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幽かな芽生え

風邪を引きつつ描いたので初投稿です

ついに長袖の服を着始めました(もとが全裸だったわけではない)

「装備チェック、よし。物資チェック、よし。積み込み開始」



 森の奥深く。

 広大極まる森林は伐り倒され、多層構造の建築物が犇めく街が広がっていた。

 木造のビルもどきの合間を石で舗装された道が走り、その上を金髪赤目の少女達が多数の荷物を背負って歩き回る。


 これは全て一人の人間によって興り、幾千幾万の人力でもって発展を重ねた街。

 普段、森の表層のみに視線を向ける人々から隠れ忍び、コツコツ、コツコツと愚直に成果を積み続けた果てだ。


 いつかの過去では人目を忍びつつより効率的に、尚且実用性に富むように街を広げていた。

 森を抜けた先、近くの草原に佇む『セイラン』の人々に異常性を見せないために必死だった。


 ……けれど、ジワジワと増殖を重ねたアリシアの拠点が『セイラン』の人々に見つかるのも時間の問題だったろう。

 食事がほぼ必要なくとも、肉体を有する以上、どうしても存在の痕跡は残ってしまう。



 だからこそ。

 かつて、自身が暮らしていた『セイラン』が滅んだ時。アリシアの心情を無視するなら、発展するのに都合がいいとも言えた。

 それまでの増殖ペースを考えるならそれで良かった。

 隠れ潜むための警戒は最低限でよく、己という生命が発展を重ねるのに不足はない。



 ……しかしそうはならなかった。



 アリシアは殺意に狂い、胸の内に秘めた『澱み』は薪のように火を宿し、魂の熱はこの世の理に真っ向から反抗する。


 憎めば憎むほど、苦しめば苦しむほど『アリシア』は増え続け、それによって彼女は不死と力を獲得し続けて……ああ、無情だ。

 俺はもう、これ以上必要ないと言うのに、これ以上『当たり前』から逸脱したくないというのに、その苦しみさえ燃料となる。

 アリシアの気が狂い始めるのも当然だろう。




 そう。だからこそ。

 その滾る全てを、仇敵に向けた。

 それのみに専心した。



 そして、しばらく。

 魂の叫びに従い復讐は為された。


 嬉しかった。喜ばしい事だと、無垢な童女のように喜んだ。


 その甘美な福音は己と死者の魂に安寧を齎し――けれど、心の中で『ナニカ』は変わらず荒れ狂う。

 報いを与えるべき仇敵は既に居らず、その身に背負う大義なんてどこにも無い。

 既に為すべきことは為したのだ。

 そのはず、なのに。



 達成感が虚無感に変わるのもすぐだった。


 ――ああ、思いの丈をぶつける先が、八つ当たりの対象が消えてしまった。



 ドロドロ、ドロドロと蠢く。

 ナニカが、己を焦がすのだ。

 まだ足りぬと、渇くのだ。



 アリシアは行き場のないソレに苦しんだ。

 苦しくて、辛くて、哀しくて――そして、変わらず――否、益々自己を増殖させて、そして肥大化する己という総体に恐れ慄いた。


 これ以上は不要だ。もういらない。もう、『俺』を増やさないでくれ。そう厭おうとも、変わらず増え続け――苦しんだだけ、哀しんだだけ、嘆いただけ、自分の不死性は強まっていった。




 ……それから、更に時が過ぎた。


 アリシアが空虚に生きていても世界の歩みは止まらない。


『セイラン』の魔物を殺し尽くした事が上の人間に伝わったのか、己の目と鼻の先で復興が始まったのだ。


 喜ばしいこと、ではある。

 しかしそこに、己の居場所は何処にも無い。



 ……もう、潮時だろう。



「この景色も、見納めか……」



 街と森を一望できるこの櫓は、アリシアのお気に入りだった。

 自身が積み上げた全ての集大成。

 始まりはちっぽけな欲からだったが、作り上げたこの街は――確かに己が残した足跡だ。



「……よっと」



 腰掛けていた柵から状態を後ろに倒し、くるりと回転し板張りの床に足をつける。

 そのままグググッと背筋を伸ばし、肺に新鮮な空気を取り入れた。



 正直、この街を放棄して外の世界に飛び出す事に抵抗が無いわけではない。

 そもそも全ての肉体を動員する必要は無いだろうし、いくつかの肉体はこの土地に残したままでも――いや、まあ自分が見つからない為にもこの拠点から離れた位置に新たな拠点を作る必要はあるが、それでも態々……全ての肉体で別々の土地を旅するだなんて、そんな必要はない筈だ。


