狙撃数4発目
今回はちょっと短めです。時間切り詰めで書いたので。
待ってくれ、おかしいだろこんなの……。
放課後、勇気は一人こもり、布団の中で何度も呟いた。
「今日……転校生が来て……スパイだって情報。そんでその転校生は……蕾だった!? __はん! 馬鹿げてる。それに、だったらあいつのコードネームはなんだ? あいつは……変なあだ名はついてなかったはずだ」
そこまで考え、勇気はため息をついた。自身の母親に、頼んでみようと思ったからだ。
__勇気の母は、好き好みで集めた情報を売る、情報屋。その名も、《シンシーベア・コニー》。偉大なる殺し屋、晴鳥翔には、とてもふさわしい経歴を持つ女だ。当然、勇気も当てにするし、尊敬はしている。それを口に出さないだけで。
「え? あの“つーちゃん“が?」
だから、その夜珍しく家族揃った食事会の際に、そう問いかけてみた。
「ん……もう、“つーちゃん呼び“はしない。今日から蕾。そう決めたんだ。__で? 何か知らない?」
「あーはいはい。よくある思春期真っ只中男の子の心情ね。……んーでも、私はそんなこと、知らないわ」
「……本当にか? おふくろの勘違いじゃ__」
そう訝しむ勇気の目の前に、素早く爪楊枝が突きつけられる。
勇気の母親は、ため息をついた。
「……あのねえ、勇気。あんたは知らなかったかもだけれど__お母さんは! 好き好みで集めた! 情報を! 売るお仕事なの! ……勇気が“客“として頼みに来るなら、もちろん、死に物狂いで集めるわ。__でも、あんたのその態度は何? まるで、身内に聞く態度じゃないっ。そんなものじゃあ、《シンシーベア・コニー》は調べません。動きません。……それがこの世界の在り方よ」
「……」
勇気はしばらく押し黙り、口を開いて、やめた。それから、空いていた母親のコップにワインを注ぐ。
「む、なによ。これくらいで__」
「楓佳、そろそろやめなさい。全く、実の息子をいじめるとは……」
「私はいじめてないのっっ。むしろ、裏社会での生き方を教えてあげてるのよ!! __ね? 正当な母親でしょう」
「……俺、もう寝るわ」
夫婦喧嘩を始めたところで、勇気が席を立つ。卓上のコーン・スープの水面が、少し揺れた。
「そうか。おやすみ、勇気。あとそれと、母さんのことだが……」
「オヤジ、俺はオヤジのこと、いい父親だと思ってるよ。__嫁におふくろを選んだこと以外にはな」
勇気はそう捨て台詞を残し、ダイニングを後にした。
「「……」」
残された両親が、唖然と黙る。
「な、何よあのくらいで。あのくらいで怒るなんて、勇気もまだガキね」
「……楓佳、一度詳しく話し合おうじゃないか。知ってるんだろ?」
やっと口を開いた楓佳に、翔が問いかけた。
「え? なんのこと??」
楓佳が、白々しくとぼけて見せる。しかし、長年の夫の勘は、鈍るばかりか、より洗練されるものだった。
「言われなくともわかるだろう。__蕾ちゃんだよ、勇気の幼馴染の。あの子が、この業界に関係がある態度だったな、ん?」
「……そうね。私もまさかとは思ったけれど、もしかしたら……その」
「厄介なコードネームなのか?」
「ええ……とても厄介よ。翔はともかく、勇気はまず、生きて帰ってこられないところだわ」
翔が、自身のスプーンを落とした。軽い金属の音が、ダイニングに響き渡る。
「ま、まさかとは思うが……!!」
「多分そのまさかね。__ええ、そう。《荊城》が関わっているかもしれないわ」
__楓佳の声が、明るい部屋に、暗く響いた。