始祖エルフとの出会い
0:ここは『古代の森』と呼ばれる、現代に残った秘境の一つ。
0:エルフの血を引く少女クノスは、修行のために弓矢を担いで一人、さまよっていた。
クノス:まったく、この森は不思議な場所ね。こんなに魔力が強いのに、獣の一匹も見かけないなんて。
0:独り、ぼやきながらクノスは藪をかき分け、勘を頼りに奥へと進む。
クノス:それにしても、本当にこの先に『宝』なんてあるのかしら。
クノス:もし何もなかったら……母さんに文句を言ってやるんだから!
???:何者だ? 我が森に足を踏み入れる者は。
0:クノスが勢いよく鉈を振り下ろした瞬間に、木々が揺れる音に混じって声のような音が響いた。
クノス:私は、クノス! Bランクの冒険者よ! 私はこの森の宝を探しに来た!
???:帰れ、この森に宝などありはしない。
クノス:それでも私は、帰るわけにはいかないの!
???:なぜだ!?
クノス:私には、エルフの血を引く者として、この森の最奥にたどり着く義務があるのだから!
???:エルフの血を引く……さっきから言うそれは、何かの冗談か?
0:森の奥から聞こえる謎の声の問いに対して、クノスはバッグから長い巻物を取り出した。
クノス:見て! これが我が家の家系図よ!
0:クノスが巻物を広げると、森の奥から一人の青年が現れた。
0:青年は、初めからそこに道があるかのようにまっすぐと歩く。
0:だが青年の後ろには、うっそうとした森が茂っている。
0:まるで、森の木々がこの青年に対して、道を譲っているかのようだった。
0:青年は、腰を屈めて巻物を流し見る。
???:どれ……どれ……?
0:細かく書かれた家系図を目で追った青年は、その最先端、始祖の名が書かれたあたりで目をとめた。
???:確かにこれは、俺の娘の名前だ。
クノス:娘……?
???:そうだ、確かにこれは娘の名前だ。あいつは元気にしているか?
クノス:元気に……って、何百年前の人だと思っているんですか、とっくに死んでますよ!
???:……そうか、そうだよな。『森』を持たないエルフの寿命は、そんなもんだったな。
0:どこか哀しそうな、諦めの色が混じった顔をする青年を見て、クノスは複雑な気持ちになった。
0:同時に、同い年にも見えるこの青年が、数世紀単位での先輩であることも実感する。
???:お前の名は、クノスというのか。まあ、良い名前だと思う。
???:俺の名は、バウム。多分お前のご先祖様だ。
クノス:バウム……さん。よろしくお願いします。
バウム:ああ、よろしく……で、我が娘はここに、宝を探しに来たんだったか?
クノス:はい。母さんが、この森にはエルフの宝があると言っていたので。
クノス:数世代ぶりにエルフの血が強く現れた私なら、もしかしたらたどり着けるかも知れないと。
バウム:そんなことを言っても、さっきも言ったがここには何もない。
バウム:この森には『森』意外なにもない。それはこの森で育った俺が、一番わかっているんだがな。
0:バウムが放った一言に、クノスは唖然と
クノス:何もないでは、困るのです! 私は、今のままではいけないのです!
バウム:困ると言われても……そもそも何が困るのだ?
クノス:私には、今すぐお金が必要なんです! そのためには宝が……
バウム:金……というのが何か知らないが、話を聞こうか、我が娘よ。
クノス:金銭の概念がない!? というかさっきから、私はあなたの娘ではありません!
バウム:細かいことを気にするな、娘よ。それで何が困っているのだ?
クノス:……私の、母が病にかかったのです。クスリを買うのに大金が……
バウム:薬……薬なら、知っているぞ! 怪我や病をなおす物だったな、確か。
クノス:さすがに薬は知っているのですね。
バウム:何せ昔は作っていたからな。俺自身には必要ないが、娘や息子……お前の親に請われて配ったことがある。
クノス:それはまさか、エルフの秘薬……?
バウム:秘薬などと、そんなたいそうな物じゃない。だが薬作りは俺の得意分野でもある。
バウム:よし、決めた! 我が娘よ、お前の母、我が娘のところに俺をあんなにするが良い!
クノス:だから私も私の母さんも、あなたの娘ではありませんけれどっ!!