2 有紀
どう第一声を上げるかなど、こーいった状況偏差値0の僕にわかるわけでもなく
とりあえず普通に接してみることにした
「いーとこあるね。有紀」
「何で?」
有紀は本当にわからなそうに返してきた
何でわからないのかが僕にはわからなかった
「え?だってソージをかなと一緒にさせてあげたんじゃないの」
僕がそういうと、有紀は「あっ、そーね」と軽く驚嘆の声を上げた
「違ったの?」
「うん。ちゃんと、ゆらに用があったんだ」
「へー。何だろ」
僕が不思議そうに言うと、彼女が口にするのは思いもよらない言葉だった
「ちょっと、彼氏になってくれない?」
「は?」
「あ、ちょっとっていうのが気になった?」
「そこじゃねーだろ!」
僕たちはテンポのいい漫才を繰り広げた、って
「どーゆーことだよ。彼氏?」
「いやあのね・・・・」
そういって彼女は自分の言葉足らずを謝るかのように説明し始めた
話を聞くと、なんとありがちな話だった
今の彼氏との関係を断ち切るべく、僕に彼氏のふりをしろということ
「なんだーそんなことか」
「期待したの?」
「いや別に。でも、いきなりあんなこと言われたら普通は告白と思うけどな」
「ハハッ」
この「別に。」は、本当に強がりなんかではない
このときは、現実味のない話だと思っていた
その後、しばらく他愛もない話をしていて、そろそろ門限だ、という時間になった
僕は話を本題に戻した
「んで、いつすればいいの?」
「何を?」
「彼氏ごっこ」
「あー。うん。明日」
「・・・・マジで?」
思った以上のハードスケジュール
「心の準備が・・・」
「あ、11時に駅ね」
僕の主張は、見事にかき消された
「わかったよ・・・。」
「お願いね。あ、後髪の毛ダサいから切ってくれない?」
「ええーっ!」
主張が掻き消されたどころか、僕の象徴とも言えるヘアスタイルを否定された
さっきはやんわり立ったけど、今度ははっきりと
「それはヤダ」
「お金は出すから」
「当たり前だろ!ってかやなんだよ」
「えー困る」
「俺のほうが困る!」
「ショートにしたらイケメンかもよ?」
「かもってなんだよ!」
「イケメンイケメン。断言するよ」
「絶対違う・・・気が・・・」
といいつつも僕は、押しに弱過ぎる体質なので
「そーなのかなー・・・」
と、思わず思ってしまったりする
「そーと決まったら、美容院予約しなよ。行き付けの美容院駅前のナントカってとこでしょ?あたしも一緒に行くから。9時半に予約して」
「わかった・・・。」
僕は携帯電話を取り出し、「木村さん」に電話をする
行きつけの美容院のかかりつけの美容師さんだ
「あーゆらりくーん?予約?」
「はい。明日の朝、9時半平気ですか?」
「早いなー。急ぎ?」
「結構。すいません」
「じゃー行くわよ。了解」
「すいません。ほんと」
といって電話を切った
「へーきだった?」
一部始終を見てた有紀が話しかけてきた
「うん。ナントカね」
「ありがとう。じゃあ明日ね。」
そういうと有紀は手を振りながら帰っていった
嵐が去った後のような気分だった
実際に嵐に逢ったことはないが
僕は気持ちの整理をすると、妹を探しに喧騒の中へ入り込んだ