闇の中の真実を探して~第16話~
敢えて記載せず。次回投稿をお楽しみに…。
「編成とは打合せはすんだか?紙面の割り当ては?」「完了しています。部長」「では頼む。俺も総轄記事を仕上げる。」内田はそれだけ指示し、部長室に戻った。上杉はそれを見て退室した。
政治部の記者は管理職以外は全員が記事を仕上げていた。新聞記者と言うのは、驚くほど書くは早い。作家は文章をひねり出す作業があるが、記者は客観的事実を書くのか原則。定型した原則がいくつが存在するのである。締め切りに追われる毎日の中で、自然に身につく、新聞記者特有の習性であり、一年もすれば、大半の人間は、自ずから身につくのであった。
内田はペンを握った。
総理大臣経験者の逮捕、それも総理大臣在任中の収賄容疑での逮捕。無論我が国憲政史上初の出来事である。この事により国民の中に政治不信が高まるのは必至であり、発足僅か半年余りの木村内閣は最大の危機に直面した形である。
今回の地検特捜部の政治家三名の逮捕。行きなりの頂上突破は異例中の異例である。贈賄側のvictory社の関係者は本日1名も逮捕されていないばかりか、指名手配されていないのである。贈賄側のの関係者はすべて日本の代理店の商社、若しくは政商の異名をもつvictory社の日本の窓口とされる人物である。
贈収賄事件とは金銭の受け渡しがあるのが大前提。金を出して便宜供与を受け利益得る者が贈賄側、便宜を与える者が収賄側であるのが常識である。
多国籍企業victory社の本社はアメリカ合衆国にある。そのアメリカの下院は特別委員会として東アジア小委員会を設置し公聴会を開くと発表した。三名の政治家逮捕の当日にである。これを偶然の一致と見る事は極めて不自然と見るのか妥当であろう。
事件の真相は闇の中に包まれたままである。地検特捜部は捜査に着手したばかりだ。しかし会見した検事総長は立件に強い自信を滲ませ、如何なる悪もこれを見逃さずと言い切った。
贈賄資金を提供したvictory社の関係者の聴取すら済んでいない段階にである。日米間には犯罪人引き渡し条約が存在するが、victory社の関係者の聴取をしない段階で贈賄罪で果して引き渡し要求が出来るかは疑問である。
またアメリカには日本には存在しない独特の司法取引の制度が存在するする。
アメリカ司法当局が仮にvictory社の関係者との間に何らの司法取引をし、victory社の関係者がアメリカ下院東アジア小の公聴会に出席証言した場合には、日米間に犯罪人引き渡し条約が存在してもアメリカ司法当局がそれに応ずるかどうかは疑問である。それ以前に日本の検察がアメリカ司法当局が司法取引を与えた人物に事情聴取が出来るのかどうかも疑問である。
いずれにしても前例前例のない事件である事は確かであり、今後の捜査の行方を注目したい。
野党各党は、こぞって衆議院の解散総選挙や木村内閣の退陣要求で足並みを揃えた形だ。衆議院の任期満了は一年余りである。今後の政局に目が離せない。政局は益々混迷の度を深める事が今後予想される。(政治部長内田雅也)
内田は記事を書き終え眼鏡を外しハンカチで顔を拭った。彼の中には満足感より空しさが残っていた。
敢えて記載せず。次回投稿をお楽しみに…。