第6話 contact ~接触~
《登場人物》
長宗我部 博貴 警部 (長さん)
入船 宗次郎 警部補 (ボウラー)
河瀬 憲仁 巡査部長 (和尚)
古村 俊 巡査部長 (シルバーマン)
夏目 真彦 巡査長 (先生)
田中 悠 巡査長 (アンジェリーナ)
佐藤 蒼太 巡査長 (ブラッド)
― 40分後 午後2時 松谷市 スーパー駐車場 現場 ―
長と先生は、共に現場となったスーパー駐車場に来ていた。
周りは、《KEEP OUT》という黄色いテープが現場の前で巻かれ、警察関係者以外が入ってこれないようにしている。
現場になった所は火炎と爆風のおかげで、アスファルトにタイヤ焦げとガラス破片が散りばめられ、現場は黒と灰色が混ざる豪華演出。
刑事2人にとっては、単なる事件現場に過ぎないが。
「あーあーあーあ。こりゃ、派手にやったな」
「ですね。警部。事件当時の爆破も、派手にやってくれたですよ」
長はふと思ったことを口にした。
「それにしても電子警察の装備ってかなり優遇されていないか?」
「警察庁と国家公安委員会が設立した部隊ですからね。そりゃ、装備が揃ってないとダメなんでしょうな」
「なるほどね」
改めて自分の所属する部隊について警部は理解した。2人が現場で捜査をしている途中で、長のスマートフォンからバイブレーションを感じ、ズボンのポケットから取り出す。
「おっと」
相手は、河瀬からだった。
「はい。長宗我部」
『私です。河瀬です』
長は、頭を軽くスマフォを持っていない手で書いている。
「和尚か? なんかつかめたか?」
シルバーマンが運転する車の中で、河瀬は助手席に座り、車の振動を感じながら、電話を持ち、手帳で内容を確認しながら、電話をしている。
『はい。松谷大の八嶋教授に話を伺ってきましたが、どうやら、電子ロックの暗号と爆弾の起動暗号は同じにセットされてあった可能性が高いですね』
「やはりか」
『ええ、もしかしたら、他のクラウドが被害に及ぶ可能性があるかもしれませんね。一応、被害者のクラウドが移動した形跡等がないかあたってみます』
「了解。気をつけてな」
長は、通話を切り、そのままポケットに仕舞う。
やれやれと、長は現場を見渡していると、再び仕舞ったスマフォから通話着信の振動が発生する。
「ん? またか?」
おもむろにそれを取り出し、着信の相手を確認した。相手は、誰も分からないフリーダイヤルの電話。
通話ボタンをおして長は、スマフォを耳を当てた。
「はい」
すると電話越しから明るめで若そうな男の声が長の耳に衝撃を与える。
『やぁ、こんにちは。あんた。刑事さんだろ?』
長は、その一言で、電話の相手が厄介な人間もしくは犯罪者の可能性が高いと断定する。
「よく分かったな?」
『だって簡単だよ。調べたからね』
「先生」
長は、小声で現場を調べている先生を呼ぶ。
警部の異変を感じた先生は、ゆっくりと近づくと、長はハンドサインで、《注意、あたりを見回せ!》と示し、夏目は、首で軽く縦に振って反応し、辺りを見回していく。
「どうやって調べたんだ?」
長は相手と会話をしながら、近くに電話の相手がいないか駐車場を見回す。
辺りは買い物客だけ。
電話のスピーカーから聞こえる。
『今も見えているし、それにその姿だったら誰でも刑事だってことはわかるはずだよ』
この言葉を聞いて長は、1台の監視カメラに目をつけた。
カメラのレンズはこちらを向いている。長宗我部のコートのジャンパーに、英語で大きく《POLICE》と黄色で表記されていた事でどうやら相手はそれを理解した模様。
「なるほどね。それで、何の用だ? 一台目の爆破から見てかなりの馬鹿だろ?」
長なりの挑発。それは犯人を逆なでしかねない言動だった。
しかし、電話の相手は、無視して話を続ける。
『1台目はデモンストレーション。今から2台目を爆破するよ』
「何!?」
『だけど、単に2台目をそのまま爆破するのは面白くないしさ、電話したわけ。あ、そうだ! 刑事さん。ゲームしようよ』
電話相手からの言葉を聞いて、長は、電子警察の車両の近くに移動し、手帳をボンネットに置いて、先生にも分かる様に書き記していく。
《犯人は声からして、10代後半から20、30代の可能性がある。現在、犯人は2台目を爆破するというメッセージ、和尚達に連絡を。くれぐれもバレない様にな》
夏目は長の記したメモ書きを理解し、長から離れて、人を探す素振りをしながら、監視カメラには死角となる場所に移動し、他のメンバーに連絡を掛けた。
その間にも長と電話相手の会話は続いている。
『ものすごく面白いゲームだよ。あ、まだ名前言ってなかったよね。そうだなー。爆弾の映画にちなんで、ペインと呼んでよ』
「ペイン? 変な名前だな」
