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26話 後悔させたくない

「二人はどこまで行ったんだ。悲鳴は止んだようだが……」


 先走っていったクレルたちを追って森の中を歩く。

 行く先々に男たちが気絶していた。鮮やかな技量はクレルのものか。

 宣言通り、俺には戦わせないらしい。この分だと流石に野盗も全滅が近いか。


「……だが、嫌な感じが抜けないな。一体何なんだ。気分が悪い」


 この違和感はハーミルの街で感じたものに似ている。

 まさか、死を超越せし者に近い何かが近付いてきているのか。

 俺は奴らに宣戦布告をしたばかりだ。背後で敵が動いていてもおかしくない。


「――――後ろか!」


 茂みが動いた。実際に後ろに敵が潜んでいた。

 男だ。野盗の生き残りだろうか。短剣を握っている。

 しかし妙だ。目が虚ろで足元も力が入っていないのかふらついている。


「そろそろ目的を話したらどうだ? 一体何が狙いなんだ?」


 俺はフランベルクを構えながら男に語りかける。

 連中の狙いが人であるのはわかっている。そしてそれは俺たちの内の誰か。

 おそらく魔剣だろう。無名の俺に価値はない。フラン、もしくはクレル。いや両方か?


「魔剣の情報をどこで手に入れたんだ?」

「…………」


 相変わらず反応が鈍い。寝ているのかと疑うほど。

 フランとクレルの存在を知るものは限られている。可能性としては魔王軍か。

 人間の中にも魔族と通じている裏切り者はいる。道を踏み外した野盗にだって。


「うぎぎぎぎぎぎ」

「……おいおい。まさかお前は話が通じない系か? 今の時間を返してくれよ……!」


 口から泡を吹き出しながら、男が歩み寄ってきた。

 俺は出力を抑えたフランベルクを振るう。しかし上手く躱される。

 

「補正がないと扱い辛いな……だが、やはり炎の質が変わっている!」


 魔剣に操られている状態では、フランベルクは普通の剣に近かった。

 自分の力で操っている今は、剣の軌跡に炎が追尾している。魔剣らしさを取り戻している。


 下手くそな素振りで外しても、魔剣の炎が敵を逃さない。

 正気を失った野盗の男が後ずさる。余波だけでもかなり効いている。


「練習相手になってくれてありがとよ。今、楽にしてやるからな」


 この男もまた、死人と同じだ。痛みを感じず、何者かに操られている。

 相手が悪人だろうと、命を弄ばれている姿を見るのは、あまり気持ちいいものじゃない。


「ぐぎ……!」


 肩から腰にかけて斜めに斬り付ける、そして前に転がり背中から貫いた。

 動きの鈍い死人相手なら、俺の力だけでも通用する。野盗の男はゆっくりと機能を停止――


 ――しなかった。


「ガギギギギギギギギギ」

「う、嘘だろ!? それはおかしいって!」


 男の身体が不自然に折れ曲がった。バキバキと音を立てて、関節が増えていく。

 顔と両手の位置が後ろにひっくり返っていた。生物としてあるまじき異形に変貌。

 敵を貫いた魔剣が固定化されてしまう。肉と骨が硬質化していやがる。


「お、おい! 放せって、何でもありかよ!!」


 フランベルクが握りながら俺は叫ぶ。

 両肩を掴まれた。人間離れした怪力で骨が軋む。

 痛い。あまりの痛さに力が抜けていく。周囲に異変。


 気が付くと、同じような関節が増えた化物が集まってきていた。


「ガガガガガガガ」

「ギギギギギギギ」

「仲間がいるのか……人間の中に紛れこんでいたのか!」


 さっきまで俺が倒した野盗たちは、普通の人間だった。

 確実に組織の中に魔王軍の配下が混ざっている。いや……野盗だけとは思えない。

 この分だと、俺たちが目指す王都にも――世界各地にこういった危険が潜んでいる。


「陰に潜んで、じわじわと人間を滅ぼすつもりか、陰湿な連中だ……!」


 静かなる怒りを魔剣に込めて。炎を活性化させる。

 固定化されたままの状態で、目の前の男を燃やし尽くす。


 自由の身になり、新たに近付いてくる異形の化物たちを前に、十字に空を斬る。

 コイツらとの近接戦闘は避けた方がいい。俺の必殺技――――【炎獄陣】を使う。

 炎の渦で捕らえ、そのまま灰に変えてやった。流石にここまでやれば復活はしないはず。


「はぁはぁ……俺はアンデットが、世界で一番、嫌いなんだよ……!」


 肩を押さえながら俺は木にもたれかかった。 

 初めてにしては頑張った方だと思う。ある程度自分の力で戦えた。

 当然、手痛い反撃を受けてしまった訳だが。痛みを知らずに強くはなれないか。


「今後は回復薬を多めに持ち歩いた方がいいな……薬草も全部は売らず残しておこう」

 

 少しだけ休息を取る。すると、奥の方から二人の姿。

 クレルが慌てた様子で近付いてくる。フランも一緒だ。


「ああ……カイルさん、お怪我を……! わ、私が、不甲斐ないせいで……!」


 クレルが俺の赤くなった肩に触れていた。

 ちょっと腫れてしまっただけで命にかかわる怪我ではない。

 まるで、子供が転んで擦り傷ができて、大騒ぎする母親のようだ。

 

「マスター、お肩は大丈夫ですか?」

「ふふん、カッコいいだろう? 男の勲章って奴だ」

「マスターは最初からカッコいいです!」

「可愛い事を言いやがって、コイツは……!」

「えへへ」


 もはやお馴染みとなった応酬。

 フランは撫でて欲しいのか最初からしゃがんでいた。

 お望み通り、ワシワシと頭を撫でてやる。可愛い妹分だ。


「ぐすっ……ごめんなさい。カイルさんの望みを否定した……私の責任です」

「クレル、泣いているのか? 大袈裟だぞ?」

「どうか、お許しください……私は……愚かな剣精です」

 

 クレルは俺の前で跪いて謝り続けていた。

 マスターを守る事にそれだけ責任を感じているのか。

 てか、俺はクレルのマスターではないんだが。真面目というか。

 

「まっ、心配かけた俺も悪かったよ。突然だったしな」


 彼女の頭を撫でる。よし、今なら意識しなくて済むぞ。

 クレルはなすがままになっている。潤んだ瞳で俺を見ていた。

 

 魔剣に頼らないというのは、剣精の使命を否定する言動だった。

 俺の発言を何でも肯定するフランはともかく、クレルの反応が剣精としては普通なんだろう。


「勘違いしないでくれ。俺は別にずっと魔剣に頼らないと言った訳じゃない」

「……カイルさん」

「少しは俺にも頑張らさせてくれって事だよ。そうじゃないと不安になるんだよ。俺は本当にお前たちに相応しいのかって。……心配するな。俺はもう、お前たち無しじゃ生きていけない身体だ」


 そう言って立ち上がる。不思議と痛みは和らいでいた。

 フランがピッタリと背中にくっついてくる。振り向くとニコっと笑顔が返ってきた。

 この先の魔王軍との戦いに向けて、強くなりたいとか、そういう建前もあるにはあるが。


 愚図だった俺を選んでくれたこの子に。俺を選んだ事を――後悔させたくないだけなんだ。

 

「……カイルさん。私の……マスター……!」

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