23話 花の指輪
夜の帳が下りて、小動物たちが寝静まる頃。
パチパチと音を鳴らす焚火の前で、
俺たちはゆったりとした時間を過ごしていた。
ラックとカミアは別の場所で見張りをしている。
護衛任務の冒険者は忙しいな。旅人は本当に気楽だ。
「小鳥さんです。こっちはクレルお姉ちゃん!」
フランは明るい地面に枝で線を引いて絵を描く。
簡略化された人形のような女性は、両手を重ねて天に祈っている。
背中には魔剣を背負っていて、
見覚えのない聖職者のような恰好をしていた。過去のクレルか?
こうして見るとまるで聖女みたいだな。
「フランは絵が上手ですね。とてもよくできています」
「一人で迷子だった時は、ちょっとずつ思い出しながら描いてました」
「寂しい思いをさせてしまったのね。ごめんなさい」
クレルの膝の上に座り見守られながら。フランは黙々と続きを掘っていく。
今度は地面に彼女自身が現れる。
少しだけ今より成長していて、これは将来の願望か?
随分と胸が盛られていた。
クレルのような女性らしさに憧れているのかもしれない。
「……ところで俺の事は描いてくれないのか?」
「マスターは……難しいです。今日は描かないです」
「な、なんだと……!」
断られるとは思わなかった。ちょっと寂しい。
「フランは、カイルさんには一番良いものを見せたいのよね?」
「ですです! 今度いっぱい練習します! いっぱい喜んで欲しいです!」
「くうぅっ……!」
駄目だ。悶え死ぬ。
フランが健気過ぎて俺の身が持たない。
だが彼女の理想を崩さないように我慢して男らしくあらねば。
「ふふっ、これはカイルさんも何かお返しをしないといけませんね?」
「そ、そんな! フランはお返しなんていらないです! そんな我儘な子じゃないです!」
「甲斐性を見せたいと思うのが大人の男性なのです。恥を掻かせてはいけませんよ?」
クレルが意味深な視線を送ってくる。
やれやれと俺は懐から用意していた物を差し出す。
「わぁ! お花の指輪です! とっても綺麗です。マスター、これは一体?」
「これはまぁ、俺の趣味みたいなものだな。普段から薬草採取をしていると、珍しい品種の花を見つけることがあってな。この地方に伝わる不幸から身代わりになってくれるお守りのような物だ。枯れないように専用の魔法道具を使ってあるんだ」
作るの自体は簡単だが。
昔と違って材料となる花が激減していた。
この前ダンジョンに入った時に、
偶然見つけたものを馬車の中で暇潰しに加工していたんだ。
二人にばれないようにこっそりやっていたんだが。クレルに気付かれていたか。
「カイルさん、一人分多くありませんか?」
「そりゃクレルの分も作ったからだよ。ほらっ、手を貸せ」
「わ、私はカイルさんの魔剣では……!」
「何を言っているんだ。仲間外れにする訳ないだろう」
手を掴んで人差し指に入れる。サイズは目測だったが問題ないな。
放すとクレルは逃げるように手を胸において恥ずかしそうにしていた。
「ご、強引です……」
「こうでもしないと受け取ってくれないだろう?」
「わーい! クレルお姉ちゃんとお揃いです!」
「こ、こういうのは初めてで……どんな顔をすれば……」
「贈り物ぐらいたくさん貰っているんじゃないのか?」
「……剣精の仕事は戦う事ですから」
昔から人に仕えていて贈り物を受け取るのは初めてか。
数百年前は戦乱の時代だったのかもしれないが。寂しい話だ。
「……俺に捕まったのが運の尽きだな。俺は剣精を戦う道具として見ていない。友人としてみている。これからも贈り物は渡すし、嫌だと言ってもくだらない事にも付き合って貰うからな。……残念だったな?」
「カイルさんと一緒にいると、自分の役目を忘れてしまいそうです」
「別にそれでいいだろ。深く考えなくていいんだよ」
時々、クレルの歌声を聴いていると。
無性に一人にしてはいけないという気持ちにさせられる。
記憶を失っていたフランと違って、彼女はずっと孤独だったのだ。
見捨てられてしまっても尚。剣精として尽くそうとする。
それが造られた感情だったとしても。俺はそれに報いたいと思う。
寂しいじゃないか。頑張っているのに。誰にも褒められないなんて。
俺だって、誰かに認めて貰いたくて頑張ってる節があるからな。
「クレルだってご褒美を貰う資格はあるんだ。流石に、金銀財宝に劣るかもしれんが」
「……そんな事はありません。……ずっと大事にします」
確かに強引だったのかもしれないが。
光に照らした指輪をじっと見つめるクレルの姿を見ていると。
作った甲斐はあったかなと思えた。




