺に近づいてきた。背もたれに手をかけ、くるんと椅子を回す。俺と萌々子が正対した。


「何するんだ?」

「ん? 甘えるの」


 言うが早いか、萌々子が椅子に座っている俺の上にちょこんと腰掛けた。俺の太ももに萌々子の太ももが重なる。大きく開いている萌々子の脚。そして両手で俺の手を握る。

 

 なんでそーなるよ? お言葉に甘えるの「甘える」ってそういう意味じゃないよな?


 つか……これ、かなりヤバい体勢だろ!?


「萌々子! これは良くない! どいてくれ!」

「どうして?」

「どうして、って……」

「萌々子、お兄様に抱っこして欲しい」


 甘えた声で萌々子が言った。

 なんだ、抱っこか。お安い御用……なわけねーっ!


「は? 抱っこ?」

「はい。小さい頃、よく抱っこしてくれました。なのに最近全然してくれないんだもん」

「当たり前だろ!!」

「どうして?」

「だってだなあ、この格好はだなあ、なんつーか、ほら、も、問題あるだろ! あ、こら、動かすな!」


 萌々子が腰を前にグラインドしはじめた。俺に近づこうとしてのことだろうが、15歳女子高生のショートパンツなボディがこすりつけられているのだ。さすがに「萌々子は妹だ」と自分に言い聞かせて沈静できるとは思えん。


「抱っこー、抱っこー」


 なおも萌々子は腰をグラインドさせてくる。俺は萌々子のウエストを両手で掴みその動きをコントロールしようとした。


 そこで気がついた。


 ……もうこれ、見た目はそういう行為じゃね?


 気がついたことで俺の本能が目覚めそうになっている。このままでは……!


 いやいやいや。何を想像しているんだ俺。萌々子だぞ!? 萌々子に対して、そんな感情を抱くはずなどない! 邪な気持ちを抱くなどない! 抱いてはいけないんだ!


 そんな……そんな気持ちになってしまったら、萌々子にちょっかいを出してきたクズどもと同じになってしまう! 


 俺は、萌々子の兄。俺だけは、萌々子を性的な目で見てはいけないんだ。


 発育がいいからって男子にからかわれ泣いていた萌々子。そんな萌々子を守るのが俺だろ?


「あのな。抱っこは子どもの時だけの特権なんだ。もう無理だ」

「大人も抱っこしてますよ? お姫様抱っことか」

「普通の抱っこはしてないだろ?」

「じゃあ、萌々子にお姫様抱っこしてください」

「あのな。俺、文化系なんだ。体力無いんだ。お姫様抱っことか無理だから」

「やだー、萌々子、抱っこして欲しいです。おねがい、萌々子を抱いてお兄様。座ったままでいいから」


 いや、だから、その表現、色々おかしいって。


「無理。無理だ」

「じゅあ、『ぎゅー』てして。『ぎゅー』なら、出来るでしょ?」


 『ぎゅー』。それは俺と萌々子の間でだけで通じる言葉だ。具体的には萌々子を抱きしめ、頭をナデナデしつつ「ももこはかわいいねーいいこだねー」と俺が囁くと言うものだ。


 ……俺が小学校4年、萌々子が3年のときより後でやったことないけどな。このままの体勢でいるよりはいい。お姫様抱っこもできないし。


「……わかった。ぎゅーしてやる」

「やた! お兄様、ぎゅーっ!」


 萌々子が俺に抱きついた。萌々子との密着度、俺史上最高。俺の胸の上で萌々子の胸が潰れている。すんごい柔らかい。


 あと。


 突起物の感覚、有り。たぶん、乳首。


 くつろぎのお家タイムだもんな。ノーブラにもなるさ。うん。平常心平常心。

 ……無理。平常ではいられない。心騒ぐ。


「……いいこ、いいこは?」


 小学校の頃とは違う身体感覚に戸惑い、混乱する俺をよそに、萌々子が俺におねだりする。


 あ、こら、もじもじするな!

 そんなに腰を動かすな!

 この体勢で腰を動かすことの意味、わかってるのか!?


 ……わかってないか。わかっていたら動かさないよ。


「あ、ああ、そうだったな」


 とりあえず「いいこいいこ」しよう。さすれば平常心になるやもしれぬ。俺はぺた、と萌々子の頭に手を乗せた。

 髪の毛の感触は昔と同じだ。頭の形も変わってない。サイズは大きくなっているはずなのだが俺の手も成長しているからだろう。昔と差は感じない。


「いいこいいこ。萌々子はいいこだ」


 さすさすさす。撫でるたびに萌々子の身体から力が抜けていく。安心してリラックスしているからで、これも昔と同じだ。


「へへ。お兄様に撫でられちゃった」


 満足したらしく、萌々子が立ち上がり俺から離れた。


「ありがとね、お兄様。久しぶりのぎゅー、萌々子堪能しました」

「堪能するものなのか?」

「もちろん!」


 笑顔で答えた。


「そっか。それはよかった。じゃ、俺、もう寝るから」

「萌々子も一緒に寝ていい?」

「駄目だ」

「お兄様のケチ」

「朝、布団に潜ってくるなよ」

「明日のことは明日にならないとわからないなあ」


 悪戯な笑顔で萌々子はとぼける。つくづく思う。なんで子ども部屋って鍵がないんだろう。


「それではお兄様、お休みなさいませ。萌々子はちょっとだけ起きてます」

「まだ寝ないのか?」

「はい。読みかけの本がもうすぐ読み終わりそうなので」

「そうか。あんまり夜更かしするなよ」

「わかりました」


 萌々子が出て行った。


「……ふう」


 椅子から立ち上がりパジャマに着替える。

 着替えながら思い出す。萌々子の体重。胸の膨らみ。柔らかさ。突起物。そして、太ももの冷たさ。


(……もう子どもじゃないんだよなあ)


 このままの距離感じゃ駄目だ。俺が持たない。いつか……俺の方から萌々子を抱きしめてしまうのではないか? 萌々子を女性として見てしまうのではないか?


 そして……一線を越えてしまうのではないか?


 男は黙ってコンドーム。親父の言葉を思い出す。そしてそのゴム製品は俺の机の奥深いところにまだあるのだ。

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