出会い
日光に照らされて金色の光を反射しているバターののったトーストを焼く。
私の毎日の日課、というか朝ご飯はいつもそれしかない。
せわしなく動く私の体には、片手で食べられるこれが丁度いいのだ。
口に咥えたトーストを、器用に食べながら駅へ足を進める。
「はあっ、はあっ、間に合った…!」
駆け込み乗車をしてしまったようだ。
はあ、疲れた。
今日は私以外誰も乗っていない。
電車を独り占めできる贅沢感と優越感、乗れたという安堵、目的地までの長い道のりを教える電光板。
そういえば昨日はネットサーフィンしすぎて寝不足だったんだ…。
「7時30分だから…30分は眠れるね。」
30分ほどでこの電車は、1周回った上で戻ってくる。
タイマーを20分から5分おきに設定して、私は睡魔へと体を委ねた。
タイマーの音がする。
ゆっくりと目を開けてタイマーを止める。
なんの変哲もない操作、行動だが、非現実的なことが紛れ込んでいた。
時計を見ると、寝始めたときの時間と変わらない、スマホが言うには7時30分49秒ちょうどで、まるで壊れた時計のように止まっている。
スマホが壊れているだけだ、そうに違いない。外の景色を見てみよう。
「えっ…嘘…」
左から右に流れたはずの景色が、また左からやってくる。
がたん、がたん。
電車の揺れが、夢じゃないぞと訴える。
一人しか乗っていない車両が、不気味さと寂しさを醸し出す。
一人だけの「永遠」に恐怖を覚えた私は、他に誰かいないか、と、後ろの車両に向けて走る。
最終車両まで走る。
誰もいない。
「なら運転手に…!」
運転車両まで走る。
「…そんな…」
運転車両には何もいなかった。
呆然と立ち尽くす私の目の前を、同じ景色が何回も通り過ぎた。
しばらく席に座って考える。
この状況に陥ってもう1時間ほど過ぎただろうかというところで、一つのアイデアが思いついた。
そうだ、寝てこの状況に陥ったんだ。
もう一度寝ればこの状況が治るかもしれない。
私は起きた時に戻っていることを願って、静かに目を閉じた。
目を開けると、そこは私の家のベッドの上だった。
時計を見ると、7時5分。
夢だったのだろうか。
朝の支度をして、バタートーストを咥えて、鞄を肩にかけて、駅に走る。
電車に乗り込む。
また車両の中には私一人。
時計を見る。7時29分。
まずい、あんな悪夢を見たから寝不足なのかも。
眠気が…んまあ、30分くらいは寝れるな…
目を覚ます。
夢の中と同じ光景だ。
後ろ、前、どの車両にも人はいない。
運転席にも。
夢じゃなかったんだ。
嗅いだ匂い、見られる変わらない景色。
私の驚いたまま固まった顔がガラスに反射する。
どうしたらこの空間から出られるか考える。
がたん、がたん。
そうだ、夢の中だと、寝ればもとに戻る。
目覚めれば元の時空であると願い、再び眠りについた。
目を開けると、部屋の天井が見えた。よかった。とりあえず戻ってこれた。
うるさく鳴るスマホのタイマーを止める。
いつもどおり、パンを口に咥えながら、長い髪を、鏡を見ながらとかす。
そこで私は気づき、疑問が頭に上った。
私は7時30分に出発するあの電車に乗るからではないのか?
では、30分発でない電車に乗ったらどうなる?
他の人と一緒に乗ったら、眠ったらどうなる?
学校に行かなかったらどうなる?
電車の他の交通手段で行ったらどうなる?
眠らなかったらどうなる?
私はいつもより早く出て、歩いていくことにした。電車で行って1周目で降りる場合10分ほど。歩きで30分ほどだ。
…意外にも、普通についてしまった。
普通に学校が始まり、普通に終わる。
友達はいなく、無口なため誰とも話さなかったけど。