狙撃数2発目
毎日投稿第三弾です!
__とある一人の少女は、校門の前につき、あたふたとスマートフォンの時間を確認した。
「うん、ちょうど8時15分。__ちょうど、いいよね」
そして、たくさんの未読メッセージがあることに気づき、少女はその瑠璃色の瞳を忙しなく動かし、全てのメッセージに目を通した。
『レン 蕾、本当に大丈夫なのか?』
『アンジュ うん、つぼみちゃん寂しがり屋だから……』
『ヒナキ 心配やわ』
そんな仲間のメッセに、少女/蕾は、にっこり微笑んで『大丈夫だよ、また今度FFOで遊ぼうね』と打ち返し、スマートフォンを鞄にしまった。
__《FFO》とは、最近人気のVRゲーム、《ファータ・フィオーレオンライン》の略である。意味は《花の妖精》で、その名の通り、妖精の姿になって美しい世界を旅するなんともまったりとしたゲームである。ランクといったランク、全クリといった全クリがないため、VR初心者におすすめだと、蕾の姉・翠が言っていたため、試しにやってみると、これは実にいいものだと蕾は感じた。
なんといっても飛べるし、瞬間移動的なこともできるので、すぐに行けたいところに行けるのだ。
__それになんというか……ものが全部リアルに見えて、すっごい感動したというか……。
廊下を歩きながら蕾は考える。
__そしてもう一つの気に入ったポイントを挙げるとしたら、それはもう、ものの質感、それがとてもリアルなことだろう。
それは蕾にとって嬉しくもあり、難しくもあった。
(これじゃあ、どっちが本当の世界なのか、わかんなくなっちゃうかもな……)
そこで目的の教室に着いたので、蕾は一旦退避した。
中の、歳がかなりお爺ちゃんな先生がこちらに向かって軽く頭を下げる。
「__さぁ、入りなさい」
蕾はそれに軽く会釈し、何食わぬ顔で教室に入った。
「おはよ、勇気〜」「おっはぁ、勇気!」「おっはよー勇気様! 今日も宿題見させてくださーいっ!」
多種多様な挨拶に、勇気はそっけなく返し、宿題をせがんだ友人に課題のプリントを渡しながら、勇気はぽかんと外を見た__ように見えた。
(きょ・う・の・て・ん・こ・う・せ・い・は・す・ぱ・い)
勇気は外の山上で手旗信号を送る同業に、ペコリと礼をし、隣の友人にくるりと振り向いた。
「__なあ、今日って、転校生いるん?」
「は? 転校生? いや知らんけど……ってゆうか、それやったら俺の地獄耳が聞き逃さんぜ、いやまじで」
そう言いながらも、プリントを写す手は止まらない。勇気は苦笑しつつも続けた。
「じゃ、もし来るとしたら?」
「そんなん、想像するわ。__こんな変な時期に来る美少女転校生……そんな転校生が好きなタイプはまさかの俺!? ドキドキドキドキ……胸が高鳴る。『好きです』の言葉を交わし合い、俺と転校生は晴れてカップルに……! しかーし! そこにやってきたのは自称転校生の幼馴染! これはいかん、三角関係だ! そう思った時にはすでに遅し……やはり彼女は俺にぞっこんのようだ。__へっ、死ね、爆発しろ、リア充。あー美少女の幼馴染とか、人生ウハウハだろーなー」
「あ、じゃもう転校生は女子で決定?」
「妄想じゃあな。いやだって、妄想で男は……な?」
「確かにそうだな」
勇気は軽く笑い、友人に手が止まっていることを指摘した。それに慌て、少年はいそいそと腕を動かす。
「でもま、あれだよな」
「__? あれってなんだ?」
「あれはあれだよ、あ・れ! ……美少女転校生とかさ、美少女幼馴染とか。みんなやっぱ作りもん……ファンタジー世界の住人なんだもんなー」
勇気は「あー俺もファンタジー世界に住民票移してえ」などとつぶやく友人に内心で(お前もかなりファンタジー……フィクション的な友達いるぞ)と声をかけ、いきなり入ってきたリーダー格の少女にびっくりする。
「みんなぁ! 大変だよぉ!」
よほど急いできたのか、彼女はしばらく肩で息をし、叫び散らした。
「転校生が来るんだって! 今日!」
__とたん、その場の皆がざわつく。
「マジ!?」「うそ、女子!? 男子!?」「可愛い子だといいな!!!」「ちぃちゃん見たの!?」
少女改め、“ちぃちゃん“は、「うん!」と大きく頷いた。
「見たよ見たみた! あんね、め___っちゃ可愛い……女の子だった!」
その途端、「うおおー!!」という野太い男の雄叫びと、「わぁ〜!」という女のか細い叫びが重なった。
「まじ!? それまじ!? ちぃちゃん!」
「ぃヤッホーぅっ! ……おう、勇気。お前いい勘してるぜ」
「あ……ああ、まあな」
友人にそう、ウインクされ、勇気は戸惑いつつ、頷いた。やはり来るんだ、スパイが……! 勇気の心臓の音が速まる。
「__それじゃあ、大人しく席に着こうぜ。プリント、写せたか?」
「ぇあ? ……ああ! できたぜ。やっぱ俺ちゃんって、天才だよなぁ」
「じゃあその天才様の頭脳を使って、家で解いてくーだ、さいっ」
勇気はプリントを受け取り、そう茶化して見せる。友人もそれに笑い、
「なんだ、冗談言えるじゃん? お前」
そう、ホッとしたような表情で囁いた。
__その時だった。
……ガラガラッ
「__皆さんこんにちは。今日は転校生の方が来てくれましたよ」
勇気のクラスの担任、草野先生が入ってきた。草野は、物腰が穏やかで、おじいちゃんのような親しみやすさがあるため、生徒人気も高い。
そんな草野が廊下にそのグレーの瞳をむけ、
「__さぁ、入りなさい」
そう、穏やかな声音で言った。「はい」という可愛らしい声が廊下から返ってくる。
もうそれだけで、その場の誰もが__勇気を除き__感嘆の声を上げた。
__そしてまた、入ってきた少女に向けても感嘆の声を上げたかと言えば、そうではない。
艶やかに流れる紺色の髪。美しく煌々と輝く瑠璃色の瞳。肌は雪より白く、唇はほのかに桜色だ。
その美しさに、誰もが息を呑み、それどころか、息をするのさえするのを忘れた生徒までいた。
それくらい凄まじいカリスマ性。それが少女にはあった。
「__えー皆さん、いいですかね? 今日新しく入った転校生の名前は《霧凪蕾》さんです。仲良くしてくださいね」
その静寂を、草野が破り、黒板に“霧凪蕾“の文字が現れた。誰もが我に返ったかのように、「ぁあ」と声を漏らし、黒板前の少女は淡い色の唇を開けた。
「__初めまして、霧凪蕾です。趣味は映画鑑賞と、ゲームを少し。でもあんまり得意じゃないです、よろしくお願いします」
そして、可愛らしく礼をする。
その様子にただ一人。
「……《つーちゃん》……??」
__晴鳥勇気が、小さく、声を上げた。それに少女は柔らかく微笑み。
「久しぶり、ゆっきー」
彼女の白い肌に、わずかな陽の光が差した。
…………そして勇気の横で「お前、ファンタジー世界の住民だったんかよ、死ね」と呟いた彼の声は、果たして誰にも届かず、朝の眩い光の散って消えた。
はい、どうでしたか。二人はまさかの……? 続きはゆっくり書かせてもらいます! (本命で書いているやつもあるので!)