 けれど……この土地は、あの要塞都市には、幸せな記憶や辛い記憶が多すぎる。

 空虚な心に苦しむのはもうごめんだ。



「――ん。物資はこれで全部だな……そろそろか」



 ピョンと端から飛び跳ね、僅かな出っ張りを足場に櫓の外組みを駆け降りていく。


 数秒とかからず近付いた地面に柔らかく足を付け膝を緩め、その衝撃のすべてを受け流す事で無事に着地する。


 こんな事、昔の俺では不可能だったろうな。アリシアは思わず笑ってしまった。

 アリシアには剣の才能も槍の才能も、魔法の才能もない。

 けれど、肉体操作だけには光る物がある――そう、ギルドの教官は言ってくれた。

 もっとも他よりマシという程度だろうが。


 ともあれ、アリシアにとってそう大きな問題というわけでもない。

 アリシア達には、姉妹だからこその武器がある――己ではなく、己達という枠組みでしか知らなかった酒場のマスターはそう言っていた。アリシアにとって、彼の言葉は今も胸に息づく救いの言葉だ。



「荷車の準備も良し。……全部、だな。これで……」



 カツ、コツ、コツ。

 櫓は門にほど近い場所にあることもあって、アリシアの小さな歩幅でも1分程度で外の世界に辿り着く。


 外界との境界線――そこには、40万のアリシアが列をなし、荷馬車を人力で曳きつつ順次跳ね橋を通り抜ける。


 街から持ち運べる物資は根こそぎ荷車に詰め込み、1グループに5つの器と一つの荷車で編成した。


 ……これから、幾千の集団で、その全ては別々に行動する。



「っし!」



 櫓から降りた器を、直ぐ側を移動していた一団に同行させた。


 この拠点に戻る事も、そして――アリシアが作った墓標に参ることも、もう二度と無いだろう。

『セイラン』の人々は血肉を根こそぎ奪われ、その骨すらなかった。

 だからそこに彼らは居ない。

 けれど微かに残った遺品を地に埋め、墓標の石板を突き立て――名も無き少女達の遺骸をも星に還した。


 どうか、己がいなくなった後も安らかに。

 どうか、いつかこの街を見つけた人々にも、彼らの冥福を祈って欲しい。

 そして、願わくば……産まれてすぐに、命を落とした彼女達にも――。


 アリシアは、遥かな地平線を思い描く。

 この旅で、必ず何かを掴む。

 己の存在証明を為すのだ。

 その為だけに、己は己の力を尽くそう。



『行こう。東へ』


『新たな土地へ』


『きっと、俺が産まれた事には理由がある』


『為すべきことが、あるはずなんだ』



 ――立ち止まるな。前へ進め。そうでなくては―――。























 ――その日より、この広大な大陸のいたる所で金髪の少女達の姿が目撃された。


 山、海辺、平原、荒野。

 この大陸のあらゆる土地に現れた。


 彼女等はみな同一の容姿を持ち、五つ子であるという。

 年端も行かぬ女のみでありながら旅をし、なんと別の大陸を目指していると言った。


 そして、それは全く異なる土地で幾千……あるいは万にも届く数だけ目撃される。


 僅かな路銀を懐に、時折立ち寄った村々や街に足跡を残し、3日休めば止めた足を再び前に出す。

 決して一つの土地に留まることはしなかった。決して。





 とある老夫婦は、そんな彼女らを引き留めた。

 まるで孫のように愛らしく、素直で、心優しい少女達を――そう、本当の孫のように思えた。思えてしまった。だから、危険な旅なんて辞めて欲しい。願わくば……子を失った自分たちと――。



