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短編にしようと思いましたが、初投稿なので勝手が分からず。数話にわけます。

お国の為と言いながら 私の脳裏には ただ あなたの御顔しか有りません。

願わくば 一度で良い あなたと二人 誰に構うことなく 寄り添って あの懐かしい浜辺を歩きたかった。一度で良い、あなたをこの胸に抱く事が出来たなら 私も なんの苦もなく果てる事が出来たでしょうに。

否、我儘は言いますまい。 明日 私はこの身を呈して日本國天皇閣下万歳と叫びながら米国敵機撃墜致します。

お国の為、町の為、家族の為にお役目完遂致します。

しかしあなたには覚えておいて欲しい、私が日本を守るのは本来ただただあなたの為なのです。

先の約束をしながら、先に逝く私をお許し下さい。

あなたの幸せを心より願っております。


我が妻 りん様へ 清より




一生に一度の恋をした。


一生に一度きりと決めたから、貴方の元に行くまではずっと想っていても良いですよね?




夏が来れば思い出す、とはよく言ったものね。

夏を感じるたびに私の思い出は重く、苦しくなのに甘くーー私を締め付ける。

私の家は弟3人、妹1人に両親の7人家族。金山に勤めてるお父さんの給料じゃあ毎月カツカツの生活だった。

女学校とか、密かに憧れてたけれど勿論行けるわけなくて。尋常小学校卒業してからは家事手伝いしながら地元の旅館の仲居をしだした。

私の地元は兎に角田舎で。何もないけど、何でもあるところ。

山もあり、海もあり、温泉もあるから昔から観光地だったんだよね。

仲居になりたての頃は繁盛していた旅館だったけど、段々なんだかお客様が減ってきたな〜、と思っていたら、あの戦争がはじまった。

「ねぇちゃ〜ん、腹減ったよ〜。」

「バカ充、ねぇちゃん今日の朝メシもお前に半分やってたろ!」

我慢しろよ、と長男の友一が次男の充をこずく。ごめんよ、と言いながら充は我慢しようとして、しきれずにしゃくり上げだした。

戦況は良いってラジオは言う。

でも食事は配給制になり、その配給も量が少なくなっていた。

「ごめんね、友一、充。もう少ししたら芋も取れるからね。」

金山勤務のお父さんは足を少し悪くしていたせいで徴兵はなかったけれど、その代わり周りからのやっかみはすごかった。

男手があるのだから、と配給を少なくされることもあったし地区の仕事を多く振り分けられることもあった。

周りみたいに畑を作ろうにも土地がない。

友一、充は勿論妹の菊子も毎日毎日お腹を減らして、痩せこけていた。末っ子の茂に至っては泣く力すら無くなってきた気がする。

困り果てていたその時、私の縁談話が持ち上がった。

「りん子、あんたをもらいたいって家があるんだけど」

「・・・え?」

「まぁ、少し早い気もするけど、こんな時だし。働き者のあんたに是非って。相手の人、学校行ってたけど今度兵隊さんに行くんだって。どうする?母さん、良い話だと思うんだけど。」

ようは兵隊さんになる前に《お国の為》子供を残すためにする結婚、だ。

当時はよくある話だったけど、私も16になったばかりだったからきちんと適齢期ってわけではなかった。でも親がその話をするってことは、この結婚は必要なんだってこと。私が兵隊さんと結婚すれば、少しは我が家に対する世間からの風当たりも良くなるかもしれない。

「良い話だね。私で良かったらお嫁に行くよ。」

私の言葉にお母さんはホッと安堵し、お父さんは湯飲みに入れた白湯をまるでお酒を飲むかのようにくいっと飲み干した。


初顔合わせはそれから数日後。相手の家によばれて、両親と3人で行った。

できるかぎりこざっぱりした格好で行ったけど緊張した。相手の家は小さいけど、農家でしっかりしたお家だったから。

義父は温和そうな人で、義母は…まぁ、これから息子が兵隊に行くのに来る嫁が小娘じゃあピリピリしたくもなるわよね。

「今日は皆さま良く集まってもらって。お日柄も良く二人の門出を祝っているようですねぇ。安西んとこの清君は、兵隊さんになるもんで遅れて来ますが、なぁにこんな良い娘さんならまず間違いないでしょう。」

仲人をかってでた浜区の魚屋のおじさんが、場を和ますようにガハハと笑うと、母親達が喋り出す。

・・・ウチの子は、まぁ引っ込み思案ですけどね、家の事と弟妹の世話くらいはさせてきましたから・・・

・・・農家の事は追い追い覚えてもらって、可愛らしい娘さんで・・・

・・・丈夫が取り柄で・・・

当事者もいないのになぁ、話だけ進んじゃって。まぁ、隣の雪ちゃんもこんなもんだって言ってたっけ。

そんな事を思いながら、自分の話がされているのをぼんやり眺めていた。

当時は珍しくなかったのよ、こういう結婚。だって若い男の人は兵隊にとられて忙しくしてたんだもの。

そんな時、ガラッと玄関の引き戸が開く音がした。

「遅くなりました。ただいま戻りました。」

どうやら当事者が帰って来たらしい。

振り向くと、制服を着たヒョロリと背の高い男の人が、こちらを見てふんわりと笑った。


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