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貶めろ

あかん、放って置くとワイの手がどんどんと主人公くんちゃんの目を濁らせていく……!!(´;ω;`)

きゃっきゃうふふ、ほわほわきらきらー。って感じで書きたかったのに……!!(´;ω;`)

 敵を探す。


 首を落とす。


 血肉を喰らう。


 敵を探す。


 首を落とす。


 血肉を喰らう。


 敵を探す。


 首を落とす。


 血肉を喰らう。


 敵を探す。


 首を落とす。


 血肉を喰らう。


 敵を探す。


 首を落とす。


 血肉を喰らう。


 敵を探す。


 首を落とす。


 血肉を喰らう。




 森の内部から這い出る千の軍勢。

 彼女達――否、”彼女”は幾度目かも分からぬ掃討作戦を開始した。


 幾度となくセイランに住み着く獣を駆逐しようと攻め入り、しかし今日になるまでその物量に阻まれ叶わなかった。


 ――しかし今日こそは。

 ――明日こそは。


 何度もそう思い、少しずつ少しずつ、繰り返し侵攻してきた。

 そしてそれと同じ数だけ負けを重ね逃げ延びた。



 だが、ああ。敗北の苦汁はもう飽きた。

 今日こそ、勝つ。



 アリシアは必勝を期し、千に届く数の肉体を動員した。これで終える――その決意の表れだ。

 みな一様に粗末な石剣や鉄剣を両の手に構え、大地を踏み鳴らし、遠方の巨大な石壁を目指し行軍する。

 森を抜け、草原を踏み荒らし、穀物地帯を走り抜け――そして、魔物()達に相見えた。



「殺す」



 純黒の殺意がドロリと湧き出る。

 その感情の元は大それたものではなく、大義もない。ただドロドロと降り積もった胸の内を晴らしたいがための八つ当たり。

 この行軍とてそれの延長線上のもの。

 己がやる意味はないし、その必要もない。



 ――けれど、疼くのだ。



 殺意が、害意が、悪意が。

 奴等を徹底的に貶めよと、声高らかに絶叫する。

 そこに大義がない?意味はない?放っておいてもギルドがなんとかする?


 いいや、どうでもいい。

 俺がそうしたい。それで十分だ。それだけが全てだ。



 アリシアは、己の心が赴くままに千の刃を宙に泳がせた。


 必殺の決意を以て、滅びを迎えたセイラン――魔物の根城へ攻め入り、無数の狼達を屠殺する。



 ――ザクリ、ザン!ぐちゅり。




 ……あの日から時間の感覚はひどく曖昧だ。


 いつに何があって、どんなことを成したのか。

 熱に浮かされた様に覚束ない思考回路は、外部からあるはずの入力の一切を受け付けられずにいた。


 アリシアは定まらぬ自我のまま、最後に抱いた情動を原動力に動き続けている。



 貶めたい。この感情の大本とは、きっとそこに”因”が存在する。



 あの畜生共がいたから滅んだ。

 あの畜生共のせいで彼らは死んだ。



 だから、そう。

 俺が奴等に対して報いを与えねばならない。

 因果応報、己が行いは己に帰る。この世とは即ち鏡也。


 だから死ね。

 とにかく死ね。

 殺して殺して殺して、その血潮の一切を俺が喰らう。

 そして、それを以て奴等の同胞を殺し尽くす。

 ほら、効率的だろう?



「――そうだ、もっと」


「もっと増えろ」


「もっと」


「もっと」


「魔物を殺すために」


「人を生かすために」


「思い出のために」


「もっと」


「もっと」


「増えろ」


「――地を埋め尽くすほどに」



 ピキリ。

 虚空に微かな亀裂が走る。


 アリシアを起点とした半径5キロメートル。

 未だ錯乱し続ける彼女はそれに気付けない。気付かない。その必要もない。



 ガリガリガリ!

 何かを削るような音と共に、『アリシア』の器がどんどん拡がる。


 アリシアは自身に起きている変容にもちらりと視線を向けただけで、再び剣を振るい始めた。


 アリシアの器が寄り集まった軍勢の端、そこでまた新たな器が誕生を繰り返す。

 生まれたばかりの器は、こんな時の為に武器を輸送している一団から武器を受け取り、そして戦列に加わった。


 ……なにも、このように自己の拡張を感じたのは初めてではなかった。

 アリシアは認識していないが、あの日から繰り返す殺戮の過程で頻繁にこの現象が起きている。



 ――しかし、そんな事はどうでもいい。



「殺せ」


「殺せ」


「殺せ」


「殺せ」



 大地が震える。

 彼女の怒りの行軍に恐れをなしたかのように嘶いた。



「門だ」


「開いている」


「じゃあ攻め落とそう」



 狼達とて無抵抗ではない。

 みな己の牙を果敢に突き立てようと奮い立ち、我こそはと死を恐れずに飛び込んでいった。



「ギャン!?」


「ギ」


「グ……る……」



 斬る。

 斬る。

 斬る。

 斬る。

 斬る。


 斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬――――!!!