 とある辺境貴族の娘は側仕えになって欲しいと、涙ながらに訴えた。

 貴族であるがゆえに己に心の友はなく、両親は凍てついた心で上辺だけの愛を向けるのみ。

 彼女にとって、生に溢れた少女達は眩く、美しく、そして初めて出会えた友だった。



 とある靴屋の青年は、どうか己と暮らしてほしいと愛を告白した。

 偶々街角で出会い、そして何気ない会話から少女に惹かれた。

 だから、その未熟な恋を告げて引き留めようとした。それまでの生活を投げ捨ててでも、彼女と居たかった。



 とある老騎士は、己の弟子になって欲しいと、そして共にこの国を守って欲しいと語り掛けた。

 夜の森で野営していると突然現れた少女達。

 流れで共に飯を喰らい、共に街を目指し――その中で少女に日輪の如き煌めきを見た。

 剣の才能はなく、魔法の才能もないが――その、未熟であり、曲がりやすく――けれど、その■■染みた精神にこそ未来を見たのだ。だから欲しい。

 全てはこの国の為に。






「……ごめん」



 そして、アリシアはその差し伸べられた手を振り払う。

 確かにどの選択肢も、心の奥底で求めているものかも知れない。

 それは掴むべき『ナニカ』とは異なる――そう、いうなればあらゆる柵を剥ぎ取ったただの少女の"アリシア"にとって欲しい物。


 きっと、求めてやまなかった『()()()()()()()』という可能性を提示してくれた。


 ……けれど、思うのだ。



 それが自分に()()()()()()()()()



 その思いは旅の最中、当たり前の生活を送る人々に触れ合う中で膨れ上がる。



 なあ、許されるのか?



 ……否、断じて否。許される筈もない。

 許してはならない。

 望まぬ死を得た彼らの影が、そんなのはありえぬ、ありえてはならぬと囁きかける。

 何時であろうとも語りかけてくる。



 己の特異性に調子に乗り、のうのうと普通の努力と普通の生活を送っていたから『セイラン』は滅びた。



 予めより密度の高い努力を欠かさず、一片の油断も無ければ防げた筈だ。

 自身には、その為に必要なものを備わっていた。



 だというのに、なんだあの体たらくは?



 あり得ざる幻想の世界に足を踏み入れた事で悦に浸ったのか?

 何故程々の努力で妥協した?

 何故自分自身の機能を正確に把握しようとしなかった?



 ……不真面目だったのだ。

 真面目に生きる彼らを見ていたにも関わらず、学ばなかった。



 だから、もう『妥協』は許されない。



 彼らの言葉を聞いて、そう思った。

『当たり前』から外れることが怖い?

 何を考えていたのだ、己は。

 そんなの、この畜生に恐怖する資格があるものかよ。



「どうか、この畜生に、そんな暖かい可能性を見せないでくれ」



 その言葉に彼らは涙した。してくれた。

 固い決意を見ても尚、アリシアを引き留めた。

 けれど、『アリシア』が選ぶ道ならば――そう言って、背中を押した。


 だからこそ、アリシアは尽きぬ後悔を抱えつつも前に進めたのだ。









 ……ああ、いいや。

 アリシアは記憶の中に一人だけ例外がいたことを思い出す。

 この畜生に、愚かにも恋慕の情を向けた青年。



 彼は、彼の居城たる靴屋のカウンターにいて。

 どこか緊張したように表情を強張らせながらゆっくりと口を開いた。

 ムカつくほどキレイな青い瞳を輝かせて、ひどく赤面しながらもアリシアに告白したのだ。

 よりにも寄って、今は女子とはいえ男から生まれ変わったナマモノに、だ。



「……は?」



 まず、アリシアは困惑した。

 女としての自意識なんぞ赤子か幼児レベルの俺に、何故?と。



 ……そして、そう。正直、アリシアは赤面した。

 それはもう、真っ赤に耳まで染め上げ、その言葉を咀嚼するにつれてますます思考は混乱した。

 同時期、まったく離れた別の場所にある器もすべて例外なく赤面した。そして周囲の人に心配された。



 ……しかし、なあ。と。

 赤く染まった顔のままに思考を回す。

 何故よりによって俺なのか、とか。

 何故俺は赤面しているのか、とか。

 正直トキメ――――ごぱん!! 

