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25話 自立

「くそっ、数が多すぎる! 一人、二人を倒したところで何も変わらねぇ!」

「いいから少しでもこちらに引き付けるのよ。それが私たちの仕事なんだから!」

「……ああ、まったく。大変な仕事を引き受けてしまったもんだな。神にでも見捨てられたか?」

「それは同感するわ」


 冒険者の二人が盗賊団に追い込まれていた。

 どうやら大多数を連れて山の中まで逃げ込んで来たらしい。

 不安定な足場を利用して包囲網を薄く横に広げている。おかげで突破がしやすかった。


「よう、お二人さん。大変そうだな? 無事でなによりだ」


 忙しそうなので手短に背中から声を掛ける。

 二人は幽霊でも見たかのような、強張った表情で振り返っていた。

 すぐに俺の姿を確認すると安堵の溜め息をつく。


「――に、兄さん!? ど、どこからやってきたんだ!? ってか、どうして逃げなかったんだ! ここは危険だ、早く逃げないと奴らに捕まってしまう!!」

「そうよ。せっかく私たちが命懸けで時間を稼いでいたのに!」


 そうだろうとは思っていたが、二人の想定以上に敵の数が多い。

 結局御者は捕まっていたし、逃げたところで追い付かれる可能性の方が大きかった。


「俺の命は二人の命と釣り合うほど重いもんじゃないんでな。目覚めも悪いし返しておくぞ」

「それはありがたい話だけど……馬鹿ね。わざわざ戻って来るだなんて。とんだお人好しがいたものね」

「よく言う。お前たちだってそうだろう?」


 いくら金を積まれた依頼だからといって、勝てない勝負にまで挑む義理はない。

 命あっての物種だ。依頼者には悪いが、見捨てて逃げるという選択肢もあったはずだ。

 義理堅い、悪く言えばただのお人好しの冒険者だ。そういうのは俺は嫌いじゃないが。


「依頼者は安全な場所に移してある。人質に取られる心配もない。好きに暴れてもいいからな?」

「はぁ……兄さん。そこまでお膳立てしてもらってなんだが、もう俺たちは体力の限界なんだ」

「ここまで八人はぶっ飛ばしてきたはずなんだけど、それでも向こうの勢いは止まらない。普通はそこまで被害が出れば逃げ帰る連中が出てきてもおかしくないのだけど……」

 

 確かに積み荷が目的なら、ここまで必要以上に追ってくる理由がない。

 やはり連中の狙いは人だ。しかし、野盗に恨まれる原因なんて何も浮かばない。

 とにかく連中の頭を捕まえて話を聞いてみる必要性がありそうだ。 


「ぐあああああああああああああ」


 前方で男の叫び声。一瞬だけ視界に焔が浮かび上がる。

 フランが誰かをやったのか。山の中でも元気に走り回っているようだ。


「……疲れたのならお前たちはそこで座って待っていてくれ。すぐに片付けてやるから」


 フランベルクを担ぐ。二人は目を点にしていた。


「片付けるって……相手はどれだけの軍勢なのかもわからないのよ!?」

「そうだ! 兄さんたちがどの程度やれるか知らないが、あまりにも危険すぎる!」


 まぁ普通はそうだろうが。

 だが相手は、所詮は人間なんだ。

 俺も妙なところで肝っ玉が据わったというか。


 それ以上に恐ろしい連中と剣を交えているからなぁ……。


「それでも――――不死の軍団よりかはマシだろう?」


 ◇


 剣を振るう。容赦なく相手を斬り捨てる。

 悪人を殺すのと、魔物を殺すのとでそこまでの差異は無い。

 そういう躊躇いは小さい頃に捨ててきた。もちろんあくまで常識の範囲内で。


 昔を思い出す。捨てられて路頭に迷って。毎日が戦場だった。

 頼る者がない子供(弱者)は、誰の目から見ても都合の良い獲物で。

 野盗相手に甘さを見せたら、良心を求めるのは愚の極みだ。それは身に染みて覚えている。


「ぐぎゃああああああああああああああ」


 血を噴き出して倒れる男を蹴り飛ばし、山の斜面に転がす。

 

「だ、大丈夫か!」

「野郎、やりやがったな!!」


 息はまだあるはず。わざと手加減した。

 負傷者一人に二人掛かりで助けに入ってくる。


「仲間意識があるのはいい。だが、そういうのは安全を確保してからの方がいいと思うぞ?」

「ぐふっ……!」

「がっ……!!」


 剣で貫いて二人の息の根を止める。

 全員を捕らえるだけの余裕は無い。何人かは減らさないと駄目だろう。

 正直、気分は最悪だし魔剣を汚すのにも躊躇いがあるが、それでも必要な処置だ。


「マスター! もっともっと敵を倒しましょう! 次はあっちです!」

「フランははしゃぎ過ぎです。剣精がマスターに命令してどうするのですか?」

「えへへ……ごめんなさい」

 