長の皮肉に電話相手は平気に話していく。
『刑事さんの名前は、あっ、調べちゃった。長宗我部 博貴警部か。じゃあ、長さんだね』
「何で、そうなるんだ?」
ため息を着き、若干、嫌そうに長は返した。
『えっ? 嫌なの? まぁいいや。めんどくさいし。それに早くゲームをスタートさせないと、爆弾が火を噴いて一般人達が大変な事になるしね』
「お前。正気じゃないな」
『褒め言葉ありがとう。でも、何も出ないよ。残念ながら、さて始めようか?』
爆弾犯と電子警察の対峙。
長は言葉押しのペインに対して、間に質問を入れた。
「その前に、なんでこんな事を?」
電話越しでため息が漏れる。
『やれやれ。分かってないなぁ。長さん』
「何?」
『人生をスリルに味わい、楽しむもの。爆弾って綺麗だよね。そして巨大な力に自分の知識と力で挑むゲームと同じさ』
分かりづらい表現に長自身は、苦戦しながらもメモで目的の内容を要約した。
『さて、ゲームのルールは簡単。時間内に、爆弾を見つけて解除することだね。爆弾は2つ。1つは、本物。もう1つは、ただのお祝い用のクラッカーだね。今から5時間後の午後7時に止めなければ……』
「どうなる?」
長は、黙って彼の話を聞いている。すると大きな声でペインは叫ぶ。
『ドカン!! はっはっは。驚いた? ごめんごめん』
内心、犯人に対するいらだちと怒りを5文字で警部は表現した。
「ふざけるな」
ペインは長の言葉に対して聞く耳を持たず、続けていく。
『あ、そうそう。本物の威力は、1件目で吹き飛ばした奴よりちょっと威力が大きいから気をつけてね。そうだなぁ、ビルのフロア1個分は、吹き飛ぶんじゃない?』
「おい! 聞いてんのか!?」
『ああ、聞いてるよ。そういやヒントが欲しいよね? いいよ。ヒントはね。赤い箱に包んでるよ。あ、これだけじゃアンフェアだね。赤い箱の居場所については、メールで地図を送るから探してね。んじゃ、ゲームスタート!』
「おい!」
通話は切れ、ペインとの通話時間が表示されている。そのあとですぐメールが届いた。
宛先人不明のアドレスと共に1枚の大きな松谷市の地図で、ある街に大きく赤く丸を描かれている。その町の名前は、一番町、二番町、三番町、千舟町、花園町。愛媛県庁や松谷市役所も赤い丸の中に入っている。この赤い丸の地帯は、いわゆる松谷市の中枢であり、県内最大の人口密集地として有名な場所である。
心の中で長は、ペインが言っていた爆弾の大きさと地図の情報を脳内で広げながら考えていき、最悪のケースを見出してしまう結果を生む事を理解した。
「くそっ!」
奴が本気ではない事を地図で知り、急いで長は、スマフォのテレビ通話で電子警察の副隊長に電話をかける。
「俺だ! 時間がない」
電話の相手は、入船。
『どうしたんだ? 一体』
「爆弾が、仕掛けられた! いま地図を送る。急いで規制線と非常線をはってくれ!」
『爆弾!? まさかクラウドの件と……』
「最悪、松谷市の中枢が吹き飛ぶ可能性が高いかもな」
事の重大さを瞬時に判断したボウラーは、長に向けて返す。
『すぐに準備する』
「それと、ブラッドとアンジェリーナに調べて欲しい」
『なんだ?』
「電話の相手を調べて欲しいんだ。あのカップル、人のスマフォから情報拾うの得意だろうからな」
遠くからブラッドとアンジェリーナは長の言葉を聞いて、一言。
『ああ、任せてよ。すぐにでも相手を見つけ出してやるさ!』
そのあとで続けてアンジェリーナも返す。
『ええ、もちろんです。少々時間はいただきますよ』
そしてハッカーのお決まり名台詞。
『俺達は、不死身のコンビ!』
ハッカー組の相変わらずな受け答えを聞いて、長自身、少々、心配に感じながらも、長なりに返す。
「俺たちで奴を阻止する。捕まえるぞ!」
通話をしている時に夏目が走って、長の方に戻って来ている。
「一度、切るぞ」
『了解』
スマフォの通話を一度、切り夏目に呼びかけた。
「先生! 乗れ! 急ぐぞ!」
長は車に乗り、シートベルトを締めて、エンジンキーを差し込む。
言われたとおりに、急いで先生は、助手席に乗る。
「奴は?」
「最悪だ。俺達に勝負を仕掛けてきた」
夏目は長の言葉を理解した。
「2つめの爆弾というわけですね」
長は、ハンドブレーキを解除してアクセルをゆっくりと踏み、駐車場から車を出していく。
車はゆっくりとスピードを上げて走り出す。
「しかも2択だ。本物と偽物。どうやら、大変なことになってきたぞ」
2人を乗せた車は、ペインが送ってきた赤い丸の地点を向かうべく。国道11号線を走る。
タイムリミット19:00まで ―― 残り 5:00 ――
第6話です。爆弾犯の登場ですね。次回はどんな展開になっていくかお楽しみに!!
話は続きます。