2話 魔剣の力
「……なぁ、おっさん。一つ訪ねたい事がある」
「突然どうした。金は貸さんぞ?」
いつもの酒場。いつもの座席。つるつる頭。
おっさんが憎まれ口を叩きながらも酒を置いてくれる。
だが今回はそれには手をつけず、俺は話を続ける。
「仮に俺に異性の友人が出来たとしよう」
「ん? お前、頭は大丈夫か? ちゃんと宿で寝たのか?」
「いや、昨日は野宿だ。あまり眠れていない」
「……薬草を採りに行ったんじゃなかったのか。採取のプロだろ。珍しいな、不作か?」
おっさんの言う通り、
俺は薬草を集め一日分の宿代は稼いだ。言い換えれば一人分である。
あれから剣精であるフランは魔剣に戻らず俺の後ろについて来た。
そして宿に辿り着いた時点でおばちゃんに言われたのだ、『二名様ですね』と。
剣精は数に入れないでくれ。
と、フランの前で頼めるはずもなく、俺は一人悲しく野宿した。
――――この話はどうでもいい。
「それで本題だが。俺に友人が出来たとして、これくらいの大きさの女の子だったとしよう」
俺はわかりやすいように、子供用の小さな椅子を二つ重ねる。
「お前に紹介したら、どう思う?」
「近くの兵士に通報する」
「そうか……そうだよな」
少し期待していたのだが、やはり見た目年齢の壁は大きい。
フランを友人と呼ぶのは厳しそうだ。
というよりマスターと呼ばれている時点で壁はあったな。
「お前……トチ狂って犯罪に手を染めていないだろうな……?」
おっさんは本気で兵士に通報しそうな怖い顔をしていた。
俺との付き合いもそこそこ長い癖に、
いざとなったら平気で切り捨ててくるぞコイツ。
「マスター! どうして私だけを宿に泊めたのですか!!」
後ろからタイミング悪く、
フランベルクを抱えたフランがペタペタと素足で走り寄って来た。
宿から酒場までそれなりの距離があるし、
そもそも行き先を伝えていなかったのだが。
さすが、死ぬまで付き纏ってくると噂の剣精だ。鼻が利く。
「おい、誰か兵士を呼べ、人攫い――――」
「それ以上はよせ!」
おっさんの口を塞ぎ、俺は誤解を解く。
フランとの出会いを詳細に話すと、おっさんは態度を急変させた。
「やぁやぁカイルくん。お酒もう一杯飲むかい? サービスしとくよ」
「急に態度を変えやがって。お前は現金な奴だな……」
「お前は一攫千金を手にしたのも同然なんだ。もっと喜べよ。売らなくても魔剣の力を借りればギルドで活躍できるだろ? 万年Gランクから一気に飛躍できるチャンスじゃないか!」
「そうなんだけどよ……。別に上位ランクを目指している訳じゃないしなぁ……」
いくらSSS級の魔剣を手にしたところで持ち主が俺じゃな。
そりゃ王族なんかに売れば遊んで暮らせるほどの大金は手に入るだろう。
だがフランはじっと俺を見つめてくるのだ。
俺を守っているつもりらしい……くっ、良心が痛む。
「まぁ冗談はさておき。それが本当に魔剣だとすれば今後は下手に外へ出すなよ? お前みたいな人間が本来持つべき物じゃないんだ。噂が広がれば、よからぬ連中に目を付けられる。ただでさえお前は最底辺の雑魚として有名なんだ。カモられるぞ」
おっさんが真面目なトーンで助言してくれる。
その通りだ。だからこそ宿に置いて来たのだが……仕方がない。
「マスターごめんなさい。怪しい人たちがついて来ています。狙いはこの剣です!」
「――――よし、逃げるぞ。急げ!」
「……死なない程度に頑張れ。幸運を祈ってるぞ」
◇
「おうカイル、いいもん持ってるじゃないか!」
酒場を出ていきなり男に絡まれる。その容姿に見覚えがあった。
昔、俺がパーティに誘った時に顔面を蹴りつけてきた男だ。
確か名前はリーカス、俺より二つ高いEランク。
「薄汚いお前には似つかわしくねぇな?」
「どうせ拾い物か盗品だろ? 俺たちが返してやるよ、ありがたく思え」
次々と集まってくるのは、揃いも揃ってEランクの連中だ。
いつまでも低ランクで燻っている人間は、人格が酷いとよく聞くが頷ける。
