表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

ある日の日常

「………むぅ〜。」

セシリアは絶賛、悩み中である。


現在は小テストの時間で、鉛筆で文字を書く音が彼方此方で聞こえる。

しかしセシリアの手は、止まっていた。

答案用紙は、ほぼ真っ白である。


まぁ、授業をサボって、攻略対象を追いかけていたので、さもありなん。

殆ど解けないので、セシリアはテストを諦めた。


今は別の事を考えている。



先日、三年の魔法授業で捕まった後、十名あまりの先生に囲まれ、セシリアはみっちり三時間、説教を受けた。

しかし、そういう説教会は5回目だったから、それで懲りるセシリアではないと先生も学習している。

その為、セシリアは不思議な、取り外せない腕輪を着けさせられ、監視の目がキツくなった。抜け出しても、直ぐ捕まってしまうのである。

(実はセシリアの魔力を吸収、制御する魔法と居場所を特定する魔法がかけられている腕輪である。)


そういう事なので、今は大人しくセシリアは席に座っている。



(……皇太子は、一度、入学式で会っただけ。他の攻略対象もニ度か三度くらいしか会ったことがない。何でだろう?)


入学して三ヶ月以上が経とうとしている。


毎日、通りそうな場所、居そうな場所に張り込んでいたのに。

これでは好感度は上がらない。


ゲームなら、もっとイベントが在っていいはず。

例えば、校舎内を歩いていたら、バッタリ出会って

「やぁ、あの時の。」

と話が出来たり。


実技授業で一緒になったり。

(学園が広いから、なかなか一緒にならないけど。)


図書館で一緒になったり。

(図書館に、私は行かないけど。)


校内でチンピラに絡まれたら、助けてくれたり。

(チンピラ、いないけど。)


悪役令嬢から虐められたら、

「大丈夫?」

なんて、声を掛けられたり。

(………あ、悪役令嬢も会っていないや。)


セシリアの覚えている悪役令嬢は、皇太子と同級生で、婚約者という侯爵令嬢だった。


そういえば、初めて皇太子と会った時、誰か隣にいた気がする。

皇太子に夢中で気が付かなかった。

入学式に行くのに、校内で道に迷って、生け垣を乗り越えたら皇太子がいたんだっけ。


『何でこんな所に人が?』って思ったけど、振り向いたその顔が凄いイケメンで。

思わず手を取って、道案内を頼んだんだよな〜。

カッコよかったなぁ〜。

その後、入学式で壇上で挨拶してたから、皇太子だって分かった。


皇太子の顔を思い浮かべるセシリアの口の端から、ポトッとヨダレが垂れた。



次の瞬間、バチンと頭を叩かれる。

「イテッ!」


見上げると、教科書を持ち、憤怒の形相で男性の神経質そうな先生が立っていた。

一瞬で空気が冷える。

「セシリア・ルーベンス。テスト中に居眠りか?」


周りを見ると、テストは既に終わっていた。

セシリア一人が、答案用紙を提出しておらず、クラス全員の視線が痛かった。



ーーーーーーーーーーーー


一方。

「あの…………王妃様?」


此処は王宮の、貴賓室。

窓から見える庭園には色々な花が咲き乱れている。

部屋の中にも、その一部を花瓶に豪奢に活けてあり、まるで庭園の中にいるようだった。


そこに、傍らに侍女を数名置いて、女性が二人、豪華な応接セットに座り、刺繍をしている。


手元から顔を上げず、上品な年上の美女が答える。

目元の黒子が、非常に艶っぽい。

「なぁに?レイチェル。」


レイチェルと呼ばれた年下の、大人しそうな娘は刺繍の手を止め、おずおずと質問する。

「これは、王妃教育の一環なのでしょうか?」


「ふふふ。……そうよ。魔力と真心を込めて、刺繍をして、それを未来の旦那様のお守りにしてもらうのよ。」


「……そうなのですね。」


微笑みながら、そう言う王妃に、ちょっと言いくるめられた感はありながら、レイチェルは、素直に刺繍に向かった。



レイチェル・エストラは、皇太子の婚約者である。


婚約者になってから、週に数回、王妃教育として王宮に通ってきたが、六年生になってからかなり頻度が増えた。

………というより、毎日、昼休みに皇太子に拉致され、そのまま王宮へ直行し、皇太子と共に昼食。

そのまま午後は王妃教育の名の元、王宮で過ごしている。

最近は、皇太子に請われて夕食も共にしている。そのまま王宮に泊まり、王宮から学園へと通っていた。

………つまり、現在、ほぼ王宮に軟禁状態である。


皇太子曰く

「ちょっと学園内に、変なのが居るみたいだから。レイチェルが危ない目にあってはいけない。僕の目の届く範囲にいて欲しい。」

とのこと。


レイチェルは

(変なのって、何?)

と首を傾げているが、皇太子や友達からは、『変なの』の意味は聞き出せなかった。


チクチク針を刺しながら、レイチェルは思う。

(……私って、押しに弱いのよね………。)


チクチク、チクチク、チクチク………。


どうにも流されやすい悪役令嬢(?)であった。


お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