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24話 襲撃

「むにゃむにゃ……」

「すぅ……すぅ……」


 俺の膝の上に小さな頭を乗っけて、涎を垂らしているフランを撫でながら朝日を拝む。


「子供はよく眠るな。……布を敷いているとはいえ地べたで背中が痛くならないんだろうか? 男と違って身体が柔らかいのかな。羨ましいぞ」


 同行している冒険者の二人が見張りをしてくれているだろうし、もう一眠りしてもいいのだが。


 まぁとにかくやる事もなく、ただぼんやりと焚火跡に枝を突っ込んで暇を持て余す。


 穏やかな時間だった。徐々に景色が鮮明になっていく。

 霧が晴れるように、ひとときの平穏を心から噛みしめている。

 一度死線を掻い潜ったからだろうか。何気ない瞬間がとても大事に思えてくる。


「……俺自身がもっと強くなる方法はないのだろうか。魔剣に頼らずとも戦える力が欲しい」


 フランが聞けば悲しむだろうが、剣精として尽くそうとしてくれる彼女には悪いが。


 あれからずっと考えていたのだ。

 俺は戦いに関してはずぶの素人だし、現状はただの魔剣の操り人形に過ぎない。

 雑魚相手ならそれでも通用したのだが、他人任せな戦い方では生き残れないのだと。


 そんな甘えは許されないのだと、前回の戦いで嫌というほど思い知った。


 死を超越せし者との戦いでは、土壇場でフランベルクが覚醒した。

 あれは俺自身が己の力で立ち上がり、剣を握ったのが鍵となっていた気がする。

 

 予想だが今までは俺を操るのに魔力の大部分を使っていたんだろう。

 その一部を肩代わりする事で、フランベルクが本来持つ炎を少し取り戻せたんだ。

 つまり、俺が操られる必要がなくなればフランベルクは真の炎帝の剣として降臨する。


「……まっ、そこまでは高望みだとしても。護身術ぐらいは学ぶべきだよなぁ」 

 

 この先、敵の罠などでフランとはぐれてしまえばそれだけで俺は窮地に陥る。

 いずれどこかで、自分の力だけで剣を振るう場面が訪れるかもしれない。

 そもそも自分の命を守るのに、いつまでも他人任せであってはいけないのだ。


 死を超越せし者は所詮は魔王軍四天王の手先にしか過ぎないのだ。

 今後はより一層、危険との隣り合わせになる。足手まといにならないようにしなければ。

 つまるところ、こう手っ取り早く強くなれる方法はないだろうか。


「誰かに頼み込んで剣を教わるか……? 王都ならもしかしたら剣術道場があるかもしれない」


 スキルが無いので門前払いになる可能性もあるが。

 道場はなによりも実績に重きを置いている。名を穢される事を嫌うのだ。 

 探せば、金さえ払えば受け入れてくれる場所もあるか。もちろんその分粗末なものになりかねないが。


「どちらにしろ俺の頑張り次第か……でもそれが選んだ道だからな。王都に着いたら探してみるか」


 最初は二人にも相談しようかと思っていたが。

 反対される事は目に見えている。自分たちが傍にいるから必要ないと。

 マスターに頼られる存在でいたい。それが剣精としての矜持なんだろう。


 フランやクレルと接していると肌で感じる。

 病的なまでの、誰かに必要とされたいという与えられた宿命。

 そこから自立したいと考えるのは酷い話なんだろうが。……これは俺の男としての矜持だ。


「……ん? 妙に風が騒がしいな。これは、二人を起こした方がいいか」

 

 森が揺れている。嫌な匂いを風が運んでくる。

 穏やかだった空気にピリッとした緊迫感という異物が混ざりだす。

 強敵と戦った経験が身体に染みついているからか。そこに確かな成長を実感する。

  