「悪いがこの剣は俺の物じゃない。この少女の物だ!」
「マスター!?」
フランが見捨てられた子犬のような顔で俺を見上げている。
だが安心しろ、本当に見捨てた訳じゃない。コイツらは俺を強請に来ただけだ。
魔剣が少女の物だとわかれば潔く諦める……と思う。
こんな小さな子を脅迫するほど、コイツらも人間性が壊れていな――
「おい、ガキ。その剣を渡せ!!」
――駄目だコイツら。
少しでも信じた俺が悪かった。
「フラン、こっちだ!」
「マスター! 信じていました!!」
彼女の手を引いて街中へと走りだす。
おっさんの酒場は中心部から離れた人通りの少ない穴場にある。
ここから大通りまで逃げ切れれば、奴らも強引に攻められないはず。
「逃がすか! 【疾走】」
「うおっ、はやっ!?」
一瞬にして男たちに回り込まれた。クソッ、スキルを使われた。
Eランクとはいえ全員スキル持ち。
一般人に毛の生えた程度の俺の脚力で逃げ切れるはずがない。
「マスターが危ない! 突貫します!!」
フランはそう叫ぶと、俺の手を振り払って回り込んできた男にぶつかる。
「ぐほぉああああああああああああああああ!?」
男は錐揉み回転しながら、正面の店舗に頭から突っ込んだ。
一部始終を見ていた他の連中の顔が一気に青くなる。
ちなみに俺もびびっていた。【剛力】ってそんなに強いのか。
「な、なんだあのガキは……!? り、リーカスさんがやられた!?」
早々に頭がやられて、連中に動揺が走っている。
そしてフランがその隙に、俺に魔剣を差し出してきた。
「マスター! 道は私が切り開きました。後はマスター自らの手で引導を!」
「いや、俺は別に戦うつもりは……見ろ、アイツらもう戦意喪失してるぞ……?」
「マスター!」
目を輝かせながら俺の名を呼ぶフラン。
剣精は自身の本体である魔剣を、
持ち主に使われる事に至高の喜びを感じる……変わった生き物だ。
この絶好の機会に使ってもらおうと必死だった。
「……仕方がない。ちょっとだけ、一振りだけだぞ?」
「是非、是非に!」
元気に首を縦に振るフランから魔剣を受け取る。
――熱い。
全身に炎を纏っているみたいだ。
それに剣を構えるのは初めてだったはずなのに、
俺の手に不思議と収まっている。重みは感じない。
「おい、お前たち。この剣の錆にされたくなければ、二度と俺の前に現れるんじゃないぞ!」
俺が魔剣を掲げ男たちを脅しつけると、連中は急に指を向けて笑い出した。
「ぎゃはははは、お前が剣を扱える訳ねぇだろ! ガキはともかくお前なんか怖くねぇよ!!」
「そうだそうだ。寧ろ俺たちにとって都合がいいぜ!!」
水を得た魚のように元気になった連中が一斉に襲い掛かって来た。……酷い。
「マスター! 早く振ってください!!」
「くそっ、もうどうにでもなれ!!」
突っ込んで来る男たちに向かって、俺はフランベルクを縦に振るう。
適当に空を切った魔剣は、
突如、意思を持ったかのように光輝き――動き出した。
「うおおおおおおおおおおおおおお!?」
身体が自然と浮かび上がる。
「な、何だと!?」
「か、カイルの野郎何をしやがった!?」
刹那の攻防。
二人の男が持っていた剣が宙を舞っていた。
俺の身体が自動で動いている。まるでスキルを使っている人間の動きだ。
今まで見ているしかできなかった俺が、【疾走】と同じ土俵で戦っている。
「ば、馬鹿な!? あ、あり得ない。万年Gランクのカイルなんかに俺が!?」
絶望に打ちひしがれている男の背中が燃えていた。
更にもう一人の男の装備にも火が。燃える、熱く燃えている。
これが――――フランベルクの生み出す炎獄の効果か。
「ぎゃああああああああ!? み、みずううううううううううう!!」
泣き叫びながら走り去っていく男たちを見送り、
俺は清々しい気分で立っていた。全部魔剣がやってくれた。
魔剣によって生み出された炎はそう簡単に消えないと聞く。
精々お尻がなくならないよう頑張れよ。Eランクの冒険者さん。




