狙撃数1発目
毎日投稿、第二弾です!
「……変な夢見たな」
そう少年__《晴鳥勇気》は寝癖のついた髪を撫でつけ、あくびを漏らした。
(昔の夢とか、あんま見てなかったのになあ……)
不思議な感慨にとらわれながらも、勇気はアラームを止めた。
途端すぐ移動し、軽く運動。それから愛銃の感触を確かめ、懐に収めた。
__彼は殺し屋だ。それも由緒正しい、名家の殺し屋。
故に特訓も音をあげてしまうものばかりだが、不思議と少年にはそんな感情はなかった。
なぜかというと、彼も“裏“ではいわゆる人助けをしているのだ。これで文句を言うほど、彼は悪人ではあるまい。
「そう、だから《つーちゃん》のことを考えるの禁止」
そう気持ちを改め、勇気は手早く着替えを済まし、食パンを口に突っ込んだ。
今日は両親がいないはずなので、「いってきます」は小声もいいところで、外に出る。
物理的にも情報的にも開けられないよう、鍵をかけ、勇気はたまたま通りかかった友人に挨拶をした。友人も挨拶を返す。
__殺し屋の友達も殺し屋。そんなことがあり得るのはせいぜい漫画、アニメの中くらいだ。実際は殺し屋にも普通の友達はいる。
(__でも、普通じゃないやつが一人いたな)
勇気はそう考えながらも、友人の話にうまく合わせた。その間にも、次々と襲いかかってくるライバルの殺し屋をささっと始末する。
__その“普通じゃないやつ“は。
(絶対言わないけど) ……勇気はそれでも気を抜かず、友人にバレない程度に処分した。
__勇気の。
(最近会ってないし) ……銃を引く指が微かに遅くなる。
__唯一の想いびとと言っても過言ではない。
……と言っても幼稚園生のそれと同じ心持ちであるが。
幼い頃から全く会ってなかった彼女に会える日を夢見て。
(また会いたいな……__)
少年はただ心を焦がした。
「ん……はるほほふぇぃ……」
ベッドから身を起こし、少女は紺色の髪を揺らし、奇妙な声を漏らした。
寝ぼけ眼を擦り、そっと時間を確認する。
「っ!? 7時!?」
黒髪の少女は、その長い髪を大きくなびかせ、時計を投げ捨てた。
クローゼットから破れそうなほどの勢いで制服を取り出し、そのまま身に包む。
__少女の名前は《霧凪蕾》。名家のスパイで、人の心を読める、超能力者でもある。
蕾はため息を呑み込み、階段の手すりに手をかけ、そのまま勢いで手すりの上を滑った。
「よぉ、つぼみ。今日はよく寝たなぁ。おはよ」
慌ててリビングに入ると、蕾の姉、翠がいたため、蕾はそのままダイニングに移動し、相変わらずヘッドフォンとスマートフォンを離さない姉に少し苦笑して返す。
「おはよう、姉さん。__全く、起きているのなら起こしてほしいわ。朝ご飯は?」
「ん、起きたんじゃなくて、徹夜してたんだよ。__それと朝飯なら賢が作ったいったぞ。今日は任務があるとか言って、出かけていっちまったが……まあ、いいだろう。食べようぜ」
「ふうん、任務? 平日から大変だね、兄さんは」
そして席につき、あっと口を開き、目の前の姉を見据えた。
「ねぇ……さっき、徹夜って言った?」
「言ったが?」
「ほら、やっぱり。__任務も大切だけどさ、体の健康とか、色々考えてよね。大体、姉さんがちゃんと仕事をこなせるのか私、すごーく心配」
翠はしばらくキョトンと蕾を見つめ、やがてかっかっと乾いた声で笑い、目元の涙を拭いた。
「妹に心配されるほど、アタシは初心者じゃないさ。__それに、今一番気にすべきなのはあんたの方だと思うけどね、つぼみ?」
「う……ん、それは、そうなんだけど…………」
「いいかい、つぼみ。お前は高校生と言っても、霧凪家の人間なんだ。その意味がわかるか?」
蕾は驚いたように目を見開き、こくんと頷いた。