「……カイルさんも、気が付きましたか?」

「ああ、どうやらよからぬ連中が近付いてきているみたいだな」


 先に瞼を擦りながらクレルが起き上がっていた。

 相変わらず呑気に膝にへばりついているフランを揺すり起こして装備を整える。


「……ますたー。……むにゃむにゃ、これから、お仕事、ですか?」

「まだ眠いだろうに悪いな。敵が近付いてきているんだ、剣を借りるからな?」

「はい、これで涎を拭いて。もう、変な寝方をしているから髪がボサボサですよ?」

「ふらんは、お膝がよかったんです」

「はいはい。フランは甘えん坊さんなんですから」


 クレルが後ろに回って素早い手付きでフランの髪を梳かす。

 ポンポンと服のシワを伸ばしてから最後に背中を軽く押して気合を入れさせる。


「クレルお姉ちゃんありがとうです! マスター、フランは今日も元気です!」

「お待たせしました。それでは参りましょうか。きっと誰かが助けを求めているはずです」

「おう」


 ◇


 馬を留めている泉近くに戻ると、大勢の人影が揺れ動いていた。

 聞き覚えの無い声が辺りから発せられる。茂みに潜みながら様子を伺う。

 ぱっと数えただけで二十近く。髭の濃い男たちが走り回っている。


「……個人商人を襲うにしては規模が大きすぎる。一体どうなっているんだ?」


 一度の襲撃で全戦力を投じるとは考えにくい。

 スキルや魔法によって一網打尽にされる恐れもある。捉えられた人数すら一部なんだろう。

 後詰めも控えているとなると、無名の盗賊団の仕業とは思えない。


 しかしそれだと狙われる理由がわからなくなる。

 集団を動かすにはとにかくお金が掛かるもので、数が増えれば取り分の問題も出てくる。

 名の知れた盗賊団ほど獲物は慎重に選ぶものだ。それこそ個人を襲うのは無名の連中ぐらいだ。 


「カイルさん……あちらを見てください」

「あれは……御者か、腕を縄で縛られているな。よかった、命までは盗られていなかったか」

 

 気を失った男の前に四人ほど待機している。状況に応じて人質として扱うつもりなんだろう。

 まずは彼を救うところから始めるか。冒険者の二人は――仮にも護衛として同行しているんだ。

 これだけの数が相手でも多少は持ってくれるはず。……そうでないと困る。


「よし、まずは俺が斬り込むから二人は後から援護を……!」

「いえ、ここは私に任せてください。魔剣は派手ですから周囲に悟られてしまいます」


 クレルが名乗り出る。花の指輪を撫でながら俺に訴えかけてくる。

 フランではなく自分を使って欲しいと、そういうアピールにも見えた。

 妹ばかりに活躍されるのは、姉としては複雑な心境なのかもしれない。


「それもそうだな。よし、クレルに任せる!」

「クレルお姉ちゃん頑張れー!」

「は、はい。ご期待に添えてみせます!」


 明るい笑みを零しながらクレルが動き出す。

 落ち着いた印象から一変して、フランにそっくりな反応だった。

 剣精だろうと姉妹は根本的な部分で似てくるんだとわかる。

 

「ぐあっ……!」

「な、なんだ――ぐへっ」


 馬車の積み荷の陰に隠れながら、近付いたクレルが奇襲を仕掛けた。

 一瞬にして二人の男が倒れる、起き上がってくる気配がない。気を失ったか。

 

「こ、この餓鬼が――げふっ」

「つ、強いぞ……! な、仲間を――」

「遅いです」

 

 逃げようとした最後の一人の前に回り込み。

 白くすらっと伸びた足が容赦なく横っ腹に呑み込まれた。

 

「~~~~~~!!」


 声にならない声を吐きながら、悶絶した表情でひっくり返る。

 クレルは見事に人質を解放してみせた。その実力は最初から疑っていないが。

 技量に関しては、フランとはまた別格の能力を持っていた。


「いつ見ても惚れ惚れする動きだな。すべて独学なんだろう?」

「はい。これまでは女の一人旅でしたから、これも身を守る為には必要な技術ですね」


 クレルは自分の魔剣を探す旅の道中で素手で戦う術を学んできたらしい。 

 エルフの詩だけでも助かっているのに。まったく頼りになる仲間だ。


「……次は、次はフランにやらしてください!」


 クレルの活躍に嫉妬したのか、フランが俺の袖を引っ張ってくる。

 人質も助けた事だし、あとは冒険者二人の無事を確かめて逃げるだけなんだが。

 正直、敵の全貌が見えていない状況で戦うのは得策とはいえない。襲撃自体の謎も多い。


「……だが、ここで引いたら別の誰かが襲われる可能性もあるか」


 積み荷には手を付けられた痕跡が無い。

 つまりこの盗賊団は何らかの理由で人を襲っているのだ。

 ここで壊滅させておかないと、すぐに別の被害が出るかもしれない。


「大丈夫だ。次はフランの力を借りる番だからな」

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