1 奏司
「あら。いっちゃった」
「いっちゃいましたね。」
「彼氏・・・でしょ?」
「たぶん。自信なくなりましたね」
うちの馬鹿妹は、あろうことかボーイフレンドの坂本君を置いてどっかいってしまった
ひょっとしてこれ
すごい気まずくなるのでは?
という予想とは裏腹に、なぜか話は盛り上がった
僕と坂本君の音楽の趣味が見事にぴったりと重なった
洋楽のロックも有名どころは聴くけども、邦楽ロックがメイン。しかも、一癖あるヤツ。
こんなにピンポイントで重なる人とは初めて出会い、そのまま1時間くらい話した
すっかり仲良くなった僕らは、お腹が減ったということでいろいろ屋台を覗きに行って
僕は焼きそばを、彼はじゃがバターを食べた。ちなみに僕がおごった
「あーおいしかったっす。すいません。」
「いいよいいよ。」
彼は何度も何度もお礼を言ってくれた
あんまり遠慮はしないけど、お礼はきちんとするやつが、僕は一番好きだ
その点でも坂本君は、見上げた中学3年生だと思う
そう考えると、ひとつわからないことがあった
思い切って、質問することにした
「ねぇ、何で妹なんかと付き合おうと思ったの?」
僕がそう聞くと、彼は顔を真っ赤にしてニヤニヤし始めた
「それって、言わなきゃだめっすかね?」
「一飯の恩ってヤツじゃね?」
「それはセコい!」
こういうやり取りも普通にできるようになったところもすごい。
まだ出会って1時間半もたってない
彼は散々下を向いて悩んだ後、それでも恥ずかしそうに言い出した
「俺のほうから、告白したんすけどね・・・」
「ええーーーっ!」
僕は思わず噴出してしまった
僕は勝手に、妹が告白したもんだと思っていた
坂本君は背も175〜6とまぁまぁ高いし(僕よりは少し低いが)
がっちりしていて、顔も結構イケメン。白い歯が素敵な15(もしくは14)歳だ
それに比べてうちの妹なんか、何のとりえもないと思う
料理とサッカーぐらい?
頭も悪いし、顔もかわいいと思ったことは一度もない
「坂本君センスないね」
「そんなことないっすよ。後、呼び方ソージでいいっすよ。漢字は奏でるに司るです」
「何か指揮と楽器を両方やってそうな名前だな」
「・・・それ、ちょっとおもしろい。」
彼は笑いをこらえるため持参のペットボトルに入ったお茶を飲んだ
そして、何事もなかったようにまた続けた
「サッカーしてるとことか、問題といてるとことか、すげーかわいいんすよ」
「んなことは絶対にないね」
「俺テニス部だったんですけど、グラウンドのほうを遠目に見てて、ずーっとかわいいなーと思ってたら今年おんなじクラスになって、名前知って、隣の席になったときはもうさいこーでした」
「しかも一目ぼれか。しんじらんね」
「クラスでも結構かわいいほうだと思いますよ。妹さん」
「そーかな・・・。」
僕は妹の顔思い浮かべてみる、が、改めてその可能性を否定する
「ちなみにいつも妹をなんて呼んでるの?」
僕はニヤつきながら聞いた
「えーそれも言わなきゃだめっすかね。もーホント、300円自分でだしゃよかった!」
「ほら、早く言っちゃえよ。」
というやりとりをいていたら後ろから衝撃がいきなり来た
膝が入った
思わずのけぞると
「男二人でかなしーねぇ。何してんだよ」
と妹が馬鹿にした目でこっちを見てる
本当に腹が立った
「おまえっ・・・」
僕がそういった瞬間に妹が間髪いれずに
「かえろーぜ!どうせやることもないんでしょ」
と言い放った
僕はついソージを見た。かなり、悲しそうな目だった
「そりゃねーだろ、お前な・・・」
と僕が行った瞬間に、今度は有紀が間髪いれずにしゃべりかけてきた。あんまりこれ、いい気分じゃないね
「ちょっとその前にゆらを借りるね。かなはそっちの子と仲良くしときな」
「はーい。じゃ坂本君、行こうよ」
妹が彼の手を引っ張ってどんどん僕らとの距離が広がっていく
「あ、本当にありがとうございます!」
突然振り返り、大声で叫んだソージ
お前、本当にいいやつだよ
あれ、でも
これで今度は有紀と二人っきりになってしまった