 アリシアは隣から自身の頭に拳をぶつける。

 あっ、喧嘩じゃないです!ご心配なさらず……。



 ともかく、アリシアは目の前に立つ青年に何故かと問うた。

 若干日の傾きによって影が靴屋の床板を侵食する中、彼女の赤眼は鋭く煌めく。


 今、柄にもなく女心――んんっ!男心が高鳴ったことは認めるが、それも不意打ちだったから。そもそも彼とそこまで仲のいいわけじゃないはずだ。

 いや、まあ確かに滞在中はよく話したし、靴の相談もして、時折連れ立って買い物やお茶もした――アリシアには、何故そこから恋に発展するのかまったくもって理解できない。



「……きっと、貴女達――いいや、貴女には分からないのかもしれない。五人でありながらたった一人っきりのアリシアさんは、人心に疎いようだから」



 カチャリ。

 思わず、腰に佩いた剣の柄に手をかける。

 使い込まれた鉄剣や石剣の感触が手のひらを冷やす。



 ――この場には5つの器がある。


 そして、その全てに対して、全く同じ人間に語り掛けるように扱った。

 その全てを通して『アリシア』という総体に語り掛けたのだ。

 ……それはつまり、彼は――『ライル』は、己の異常性を見破っている――!!



「まず始めに言いたいことがあります。私はそんな事(・・・・)はどうでもいいんです」


「は」


「私はただの靴職人で、難しいことは分かりません。だから、小難しい理屈はどうでもいいんです。ただ、あなたが。ただの少女、"アリシア"が欲しい」



 限界スレスレで稼働していた思考が止まる。

 その言葉には溢れんばかりの『想い』が込められていることは、人心に疎いと言われたアリシアにも理解できた。



 アリシアには、眩しかった。

 ただひたすらに美しい。

 人とはここまで純粋になれるのか。

 ここまで素直に、ひたむきに――恋慕の情を抱けるのか。



 大陸中でアリシアが赤面のままに顔を抑える。

 40万のアリシアは思いの丈を受け止めきれず、ひたすらクネクネと身悶えていた。アホかな?



