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まだ続きそうです。

「清、おかえりなさい。相手の方はこの通り、もう皆さんみえてますよ。思ったより可愛らしいお嬢さんで、母さんびっくりしたよ。」

サッと立ち上がった義母が、男の人の上着を脱がしてやり自分の隣に座らせた。

「言われなくても、お母さんわかりますよ。父さん、ただいま戻りました。」

「ん。」

「はじめまして、えっと、・・・りん子さんでしたね。もう紹介はされたかと思いますが、僕が清です。よろしくお願いします。」

「は、はい!あの、りん子です。こ、こちらこそよろしくお願い・・・します。」

男の人はやはり清さんだった。まあるいどんぐりのような目が印象的な人よ。笑うと本当にあたりがふんわりと和らぐの。

きっと私はぼんやりしているようでいて、その実緊張していたんだと思う。清さんの笑顔みて、そして挨拶をして。スゥッと肩の力が抜けたのね。初顔合わせに来てはじめて、地に足がついた気がした。

それまで余所事のような気になって、傍観者みたいにただぼぉっと座っていたのが、あぁ、私はこの今初めて会った人と夫婦になるんだわって事が現実味を帯びてきたんだと思う。

「やぁ、これで皆揃いましたね。こうしてみるとなかなかお似合いじゃあないですか。ねぇ、奥様方!」

「そうですねぇ、りん子には勿体無い位に立派な息子さんで。ねぇ、あなた。」

「ん?あ、ぁあ、うん、」

「祝言はやっぱり大安を選びますかな、こういう時だからこそ、縁起を担がないと」

仲人さん夫婦の勢いのある進行で、一気に祝言の段どりまで進みかけたその時。ニコニコ笑って見守っていた清さんが、言葉を発した。

「その事なんですが」

一斉に清さんに視線が集まる。清さんは笑みを崩さず、話し続けた。

「祝言の事なんですが、少し待って頂きたいのです。」

「祝言を?少し待つって・・・清さん、りん子さんでは駄目って事?」

「清、皆さん清の為に来てくださってるんだぞ。」

「その、りん子になにか問題が、あるのでしょうか」

仲人のおばさん、義父、お母さんが口々に言い募るのを清さんは制しながら続けた。

「そういう事じゃ無くて。僕はりん子さんが嫁に来てくれたら良いと思ってますよ。おじさん、おばさんの推薦もあるし、何より可愛らしい。」

「じゃあ何故祝言は上げないんだ?」

お父さんが始めて喋った。幾分か憤りを感じさせる声で。なんとなく、私の事を思ってくれているのがわかってこんな時だけどほっこりする。正直、初めて会った清さんに可愛いって言って貰えたことよりも。

「僕は皆さんが思っているより、ずっと結婚に浪漫を求めているのです。こうやって初めて会って何日かで祝言あげて夫婦になるなんて、お国の為とは言えあまりに義務的じゃあないですか。結婚する為に出会ったとは言え、せっかく夫婦になるのですからまず知り合い、お付き合いをし、恋愛をしてから夫婦になりたい。」

「恋愛って、清・・・」

「お国の大事に、何言ってるんだお前!」

「こんな時だからですよ、お父さんお母さん。僕は日本国民として、その時が来たら命を賭して国を守る覚悟です。だからそれ以外は自由にしても良いと思いませんか?幸い、お父さんお母さんが学を付けてくれたお陰で隊での立場も良く、直ぐにどうこうはありません。結婚は一生に一度しかないのだから、僕はちゃんと恋愛してみたい。」

駄目でしょうか、と小首を傾げる姿に仲人さん、義父母、お父さんお母さん皆揃ってぽかぁんとした表情だった。

今でこそ、恋愛結婚は当然の事。でも当時は祝言で初めて会うと言う事も珍しくなかったから、清さんは凄く変わっていたんだと思う。もしくは、進んだ発想の持ち主だったか。

「皆さん、ご意見無いようですけど、りん子さんあなたはどうですか。」

「わ、私ですか?」

「そうですよ、だってお嫁さんに来るのはあなたですから。どうです、僕とお付き合いから始めませんか」

にっこり、清さんが笑う。私は混乱していた。だって雪ちゃんも、他の誰もこんな事言われたなんて言ってなかったもの。てっきり数週間後の祝言を良い渡されるだけと思ってた。


でも。


「わ、わかりました。」

「りん子??」

「私は清さんと、恋愛して結婚したいと思います。」

「何言ってんのあんた!」

お母さんが外聞も無く大声を上げたけど、そんなことはお構いなしに清さんは大きくうなずいた。

「わかりました。では行きましょう。」

「どこへ?」

「恋愛するのだから、まずはお互いを知らなくては。当事者同士気兼ねなく話しましょう。なに、少し浜辺を散歩するだけです。さぁ。」

「は、はい!」

立ち上がった清さんにつられ、私も急いで立ち上がり、清さんの後を追った。


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