12話 小鳥に導かれて
昨晩は村を挙げて盛大なパーティが開かれた。
それは大きな街での催しと比べれば質素ではあるが。
人々の熱意、気持ちは負けていなかった。
俺たちは大いに食べ、大いに語らい。英気を養った。
宿に泊まった後も、
ロクが冒険譚を求めてくるものだから、眠らせてもらえなかった。
そして別れの朝がやってくる。
暖かな日差しの下。俺とフランは村の人たちに囲まれていた。
重たい荷物を背負い、
寝惚けまなこを擦りながら。ロクたちに旅立ちの挨拶をする。
「兄ちゃん、ありがとう。オレ、大きくなったら兄ちゃんみたいなカッコいい旅人になる!」
「もっと安定した職業を選んだ方が、かあちゃんが喜ぶぞ? まぁ、男の子は冒険したいもんな」
底辺の俺なんかを目指しても良い事なんてないぞ、とは言わない。
未来ある子供の夢を壊さないようにするのも大人の役目だ。
その為なら道化になるのも悪くない。正義の味方はもう少し延長だ。
「美味しいご飯を、ありがとうございました!」
パーティでは村の名産品をたくさん味わった。
タケノコだけじゃなく狩猟で手に入った鹿や熊の肉も。
背負う荷物が多いのは保存の効く食料を分けてもらったからだ。
「カイルさん。またこの村に遊びに来てくださいね。私たちはいつでも歓迎いたしますから」
眼帯をつけたロクのかあちゃんは、そう言って両手を広げ一つの首飾りを出す。
そのまま俺の方に差し出してきた。
一瞬、理解ができずに俺は首を横に振るう。
「……それは大事なお守りじゃなかったのか? それを取り戻す為にロクは――」
危ない橋を渡ってまで取り返そうとした宝物なのだ。
「コレは確かに、うちの旦那が遺した大切な物ですが。ですが、今の私にはもっと大切な者がありますから……」
「いひひ。兄ちゃんに似合うと思うよ」
ロクが嬉しそうに笑っている。
俺には両親はいない。だけどそれがどういう意味かはわかる。
丁重に受け取り。首飾りを身に着ける。上品な金の装飾が施された一品だ。
よく見ると先端の尖った部分が、鍵に似た形状をしていた。
「オレのとうちゃん、昔は冒険者だったんだ! その首飾りも何処かで拾ってきたんだって!」
「現役を退き、晩年はその鍵の使い道を調べていたのですが。最期まで手掛かりは掴めずに……。旅人である貴方が持っていた方が、もしかしたら意味があるのかもしれません。その方があの人も、喜ぶでしょうから……」
「そうか。それなら大切な意志を俺が引き継ごう。謎が解けたら報告すればいいんだな?」
その答えに満足したのか、二人が静かに頷く。
「兄ちゃん。この先にあるハーミルって街には、仲の良いベール姉ちゃんがいるんだ。オレの名前を出せばきっとよくしてくれるはずだよ!」
「ほーう。ロクはその姉ちゃんの事が好きなのか?」
「……ち、違うよ。ただ最近便りがないから、倒れてないか心配しているだけだよ!」
わかりやすい反応をありがとう。
ハーミルは王都までの道中で立ち寄る予定だった。
知り合いの伝手があるのなら。
ありがたく使わせてもらおう。金は有限だからな。
「ああ、必ずロクが心配していたと伝えておこう」
「オレじゃなくて、かあちゃんが。だからっ!」
「そういう事にしておいてやる。――ん、じゃあな!」
軽く少年の頭を押して背中を向ける。
「兄ちゃん、ありがとおおおおおおおおおお!」
「また来てくださいね!!」
「アンタは今まで出会った中で、一番最高の旅人だったぜ!!」
「また泊まりに来なよお!!」
気持ちのいい別れの言葉を受けて、片手を上げる。
「あばよっ」
「お世話になりましたー!」
最初に街を出てきた時よりも、大きな荷物を背負って。
たくさんの人たちに見送られながら俺とフランは旅を再開した。
◇
「……慣れない事はするもんじゃないな。あんなに褒められるの初めてだし。……心臓がいてぇ」
正義の味方ってやつも随分と肩が凝る。
やっぱり俺は臆病者のままの方が自分らしい。
人に期待を掛けられるのは、もちろん嫌いじゃないが。
その期待を裏切った時の反応が怖いから。
自分の力にはまだ自信が持てない。魔剣に頼りっきりだしな。
俺の持つ、俺だけの確かな力でもあれば変われるのかもしれないが……。
「フランは大満足でした! マスターに使われて。お腹も膨れて幸せです」
「小さな幸せを見つけるのが上手いな、フランは」
「えへへ。褒められちゃいました」
照れ笑いをするフランに癒されながら。
歩みを進めていく。この先は危険の少ない道のりになるだろう。
他の旅人や馬車も行き交う王道を通るからな。
――――ぴよぴよ
「あっ小鳥さんです!」
「……アイツも謎が多いんだよなぁ」
あの小鳥には、ロクを人質にされた時に助けてもらった恩があるのだが。
どう考えても野生の動物の行動ではなかった。誰かに飼い慣らされている。
一応、フランに聞いたのだが本人も懐かれている理由がわかってないらしい。
小鳥が先導して前を進んでいる。
時折、動きを止めてこちらを振り向いたりする。
もしかして、俺たちを導いているのだろうか? 興味が湧いてきた。
「よし、まずは寄り道してあの小鳥を追ってみるか! どうせこの先も長いしな!」
「フランはどこまでもマスターにお供します!」