翠はそれに構わず、サンドイッチにかぶりつく。
「ほれなら__んく、今やるべきこともわかるだろう」
「わかってるわよ。……銃の勉強、それとピッキング能力とか__」
「それだけじゃない。お前には才能があるんだ、つぼみ。__超能力はね、うちじゃあ結構珍しいんだよ」
そう翠は、壁に貼られている『我が家家系図!』に目を向ける。蕾もそれに合わせて視線をずらした。
「銃使い、人形遣い、刀使い、合気道……うち、《霧凪家》には、多くの才能が集まっている」
「うん、そうだね」
蕾は姉が読み上げる項目をもらすことなく見た。ともに相槌を打つ。
「わかるよ。この中には『超能力者』の人はいない……そう言いたいんでしょう?」
「それもそうだが、それだけじゃない」
「えっ……?」
蕾ははじかれるように目の前の姉を見つめた。翠はまだ家系図を見つめて、つぶやいた。
「いいか、つぼみ。時代っていうものはね、移りゆくものなんだよ。__アタシの能力、《ハッカー》も、この時代特有で、他にはない」
「そう、だね。でも母さん達は…………『これは、特別じゃない』、そう言っていたわ。あれはなぜなの?」
「それは…… 昔でも、《ハッカー》みたいなやつがいたってことだ」
「みたいなやつ……?」
軽く首を傾げる蕾にうなずき、翠は朝食を食べるよう、促した。
「いいか、例えばね。__昔にも、人間はいただろう?」
「ん、何年前かは知らないけど……」
蕾は自身なさげに眉を下げると、翠はそれでいい、と笑った。
「昔といっても、最初に誕生した日とかじゃない。……そうだな、例えば江戸あたりとか。__知ってるか?」
「エド……ええ、知ってるわよ。侍とかがまだいた時期でしょう? 着物とか着て」
「着物は知らんが、まあいい。__それでその江戸な。江戸時代あたりから、霧凪家はあったんだよ」
「ふえぇ〜」
蕾がパンを呑み込みながら言う。
「結構伝統ある家なのね。実感はないけど」
「そうさ。実感は別に持たんでいいが……まあそれくらいから、《ハッカー》に似たやつはあったんだよ」
「うっそだぁ。だってハッカーって……パソコンがないと成立しないじゃない」
「__だから似たやつなんだよ。同じじゃないさ、言ったろ? 『時代は移りゆくもの』って」
「そういえば言ってたね、そんなこと」
蕾は牛乳を一飲みして、続けた。
「でも似てるものって言ったって、何をするのよ? 昔の人って、そんなに頭が良かったの?」
「今の人類も頭はよくねえよ。ただ単に歳を重ねて、小賢しくなっただけだ。__それと、当時のやつも、それなりにゃ良かったはずだぜ? なんせ、《歴史》があるんだからな」
「歴史……私、そういうの苦手。昔の物語掘り起こして、一体何が楽しいんだか」
「はは、それはよく知らねえが。__ま、いっか。とにかく《超能力者》なことは隠せよ? じゃないとまぁた引っ越すことになる」
「ほえんまはい……」
蕾が歯ブラシを咥えて戻ってくる。
翠はその様子に苦笑し、続けた。
「あとうちが《スパイ》なことも、いうの禁止な? じゃないと何が起こるか溜まったもんじゃない」
「わはっへうっえ。__今日転校してきたのは、重罰の殺し屋……コードネーム・《クラージュ》を仕留めるためでしょ。バレちゃ、しょうがないもんね」
「ああ、そういうことだ、《いばら姫》。あとそれと、お前の知名度底上げ計画でもあるからな」
「その名で呼ばないでちょーだい。__じゃ、行ってきます」
「行ってら。__悪いな」
そんな姉の様子に蕾は一瞬目を見開き__。
「ふふっ」
まるで実を落とす花のように儚く、微笑んだ。
どうでしたか。殺し屋の勇気と、スパイであり、人の心が読める(その割にはわかってなさそうでしたが)蕾。二人の今後に乞うご期待!