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おわりに

 シロネブリ、という魔物がいる。

 見た目は大人の手のひらにちょうど乗るほどの大きさをしたやや黄ばんだ薄汚い白色の毛玉であり、毛を掻き分けると黒色の小さな複眼が二つ付いている。口は体の下部にあるが、摘み上げると閉じてしまい毛にまぎれて良く見えない。

 シロネブリが人を襲うことは無い。というのも、彼らの主食は死者の骨であり、腐肉食のワームなどと同様の掃除屋(スカベンジャー)に分類されるタイプの魔物だからだ。

 残念ながら近年は同じく掃除屋であるスライムに押され気味で、生息域を縮小しつつある。私が若いころは遺跡で盗掘者の白骨死体に群がる姿をよく見かけたものだが、肉や骨どころか衣類や皮鎧まで消化してしまう上に、めったやたらと分裂する繁殖力の高いスライムが相手では、生存競争に負けてしまうのも仕方の無いことだろう。


 さて、今現在私の部屋の中には六匹のシロネブリがいる。

 これらは随分前に観察してみようと捕獲してきた一匹のシロネブリから増えたもので、この内の四匹は大きさ毛の色ともにごくごく一般的なシロネブリの個体だが、一匹はとある魔物の骨だけを与えて育てた成果として紺色の毛に覆われており、残る一匹は妙な突然変異を起こしたらしく他と比べて毛が長い。

 シロネブリは骨を食べることは知られているが、それ以外の詳しい生態に関しては実のところ驚くほど情報が少なかった。そのため観察を始めてからはその意外な行動に何度も驚かされ、時に焦り時に悩まされる、そんな変化に富んだ毎日を過ごすことができた。

 人にとって毒にも薬にもならず関心をもたれることのなかったシロネブリ。しかし、先日知人から、骨を食べるシロネブリの性質を利用できないだろうかと話を持ちかけられた。

 十数年前にスライムの安全な飼育方法がある魔物研究家によって発表されてから、魔物の解体を営む業者などではその多くが廃棄部位の処理にスライムを利用している。ところが最近になって、たっぷりと餌を与えられてきたスライムが着々とその数を増やし続けた結果、面倒を見きれなくなったり脱走されたりする例が増えているそうだ。そのためスライムの代替となる処理方法を探す必要があるのだという。

 大型の魔物などは当然骨も大きくかさばり易い。以前は砕いて埋めていたそうだが、労力も手間もかなりのものだったようだ。それを魔物の手によって補えるなら是非そうしたい、とのことだった。

 まだ計画とも言えない段階でありうまくいくかも定かではない。だが、自然界でスライムによって姿を消しつつあるシロネブリが、人の営みの中でスライムの居場所をのっとるというのは個人的に心惹かれるものがある。シロネブリを長年飼育し観察してきた変わり者として、これからは少しばかり忙しくなりそうだ。


 そんなわけで、気まぐれで始めたこの観察記録はここで一旦筆をおくこととする。

 私が何をしていようと、シロネブリのマイペースさは変わらない。これからもきっとわけの分からない姿と行動で、日々に発見と楽しみをもたらし続けてくれるだろう。

「シロネブリ観察記録」はこれにて終了です。

最後に一話おまけを投稿し完結とさせていただきます。

読んでくださった皆様に感謝を!

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