第3話 「人工生命体」
人為的に作られた人間か……。
装置の中、少女は胎児のように丸くなって溶液の中で浮かんでいる。
「起こせる? 起こしてみる?」
「方法はこっちの紙に書いてあるが……。
何年も放置されている状態だしな」
そもそも完成してるのか? 何故放置されていたのか?
疑問が浮かぶ。
これは起こしてもいいものなのか?
「やり方書いてあるの? 見して見して!」
マオはそう言うと俺から紙を取り上げ機械を操作し始める。
「ちょと、勝手にいじったら!」
「大丈夫、大丈夫。私説明書読んで失敗したことないし」
たしかに彼女はそれが銃の扱いでもこなしてみせた天才肌。
幼少期から優れたセンスを周囲に見せつけていたが、
「それとこれとは―――」
「はいはい。座って見てて」
装置が動き出した。
少女の目が開く。
その瞳は髪と同じ青色をしていた。
突如、火花が装置から飛んだ。
溶液が泡をたて容器からあふれ出す。
「ほれ見ろ、言わんこっちゃない!」
「あー、そういう仕様みたい。装置の構造上広さが取れなかったみたいだからオーバーフローする前提。
火花は……長い間放置されてたし、埃でも詰まってた?」
少女がピクリと体を震わした。
「今のが心臓が動き出した証だってさ」
マオが機械のツマミを操作しながら答える。
ガラス越しに少女と目が合った。
その目に写るのは畏怖。
少女のではない。
これは俺のだ。
…俺が?
怖がって、いるのか?
いったい、どうして!?
さっきまで何ともなかったのに!?
そこに生命の誕生なんて感動なんてなかった。
あるのは、禁忌。神の領域を踏みにじることへ恐怖だった。
やがて装置の揺れが大きくなりガラスに亀裂が走った。
「そこにいると危ないよー」
声が聞こえたが、足がくすんで動けなかった。
少女の口から空気が漏れ、もがき出した。
「おい! これ苦しそうだぞ!」
「外の環境に体が対応しようとしてるからだってさ!」
なんであいつは呑気に機械をいじっていられるんだ?
俺がおかしいのか?
脳に渦巻くのは背徳感。
胸をつつくのは罪悪感。
気づけば装置から煙が出ていて、辺りに放電していた。
マオは機械をいじっている。
残りのメンバーはすでに廊下にいる。
「―――――――――!」
何か聞こえはした。
しかし俺は装置の前から離れられなかった。
ガラスが割れて辺りに飛び散る。
大きな音がした。
何かがちぎれるような大きな音が。
暗転。
水の滴る音。
ガラスを踏む音。
俺は慌てて懐中電灯を点ける。
小さな光が照らすその先に映る青。
装置の中にいた少女が目の前に立っていた。