 フランもクレルも、既に何人か倒してきたのか服が汚れている。

 魔剣の、武器の仕事は命を奪う事だ。過去の戦争で使われていた彼女たちは逞しい。


「マスター。立ち止まってどうしたのです?」

「ん、まぁ……色々と考えがあってな。一度フランベルクを自分の力で操ってみたいんだ」


 野盗は個々ではそこまで強くなかった。

 訓練としてはうってつけの相手かもしれない。


 フランベルクが俺の意思に呼応して能力を抑えてくれる。

 一気に両腕に負荷が掛かった。あまりの重さに地面に落ちそうになった。


「うぐっ……! 魔剣の魔力は筋力まで及んでいるのか。これが本来の剣の重さ……!」

「……重い? フラン……重いです……?」

「いやいや。俺が運動不足なだけだから! そこまで落ち込むなって!!」

  

 今のは失言だった。剣精は魔剣そのものなのだ。

 大事に、丁重に扱ってあげないと。フランも女の子だもんな。


 いきなりすべての補助を切るのは無謀だった。

 段階を踏んでいく必要がありそうだ。限界ギリギリのところで調節する。


「カイルさん……? どうして自らそのような苦行を……? カイルさんは普通の旅人なのですから、魔剣の補助がなければまともに剣を振れないはずです。例え訓練を受けたとしても、大陸一の剣豪でもない限り魔剣を直に操るのは難しいのですから……」


 魔剣に備わっている所有者を強化する機能。

 誰でも初めてでも簡単に扱えるように身体を操ってくれている。

 俺はずっとこれに頼りっきりだった。きっと他の魔剣所有者もそうなのだろう。


「いつまでも操られてばかりじゃ情けないだろう? 少しずつ自立していこうと考えているんだ」

「なっ……そんな危険です! これからもカイルさんは私たちを頼ってくだされば、私たちはそれに全力でお応えします! 貴方が無理をしてまで強くなる必要はないのです!」

「今後、死を超越せし者のような強敵が現れたらどうするんだ? 通用しなかっただろう?」

「その時はこの身に代えてでもお守りします。マスター(貴方)の為なら壊れてしまっても構いません!」


 クレルが案の定、不服とばかりに口を出してくる。

 壊れても構わないって……随分と俺を高く評価してくれているんだな。

 もしかしたら彼女たちは、過去にそういう風に扱われていたのかもしれないが。


 残念だが今のフランベルクの所有者は俺なのだ。


「おいおい馬鹿を言うなよ。俺は魔剣に相応しいマスターになる予定なんだぞ? 自分の愛剣を粗末に扱う奴がどこにいるよ? 剣の性能に頼って己の研鑽を怠るなんてマスター失格だぞ」

「そんなことはありません。粗末に扱ってくださって結構です。これからも魔剣の性能に頼ってください。マスターに無理をさせて危険に晒してしまっては、それでは私たちが剣精失格になってしまいます!」


 クレルは過保護だな。いや心配性なのか。

 確かに魔剣の魔力に頼らない戦い方は、これまで以上に攻撃特化になってしまう。

 自動で敵の攻撃を躱していたものを、今度は自分の意思で動かないといけなくなるのだ。


 ――本来はそれが普通なんだ。


 ただ操られるだけで成長もせず。このまま魔王軍と戦えるのか?

 いや、無理だろう。この先の戦いを見据えて俺自身も鍛えないと駄目なんだ。


「クレル、わかってくれ。俺はただ剣を握っているだけの人形じゃないんだ」

「フランはマスターのやりたいことを応援しま――――」

「――――駄目!!」


 フランの応援をかき消してまでクレルは語気を荒げる。

 無意識なのか花の指輪を触りながら。どうしても譲れないらしい。


「――っ! フラン、私たちだけで全ての敵を倒します。カイルさんに戦わせてはいけません!」

「……クレルお姉ちゃん? わわ、マスタ~~~~!」

 

 これ以上は無駄だと察したのか。

 クレルはフランを連れて走り去ってしまった。


 彼女は怒ってはいない。ただ俺の身を案じてくれているだけなんだ。

 こうして誰かに心配されるという経験は乏しいから。素直に嬉しくは感じるが。

 

「……クレル、悪いが俺は俺のやり方でやらしてもらうからな」

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