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16話 失われし遺産

「早速だが話を聞かせて欲しい。この街は一体どうなっているんだ? 明らかに普通じゃないぞ」


 通された部屋は床がボロボロに崩れ。

 天井は蜘蛛の巣に覆われ、家具には埃が被っていた。


 何処からか鼻にくる刺激臭が漂っている。

 何かが腐っているのか。吐き気がしてくる。


 建物の外観は普通だったのに、

 中はまるで数年以上放置されたかのような光景だった。


「ここに来るまでに町民から食べ物を勧められませんでしたか? まさか口にしていませんか?」


 神妙な顔つきでベールが俺に質問してくる。


「ああ、知らない人からの食べ物は受け取らないに限る。見るからに怪しかったし」


「賢明な判断です。彼らが差しだす食べ物には呪いが掛けられています。口にすれば彼らと同じ生きた屍となっていたでしょう」


「げっ、そうなのか……命拾いした」


「お腹が空いてなくてよかったです……」


 直感を信じて助かった。

 ベールに勧められ椅子に座る。

 お尻を乗せるとミシミシと音が鳴った。壊れそうで怖い。


「ハーミルは昔から遺跡の発掘に力を入れていました。ちょうど街の裏手に大規模な戦場の跡地がありまして。そこから採掘された道具を売り捌く事で、ハーミルは発展していったのです」


「なるほど。失われし遺産(アーティファクト)ですか……」


 クレルが頷く、俺も話で聞いた事がある。

 現在では再現不能な太古の魔法が込められた道具。

 

 遺跡から見つかるのは兵器類が多いらしい。

 どれだけ集められるかが国の沽券に大きく関わる。

 

 魔剣もある意味、失われし遺産の一部と言っていいだろう。


「今から五年ほど前に一つの失われし遺産が発掘されました。杖のようなもので、大変価値がある品だと町長も喜んでいました。ですが、それからしばらくした後に、町長の様子が急変したのです。突然笑いだしたり。かと思えば怖い顔で独り言を呟くようになったり……」


 大金を手にして性格が急変する人間は多くいるが。


 元々裕福な土地で多くの利を生み出す源泉がある中。

 今さら一つの遺産で気が触れるとは思えない。 


「不審に思った住人たちが町長の屋敷に詰め掛けたのですが。彼らも町長と同じようにおかしくなって……それから街に霧が立ち込めるようになり、今のような状態に」


「その発掘された杖に原因がありそうですね。失われし遺産は用途によっては恐ろしい副作用を持つ道具もありますから。……ところで話は変わりますが、他に何か発掘されませんでしたか? 例えば剣のような武器とかが……」


「剣、ですか。――そういえばその後に古びた武器を見つけたと……聞いた覚えがあります。錆び付いていて歴史的価値はあるが、使い物にならないと保管されていたような……?」


「クレル、もしかしてそれは……!」


「はい。オートクレールかもしれません。長らく手元を離れていたので、輝きを失ってしまったのでしょう。もう一度この手で触れられさえすれば元に戻るはずです」


「お姉ちゃん、その剣はどこにあるですか?」


「杖と一緒に町長の自宅に……。ですが近付くのは危険です。皆さんも彼らのように呪いに掛けられてしまいます」


 探し物の手掛かりは見つかったが、大きな難題が残されている。

 目に見えない呪いが相手じゃ魔剣の力も通用しない。これは打つ手無しか。


「……方法はあります。エルフ族には呪いから身を護る術、浄化の詩がありますから。それを使って呪いを生み出す元凶の杖を破壊しましょう。街の平穏と魔剣を取り戻すのです」


「そうか、クレルにはエルフの能力があるんだよな」


「ですが奏でている間は私は無防備に……カイルさんに護衛をお願いしたいのですが」


「おう……そうか。重大な役目だな……!」


「フランもお手伝いします!」


 これからの方針は決まった。

 あとは実行のタイミングだが。夜中に忍び込むにも霧が厄介だ。

 ここは朝方に攻め込むしかないだろう。できれば少しでも休んでおきたい。

 

「皆さんにも事情があるみたいですが、もう時間も遅いですし。今日のところは泊まっていってください。連中はきっと貴方たちを血眼になって探しているはずです。私は仲間だと思われているので……。この家にいる間は安全ですから」


「助かる。相手は武器を持たない町民だからな。呪いに操られているとすれば実力行使は避けたい」


「お姉ちゃんありがとうです!」


 ベールがいなければ途方に暮れていただろう。彼女には感謝しないといけない。

 

「そうだ、明日俺たちの用が済んだら君も一緒にこの街を出よう。便りが無いってロクが心配していたんだ。アイツ絶対君に惚れているぞ……あっ、今のは聞かなかった事にしてくれ。怒られるから」


「……そうですか。あの子が。まだ私の事を覚えてくれていたんですね」


 見間違いか。一瞬だけ彼女は悲しそうな瞳をしていた。

 どうしてそんな顔をするんだ。年下に慕われるなんて本来、嬉しい事だろう。


「すみません。ここは亡き両親と共に過ごした思い出の地。私一人で逃げ出す訳にはいかないのです」


「気持ちはわかる。だが命より大切な物があるのか? 別の土地でも新しい思い出は作れるはずだ」


「……あります。何よりも大切な物が。それを守る為なら私は命だって惜しくありません」


「そうか」


 これ以上、何を言っても彼女の決意は揺らがない。


「……夕食をご用意しますので是非、ここで英気を養ってください」


「そこまでしてもらわなくてもいいぞ。匿ってくれるだけ十分だ」


「街を救ってくれると仰っているんです。私にもそのお手伝いをさせてください」


 ベールは台所の方に移動する。 

 そこはまだ使われた形跡があり、綺麗に掃除されていた。


「カイルさん、どう思われます?」


「……訳ありだろうが、救える者は救いたい。杖を破壊したとして果たして呪いが解けるかどうかもあやしい。こんな所に一人で置いていく訳にもいかないだろう」


「そうですね。私もカイルさんの意見に賛成します。いざとなったら私の詩で眠らせましょう」


「エルフの能力は便利だな……」


「ではでは、フランがお姉ちゃんを運びます!」


 数少ない友人のロクとの約束だ。

 彼女には無事を知らせる手紙を送ってもらわないといけない。 

 その為なら多少強引にでも連れ出す。たとえ恨まれる結果になったとしても。


 ……俺はきっと本物の正義の味方にはなれないんだろうな。


「どうぞお召し上がりください。お口に合うかわかりませんが……」


 机の上に並べられたのは一般的な家庭料理だ。

 視線を感じた。もしかして味の感想が気になるのだろうか。

 

 フランはもぐもぐと頬張っている。

 俺も早く眠りたいので胃袋の中に放り込んでいく。


「……ッ! 駄目ですカイルさん! その料理に手を付けては……!!」


 クレルが慌てて机を倒し、料理を床に叩きつける。

 だが俺とフランはすでに口に含んでいた。甘く刺激的な味だった。

 目の前が霞んでいく、眠り薬か……? 何故だ、どうして彼女が……。


「マスター……なんだか……フランは……眠いです」


「…………まじか……よ。どう……してだ」


 薄れゆく意識の中で俺が最後に見たのは。

 張り付いた笑顔を浮かべるベールの姿だった。 

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