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8話 村に巣食う脅威

「おはようございますマスター。今日もいい天気です!」


 カーテンから差し込む太陽の光と、フランの丸っこい愛嬌ある顔を目覚ましに。

 

 俺はベッドから起き上がる。少し寝過ぎた。

 朝と呼ぶには遅い時間。凝り固まった肩を回す。


「ふぁあ……そうだな、今日もいい天気だ。じゃあ、着替えてさっさと宿を出るか」


「もっとゆっくりしていかないのです? お肩が痛いのでは? フランにお任せです」


 両手をわさわさと動かしフランが後ろに立つ。

 とーんとーんと即興の歌を奏でながら。軽く叩いてくれる。

 

 何というか動作の一つ一つが父性をくすぐる子だ。癒しのオーラが流れている。


 いかんいかん。

 このままでは一向に部屋から抜け出せなくなる。

 愛想の悪い無口なおばちゃんだって、怒る時は怒るだろう。

 

 断腸の思いで中断してもらうと。

 フランの前で早着替えを披露し、逃げるように宿を後にする。


 おばちゃんの目の前を通り過ぎる時、

 嫌味の一つでも言われるかと思ったのだが。


 フランの姿を目で追いながらも何も言ってこなかった。延長料金とかも無し。


 子供連れだから見逃してくれたのだろうか? 

 よそ者が嫌いな割に意外と寛容だな。


「よーし。体力も回復したし、王都を目指してこのまま突き進むぞ!」


「はい、マスター! ……ところでマスターは王都には何の用事が――危ない!」


「くらえーーーー!!」


 村の出口に立ち、いざ長旅の再開だと意気込んだところで。


 俺の足に激痛が走る。

 昨晩から始まった筋肉痛の箇所を、的確に捉えた一撃だった。


 片足だけで何度も跳ねながら悶える。それから犯人を睨みつける。


「いてえぇよ。一体俺が何をしたっていうんだ。この、いたずら坊主!」


「…………!」


 男の子だ。半袖半ズボンの軽装であるところを見る限り村の子供だろう。

 

 見た目はフランよりちょっと大きいくらい。

 大人の俺に喧嘩を売るとは良い度胸だ。

 

「その勇気は認めてやるが、いたずらにも限度があるぞ? ほらっお兄さんに謝りなさい」


「――うるさいおっさん! 冒険者なんて嫌いだ! 村から出ていけ!!」


「俺はまだ二十だ! 失礼だぞ!?」


 子供の前で大人げなく叫んでしまった。

 だが、あの頭皮の寿命が怪しいオッサと同じにされるのは勘弁願いたい。

 まだその領域に足を踏み入れるのには、覚悟も経験も足りていないので。


「……? どうした。腕を前になんか出して。まさか殴られるとでも思ったのか?」


「……えっ」


「君は何か勘違いしていないか?」


 男の子は俺から反撃がこない事に心底驚いていた。

 

 いくら俺が子供にキレる大人げない奴だとしても、

 いきなり相手を殴り付けるような教育は受けていない。


 いや、そもそも俺には教育してくれる親なんていなかったけどさ。


「この前きた連中は女子供に容赦なく手を上げてきた……かあちゃんも怪我をして目が悪くなったんだ」


「そりゃ酷いな……。もしかして、冒険者がやったのか?」


「何年か前に突然村に魔物が現れて、街のギルドにお願いして倒してもらったんだけど。その時は感謝したんだけど。それから冒険者たちが勝手に村に居座りだして、お金を要求しだして。俺たちが守ってやっているんだぞ報酬をよこせって……。結局魔物もまた出てくるし。みんな困っているんだ」


「……恩着せがましい最低な奴らだな。親の顔が見てみたいものだ」


 魔物の脅威という盾を使って、やりたい放題している訳だ。

 俺たちが無視されていた理由がわかる。連中の仲間と疑われていたって事か。


 ギルド長オシムの憎たらしい顔が浮かぶ。

 

 上が腐敗すると下の者まで感染していくんだな。

 金に汚いところまでそっくりだ。腹が立ってきたぞ。


「……そういうお前も奴らの仲間なんだろ!」


「違う。俺たちはただの旅人だ。まっ、冒険者だった時期もあったような気がするがな」


「えっ、そうなんだ。そこの小さい子が剣を持ってたから。オレ、てっきりおっさんも冒険者かと……」


「マスターは悪い人じゃないです!」


 魔剣なんて仰々しい物を、護衛もなく持ち運ぶ旅人なんていないもんな。


 いつもはフランが布を巻いて隠しているんだが、

 宿を出る時のどさくさで少しはみ出ていたようだ。


 まだ相手が子供だったから助かったが、今後は気を付けないと。


「……ごめん。人違いなのに蹴って……ごめんなさい」


 男の子は俯きながら静かにそう呟く。

 俺はなるべく高圧的にならないように視線を下げて頭を撫でる。

 

「村に活気がなくて寂しかったからな。子供の坊主が元気な事は良い事だ。……もし、俺が君に怒る事があるとするならば。相手がその(くだん)の冒険者だったらどうするつもりだったんだ? 暴力を振るう悪者なんだろう? 君の身に何かあれば悲しむのはかあちゃんだと思うぞ」


「……っ! ……そうかも」


 男の子は素直だった。素直に過ちを認めてくれた。

 俺もこの子のように、何も考えず無茶をやってた時代があった事を思い出す。

 その時はもう少し捻くれていた気がするが。それを考えるとこの子は賢い子だ。


「マスター……!」

 

 フランはじっと期待の眼差しでこちらを見ていた。

 やれやれ。俺には正義の味方なんて柄じゃないんだが……。


 だが、あのギルドの連中には借りがあるからな。


 ――ちょっくら、挨拶にでも行きますかね。


「……よし。坊主。今から兄ちゃんたちをソイツらの所に案内してくれ」

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