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アルパカのグリグリ

作者: 六地蔵

マグカップ片手にねぼけた目のアルパカがリビングに入ってくる。


「またカップ夜のうちに出さなかったの!寝る前にはシンクに出しなさいっていってるのに。」


今朝も母が繰り返すお小言を生返事で聞き流すアルパカ。


「あんたは毎日言っても仕方がないんだから。時間がたつとコーヒーがシミになって汚くなっちゃうの。わかる?お母さん、もう漂白すんの嫌よ。きいてる?」


うちのアルパカは耳にタコが出来ても小言に飽きない仕様らしく同じことを毎朝言わなきゃならない母に同情するほど。


アルパカ、もとい、弟が「大学デビューする!」と鼻息荒く宣言して出て行ったと思ったら髪を真っ白に染めて帰ってきた日のことは記憶に新しい。


最初こそ家族全員で驚いたものの、よくよく見るとぼんやりした雰囲気に四角い顔、丸い目にクルクルした癖毛の白髪の出で立ちは不良少年というより平和に草をはむアルパカのようで「金髪になんてしたらうちの敷居はまたがせない」と常日頃から断言していた両親も脱力し、そのまま黙認してしまったほどの癒しオーラを発していた。


以来、家族内でのアダ名はアルパカで定着してしまっている。


金髪どころか白髪までやっちゃったのが功をなしたのかは知らないけど、なんにせようちの親は弟に甘い。大学デビューの行方はようと知れないが草食動物らしくのんびりキャンパスライフを謳歌してるんだろう。


ニュース番組が切り替わるタイミングで家を出る。


出しなにアルパカの髪をチェックすることを忘れない。


彼の柔らかなクセ毛は湿気によってそのカールをかえ今日の天気を語る。


アルパカ予報によると今日は雨。傘を持って行かなくては。


「あ。ねえちゃん、今、俺の髪で天気しらべたでしょ!」


目ざとく気づいたアルパカが非難がましく叫ぶ。


我が家では「本物の天気予報より当たる」と評判のアルパカ予報も本人にとっては悩みのクセ毛。思うところがあるようで軽くこっちを睨んできた。


「いいじゃん!アルパカ予報が一番あたるんだからさ。いってきます。」


アルパカのお小言を聞き流して出発。これも毎朝繰り返すやりとりだ。私も小言には飽きない仕様をしているのかしら。お母さんに同情!


 ※


今朝のアルパカは早起きだ。


洗面所に30分もこもったかと思ったら髪をストレートアイロンで伸ばして出てきた。


18年付き合ったくせ毛と手を切れた嬉しさか、ドヤ顔で出てくるものだから笑ってしまうが、やっぱりアルパカにしか見えないところが微笑ましい。


アルパカ予報を確認しようと横目で見ると

「アルパカ予報は休暇でーす♪」

上機嫌で鼻歌交じりに宣言してくる。たしかにストレートヘアでは天気は読めないと今日はこっちが非難がましい目線を送る。


「カップはどうしたの。」


静かにキレつつ母が聞くと、しまったという顔で自室に駆け込んで行った。忘れていたらしい。


 ※


アルパカの奇行が目立つ。


まず、夜のうちにシンクにカップを出したらしい。


それから、30分がかりで髪にストレートアイロンをあてたあげく、毛先をワックスで遊ばせて鏡とにらめっこ。


きりっとした顔で鏡に臨んだと思ったら次の瞬間にはにやにやしている。


大丈夫か?こいつ?とは思うものの髪型に対して年相応の身の入れようが可愛らしいものでついついからかいたくなる。


「きまってるね!」


声をかけると照れ笑いをしながら頭をクシャクシャとかいた。


せっかくセットしたんじゃないの…?それ?


やっぱり心配である。


 ※


アルパカが恋をした。と、のたまったのはゴシップについて異常な推理力を発揮する母。


こう言うときの母親の嗅覚ってちょっとバカに出来ないものがある。前例も数えきれないくらいあるものだから前のめりで聞く姿勢をつくる。


「最近、晩御飯の時によく話題に出てる子。相手はあの子で決まりね。少しでもかっこよく見せるため苦手な早起きして髪を整えるとか思春期どストレートで安直な作戦だけど、お母さん、そういう素直なの嫌いじゃないわ。」


暇な主婦の妄想に聞こえるが、これで正解率が高いのだからお母さんセンサーも侮りがたい。


アルパカも恋をするらしい。


 ※


マグカップ片手に、真っ赤な目のアルパカがリビングに入ってくる。


今朝のアルパカの起床は遅い。


徹夜でゲームでもしてたのかしらと考えていると母がこそっと耳打ちしてくる。


「好きな子に彼氏がいたみたいよ」


マグカップ片手にぼんやりただずむ弟の哀愁すら感じさせる背中。


また、マグカップを部屋に置いたまま朝を迎えたようだが、今日は母もなにも言わない。


アルパカのぐりぐりを横目でチェックすると、悲しい目をしたアルパカがため息をつき首を振る。


あの巻き具合なら今日は晴れだろう。


雨の日も晴れの日もあるさ…と、心の中で語りかけ家を出る。


今日は、弟の好きな駅前のシュークリームでも買って帰ろうかな。


読んでいただきありがとうございます。


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