「……けど、駄目だ。駄目だよ。俺にはそんな、そんなの……許されない」


「どうして……と聞いても?」


「……俺は、そうだ。『俺』は……探さなきゃ」


「『俺』が、存在する理由を」


「為すべきことを」


「そうじゃないと、あの人達の死が無駄になってしまう」


「――そうじゃなきゃ、『俺』はなんでここに居るんだ?なんでまだ生きてるんだ?……なんで」


『――化け物なんだ?』



 ……青年は、その熱意に圧倒された。

 彼女には深い――それこそ想像もつかない程の事情があるのだろうと思っていた。

 けれど、それでもいい。

 青年には関係ない。

 私はただ彼女を愛しているのだ。共に生きたい、ただそれだけ。


 ――意を決して口を開く。



「アリシアさん。聞いてください」


「駄目だ、駄目だ。このままじゃ、駄目だ」


「許されない、あり得てはならない……!」


「アリシアさん……!!」


「そんな可能性、見せないでくれよ。そんな暖かい夢、見せないでくれよ……!」


「駄目なんだよ、『俺』は、『俺』が、彼らの死に報いないと……!!」


『……ごめんなさい……』



 トン。

 青年の背後から手刀が放たれる。

 あらゆる知識を学び、傷付けずに制圧する術を獲得したアリシアは――六体目の器を駆使して意識を奪う。


 可能な限り痛みはなく、あとに残ることもない。



 トサリ。

 倒れそうになる青年の体を支え、カウンターの裏にある椅子に座らせる。



 ……ああ、やってしまった。

 アリシアは思わず嘆きを零す。

 望まない(欲しかった)言葉を投げ掛けられ、精神が加熱を重ねてしまう。あまりにも未熟。



 だから、彼を気絶させてしまう。

 だから、俺は臆病なんだ。

 だから――ここぞという場面で怯えてしまうんだ。



「けれど、ありがとう」


「こんな『俺』に価値を見出してくれて」


「でも、『俺』がいることであなたに災禍が降りかかるかもしれない」


「だから、さよなら」



 靴屋のドアを開き、石畳の上に足を乗せる。

 傾く三つ子の太陽は兄弟と共に地平線へ沈み、その斜陽の光は大通りを一直線に照らしてくれた。



「もう、この街は出よう……」



 影の中、アリシアは泊まっている宿屋へ向かい、そこで荷物を回収する。

 主人へ3日分の代金を支払い、木造の建物を後にした。



 もうすぐ、この街は――貿易都市ではあるが、防備を考え大門を閉じてしまう。


 その前に出るため荷車を二人がかりで曳き、新たな六つ目の器を人目に晒さぬように気をつけつつ歩みを進める。



 この街は帝国の貿易都市の中でも上位に位置する経済能力を持つという。

 だからこそ多くの商会や、冒険者ギルドの羽振りもすこぶるいい。

 そのおかげなのか、はたまた有する武力に自身があるのか、また別の手段があるのか……多少の不自然さがあっても見過ごされた。


 だからこそ『冒険者のウーラソーン姉妹』という肩書がそのまま使えて、尚且身分証明のおかげであらゆる障害は無くなってくれる。



 ……大門についた。


 どことなく『セイラン』を連想させる堅牢な石門は両開きのまま。

 アリシアは間に合ったことに安堵のため息を漏らし、早速門番へ手続きを申請する。



「ん、旅を再開するのか…………ふむ、不自然な動きは無かったし問題ないな。さらばだ、冒険者よ。汝の旅に祝福あれ」


「……どうも」



 ヒヤッと。冷たいものを背筋に感じた。

 ……どうやらこの快適さの原因は三択の内の最後だったらしい。

 人間の警戒心とは大事なもの。生死を分ける要素としては堂々のトップに君臨するのではなかろうか。

 それを、『欲』が集い舌戦と金貨(・・)の戦場たる魑魅魍魎の巣窟で……ああ、そんな緩いことなどあり得る筈もなし。またもや己は油断していたようだ。

 アリシアはまた新たに自身を戒める。



 そんな彼女を知ってか知らずか、ありがたいお言葉――というには無感情で硬質な声を背中に受け、アリシアは夜の闇に紛れていった。









 ああ……。

 なんだろう……松明の熱が、やけに暑いな。

 額の汗が目に入ってしまったよ。






<TIPS>


「老夫婦のネックレス」


とある農村に暮らす老夫婦。彼らから魔除けを願って少女達に託されたもの。

彼らにはかつて子が居た。

愛らしく、目に入れても痛くないほど大事な娘。

彼女は若い憧れを胸に都へ向かい、冒険者となり――そして死んだ。

死因は『呪い(カース)』。

誕生日に贈ろうと作った魔除けのネックレスは、しかし役目を始めることさえ無く箪笥の奥深くへ仕舞われていた。


どうか、少女達――否、少女よ。我が娘と同じ美しい赤眼の幼子よ。

ただ無事であっておくれ。





「木彫りのメダル」


とある貿易都市に居を構え、代々営む靴屋の青年の宝物。

彼は穏やかで温厚ではあるが、強靭な一本芯を備えていた。

アリシアが彼に友好の念を抱きこのメダルを作ったのは、それに対する憧憬の表れだろうか。

青年の若々しい恋は実らなかった。

けれど、灼熱が如き想いは確かに"アリシア"へ届いた。


『女』というのは、芽吹いてしまえば後は早い。

それが芽吹くのはいつか。そして、誰が育てるのか。


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