 戦列の前であろうと、戦列の横であろうと、はたまた回り込んで後方から襲い掛かろうと無駄。


 連携と言うにも生易しい。

 まさしく一つの個である肉体運用によって隙間なく斬撃の檻を構成し、一切の無駄を省いた戦運びに狼達は為す術なく首を落とした。


 そして狼の死体は戦列の中央にある輸送部隊に受け渡され、その肉体を効率的に消費する。


 肉は喰らい、血潮は飲み干し、骨は武器に、毛皮は防具に。


 より効率的に敵を殺す為の道具にするのだ。



「…………クソが」



 かつて栄えた大通りは荒れ果て、そこら中に散乱している血と骨。

 石壁は血化粧を施し、けれど華やかさではなくただ陰鬱な狂気を覗かせている。

 大通りの正面から、横に伸びる小道や路地裏から、開け放たれた家屋の内部から。

 多くの畜生が続々と現れ、そして無残に命を散らす。



 ――繰り返すこと幾ばくか。

 気付くとアリシアはこのセイランの中央――大広場に辿り着いていた。


 その更に中心部に立つ噴水には嘗ての栄華の面影はなく、ただ荒廃した風に吹かれている。



「■■■■■………!!」



 そこに、()()がいた。

 4メートルはあろうかという体躯を直立させ、はち切れんばかりの筋繊維を身に秘めた白の人狼。


 この街を滅ぼした狼達の長。



「GAa■■■aA■■■■―――!!!!」



 彼の雄叫びと、アリシアの剣先が殺意を乗せたのはまったくの同時だった。



「おおおおおおおおおお!!!!!」



 駆ける。

 大地を踏み締め、アリシアは千の肉体を駆動させた。

 非力な女の身であれど、そんな事は関係ない。

 そんなもの、この身を焦がす殺意を乗せる事ができるのならばどうだっていい……!!



 走る、奔る、疾走る――!!



 石の剣、鉄の剣、骨の剣。

 多様な牙を、変わらず雄々しく地を踏む人狼へ突き立てた。



「――ちィ!!」



 しかし刺さらない。


 僅かばかりの肉を抉るが、それ以上に刃が進まない。

 ――これでは、殺せな――



「黙れ、死ねェ!!!」



 アリシアは弱気な声を気合でねじ伏せ、一度距離をとって再度の突撃に備える。



「■■■■………!」



 ……ヤツがそれを待つ筈もないが。


 それまで見に徹していた人狼が動いた。

 今の()太刀で力関係を把握したのか、一切の防御を為さぬ突撃の姿勢を取る。



 ドォン!!!



 ――アリシアはその身を貫く衝撃――その残滓に瞠目する。

 後方百メートルまで直線上に戦列を貫き、家屋を砕くことでようやっと停止した巨体に戦慄の視線を向けた。



 見えなかった。

 初動を見定め回避を取ろうとして――しかし、無駄だった。


 今の突進で、98の肉体が負傷し、51の肉体が致命傷を負った。


 ――つまり、今。

 新たな命が生まれ、そして死に絶える事になった。

 ……なって、しまった。



「クソがァ………!!!」



 愚直に、剣を構えた。

 ただ斬りかかるだけではその毛皮に阻まれる。

 なら、全霊を込めた突進でしか傷付けられない。

 或いは、全く別の方法か……ともかく、取れる手段は多くない。



 アリシアは手に持つ剣を槍に見立て、腰だめに切っ先を立てた。



「おおおおおおおお!!!!」


「■■■■■■!!!!」



 全方位から百の刃を突き立てる。


 脛。腿。腹。背中。首。

 叩きつける刃は、しかしその強靭な毛皮と筋肉に阻まれ微かな血を流させるのみ。



 ――けれど、諦められない。



 剣を突き立てる。

 肉を微かに抉る。

 少女が弾き飛ばされ、背骨を折った。


 剣を突き立てる。

 肉を微かに抉る。

 少女は下半身を踏み潰された。


 剣を突き立てる。

 肉を微かに抉る。

 少女は頭を蹴り飛ばされ、僅かな生さえ知らずに逝った。


 剣を突き立てる。

 肉を微かに抉る。

 少女は折れた肋骨に肺を貫かれ、苦しみの中に命を落とした。



 剣を突き立てる。

 肉を微かに抉る。

 死ぬ。


 剣を突き立てる。

 肉を微かに抉る。

 生まれる。


 剣を突き立てる。

 肉を微かに抉る。

 死ぬ。


 剣を突き立てる。

 肉を微かに抉る。

 増える。


 剣を突き立てる。

 肉を微かに抉る。

 増える。


 剣を突き立てる。

 肉を微かに抉る。

 増える。

 増える。

 剣を突き立てる。

 肉を微かに抉る。

 増える。

 増える。

 増える。

 増える。

 剣を突き立てる。肉を微かに――増える。増える。増える。増える。増える。増える。増える。増える。増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える増える―――――!!!




