10話 猛獣使い
「ぐぼあああ!? な、何故だ、Gランクの癖に、どうしてこんなに強くなってんだ!?」
「お前はスキルを持っていないはずだ。魔法か!? そこのガキが何かしているんだろ!」
「卑怯者め! 武器を捨てて正々堂々掛かってこいよ!!」
馬鹿どもが何かをほざいている。
「……お前らがそれを言うのか。卑怯者はどっちだよ。冒険者の誇りを失った屑が」
フランベルクの魔力によって向上した俺の身体は、
悪党Eランク冒険者に鋼の鉄槌を与える。
リーカスは頬を押さえていた。
そこそこ顔が良い男の歯が欠けている。
取り巻きを合わせても誰も今の俺には敵わない。
所詮、群れたところでミノタウロス以下だ。
「兄ちゃん! アイツが付けているお守りが!」
「おい、リーカス。それはこの子のかあちゃんの宝物だ。返しやがれ!!」
リーカスの首元にある値打ちがありそうな綺麗な首飾り。
まだ手放していなかったのは幸いだ。だが、リーカスは受け渡しを拒み続ける。
愚かな馬鹿は、頑なに現実を直視しようとはしなかった。
「み、認めるか……! これは何かの間違いだ。魔法はいつまでも続かない。そのうち絶対に化けの皮が剥がれるはずだ!!」
「り、リーカスさん、そろそろ親分が戻って来る頃です」
「そ、そうか! 親分ならこんな雑魚一瞬だ!!」
リーカスたちに勢いが戻ってくる。
「親分……? まだ仲間がいるのか」
直後に人の気配。入り口のドアが開かれる。
むさ苦しい男のドスの利いた声がダンジョン内を反響した。
「なんだなんだァ!? オデの可愛い子分どもを虐めるのはお前かァ!?」
二メートルはあるだろうか。魔物と見間違えそうになるほどデカい図体だ。
ミノタウロス並みの筋肉と、その大木のような腕には皮の鞭が握られている。
「げっ、ちょっと強そうじゃないか……!」
「兄ちゃん頑張れ! 悪党なんかに負けるなあ!!」
「マスターなら大丈夫です!」
「……ああ、悪は許さん。俺の手で必ず成敗してくれる!」
ちびっ子たちの声援を受けて。
恐怖心を飲み込み、一日だけの正義の味方を演じていく。
「親分! やっちまってください!! 相手は所詮Gランク。親分なら問題ありません!」
「なんたって親分はDランクだからな!!」
「今さら命乞いをしても遅いぜ。お前たちは全員魔物の餌になるんだ!!」
小物に成り下がったリーカスたちは、鼻血を流しながら親分の背中に隠れる。
安全圏から罵声を飛ばしている。うわぁ……情けない。
『グルルルルルルルルルルル』
外から獣が侵入してきた。
親分の前で座ると指示を待っている。
「オデの可愛い獣たちが相手をしてやル。ほぉら、旨そうな餌だゾ」
「いやいや、お前が戦うんじゃないのかよ……その逞しい筋肉は飾りか?」
【調教師】のスキルを持つのはこの大男だったのか。
親分が使役しているのは獣型の魔物であるレッドウルフだ。
Eランク帯の魔物で、ほぼ大陸全土に生息する繁殖力の高い獣だ。
「やっと適正ランクに近い魔物と出会えたか。……ドラゴンを倒した俺に果たして通用するかな?」
「はっ、ドラゴンを倒しただァ!? お前みたいなひょろ細い男にオデの――ホゲエエエ!?」
親分は絶句していた。俺は背中を向けている。
奴の可愛いペットである獣は全員意識を手放した。
その間僅か一秒。魔剣の使い方に徐々に慣れてきたぞ。
「ん、これで終わりか?」
「うおおおおお!! 兄ちゃんかっけぇ!! 全然見えなかった!!」
「あぁ……マスターにたくさん使われて今日は幸せです」
ちびっ子たちは俺の活躍具合に大はしゃぎだ。
いやぁ照れるな。もっとカッコいいポーズを研究した方がいいかな。
って、いかんいかん。
こんな無茶をするのは今日だけだ。これ以上調子に乗らない方が良い。
「オデの、オデの獣を傷付けたなぁ!? もうおしめぇだァ!! オデを怒らせたんだからなァ!」
「村の人たちはもっと傷付いたんだぞ。……次こそはお前が戦うのか?」
「次はオデが大金を出して手に入れたとっておきの魔物だァ。もう泣いても許さないゾ!」
「いや、だからその筋肉は何に使うんだよ」
鞭を振るい大きく手を上げた親分が叫ぶ。
一体何が出てくるんだ? まさかドラゴンより強い魔物なんてそうそう――
「さぁ、いデよ、オデの可愛いしもべ――――ミノタウロス!!」
………………………………
しばらく無言の時間が続いた。待てども待てども何も出てこない。
「あデ? ……隠れてないで出て来ィ!! おーい。飯の時間だゾ!」
「お、親分……?」
「あ、あれ? おかしいな、昨日まではいた気がするんだが?」
後ろのリーカスたちも戸惑っている。なるほど。そういう事だったのか。
こんな所にCランクの魔物がいるのはおかしいと思っていたが。
コイツらの切り札だったのか。
「あっ、ごめん。ミノタウロスはもう俺が倒したぞ?」