 限界を超える殺意は加熱し続け、それに応えるようにアリシアの肉体は増殖を重ねた。



 ――この都市の全てを埋め尽くすほどに。



 大通りは最低限戦闘行動が可能なスペースを残し、”アリシア”の肉体で埋め尽くされている。


 そこだけではない。

 路地裏、家屋の中、果ては屋根。

 四方八方に剣を携えた『アリシア』が立っていた。


 数えることが馬鹿らしくなるほどの圧倒的物量が、殺意を乗せて人狼を睨みつける。


 ドロドロと粘ついた、物理的な重さをも感じてしまう想念。

 それを真正面から受け止めた人狼は、振り回していた四肢を思わず硬直させてしまう。




「■■……ル……!?」



 千を超え、万に届いたその全て。

 数え切れないほどの(殺意)を人狼に差し向けた。



『死ね』













 それから数刻。

 人狼の白かった毛皮はズタボロに痛めつけられ、その毛の殆どは剥げ落ちて痛々しい。

 まるで極端に切れ味の悪い刃物で何度も何度も繰り返し――それこそ数え切れないほど斬り付けられ削がれたようだ。


 噴水に寄り掛かるように背中を預け、恐ろしいほどの巨大な体躯に相応しい血の河が広場を縦断している。

 その河の行き着く先――そこには撥ね落とされた大きな首。


 その首は血に塗れ、牙を引き抜かれ、ゴミクズのように打ち捨てられている。

 生命への、冒涜のように。



「………………」



 戦の跡地。

 広場の中央に鎮座する人狼の遺体から離れた場所に、アリシアは輪を作って立ち尽くす。


 円陣の内側には傷つき倒れ、死に絶えた――或いはこれから命を落とす幾百の少女達の身体が並べられている。



「あ、あぁ……」


「 ー。ぁ  ー。」


「死にたく、ない」



 死の間際、『アリシア』から剥がれ落ちて初めて個を獲得した少女達。

 彼女達はこの瞬間に産まれ、そして死ぬ。


 死ぬことが確定してようやっと『俺』から逃れ出でて自由になる――そんな彼女達を憐れめば良いのか、もしくは――■めば良いのか?



「……祝福を」


「あなた達に、祝福を」



 気付けば、アリシアは口を開いていた。

 人が絶え、獣も死んだ死の都。

 空虚な要塞に清廉なる声が反響する。



「”死なず”の『俺』から逃れ、死を享受するあなた達の旅路に、祝福を」


「”不変”である『俺』から産まれた変化に、祝福を」



 それは祝福の声であった。

 慈しむような、憎らしいような、喜ばしいような、笑うような。

 幾つもの感情が複雑に混じり合ったような奇っ怪な心の赴くままに言葉を連ねた。



「どうか、安らかな旅立ちでありますように」


















 カン、カン、カン!!


 ラサールのねぐら、その奥深く。

 ここはアリシアが開拓し、そして住処と定めた街と見紛う程巨大な拠点。

 セイランに攻め込んだ肉体とは別に、変わらず木工や写本、訓練に勤しむ五百の肉体。

 作業の音は甲高く拠点に響き渡り、ただただ繰り返す手の動きに没頭する。

 もう、渡す相手も、売りつける相手もどこにも居ないというのに。


 木の防壁は程々に高く、四方に備えた両開きの門のみがこの拠点の入口だ。

 加えて防衛面を強化するためか、聞き齧りの知識で見様見真似に堀をも造られていた。




 ――ギイ。ギイ。ギイ。



 跳ね橋が降りる。

 堀の間を渡し、門を通すための帰還者がすぐ近くまで訪れたからだ。


 鬱蒼と茂る森は視界が通らない。

 一応拠点の付近であれば道もある程度舗装されているものの、視認するにはかなり近くまで寄らなければ不可能だろう。


 しかし彼女には不要である。


 幾千幾万の肉体があろうとも、その全ての肉体はその全てを共有し、そして一つの意思によって操作される。



 バタン。


 跳ね橋が地に固定された次の瞬間、木々の隙間を通る道にポツリポツリとアリシアが現れた。

 その肉体を追うように続々と荷馬車が到着する。

 本来であれば馬が牽くのであろうがそんなものはどこにもない。

 必然、無数の肉体で持って人力で――数の力で搬送する。


 その荷車の上では狼達の死体であったり、セイランでかき集めた物資が所狭しと詰め込まれていた。


 3つ。9つ。27つ。81。


 続々と運び込まれ――その中には、少女達の遺骸もあった。



 ――ギイ。ギイ。ギイ。



 再び跳ね橋が上げられる。

 門は閉じられ、外界との接触を絶ち始めていた。


 なんせ、己のやるべきことは――敵討ちは終えたのだ。

 野望?欲?そんなものは後に回そう。



 ――俺は少し……疲れてしまった。




 ……俺は、あなた達が■ましい。今は亡き同胞よ。




<TIPS>


『人狼の牙』


要塞都市『セイラン』を攻め落としたリジェーボ()達のぬし、その白い牙。

彼は過去に存在した『災い喰らいの白狼』、その血を引く最後の存在だった。

かの白狼は災いを喰らうことで人々を守ったが、その子孫たる彼はその力で人を喰らった。


その全ては、今は亡き妻へ捧げる鎮魂の供物であった。



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